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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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四話 ミライ(10)

「日本には八百万の神がいて、物にも魂が宿ると言われていますが、面白いですね。あなた方が情報構造体の考えに、その若さで行き着いたのは、日本という特殊な宗教観の力もありそうだ」

「それは間違いないと思います」


事実、私達が幼い頃から神社に白龍が浮かんでいるのが視えたことが、私達の研究に大きく影響を与えている。


「その四角い箱が、クロウリーさんの研究室の解析用人工知能ですか?」

「はい、そうです。あなた方のミライ君とは違い、ここのものは解析に特化させています」


――うちの子も解析力、凄いんだからね。


という言葉を飲み込み、人工知能を観察する。

この子には、やはり情報構造体は視えなかった。


次はクロウリーさんに案内されて、一階の先程見た礼拝堂に向かう。もちろん人工知能やEEGデバイスも一緒だ。


「今度は研究者が祈りますので、それを視てください」


研究者が跪いて祈り、光の粒子が出る様を視る。白龍がモヤにしか視えなかった人が、腕を掻いているのが横目で見えた。

水晶の時と同じ様に、絵としても表現してクロウリーさんに共有する。


「(何も視えませんでした……)」


という小さな声の報告も、インコはしっかり翻訳する。


周りの研究者の表情が、少し険しくなる。協力者と言っていたが、次からは呼ばれなくなるかもしれないと、何となく思った。

霊視能力はある程度鍛えられる。多少才能がある人と、既に視えている人がいれば、視える人がどう視えるかを伝えることで、視えるようになったり、視え方がより鮮明になったりする。

しかし、それはデメリットと表裏一体で、本来は視えなくてもいいものが、視えるようになるということだ。私はおばさんのお陰で、霊視のオンオフを切り替えられるようになったが、目の前にいる彼女に霊視能力の強化の仕方を教えたところで、生活に支障が出てしまうだけになる。

だから私は、霊視能力の強化方法を知っていて、彼女が霊視能力の低さに困っているのに気がついても、方法があることすら伝えない。それが最善だからだ。


他にもいくつか実験協力をしている間に、あっという間に昼食の時間になる。ベルが鳴ると、皆があまりに早く動き出すので驚いてしまった。


「今日は食堂で食べてみましょうか?」


クロウリーさんの提案で、なし崩し的に研究者と共に食堂へ行く。

食堂は研究施設の一階に作られていた。

広い空間に、白い四角のテーブルがずらっと並んでいる。トレーを持って研究者と一緒に列に並んでいると、悟たちがテーブルに座るところが見えた。

合流すると、悟が安心したように顔を綻ばせる。


研究室ツアーのガイドは、薄々察していたがリーダーであるケラーさんが直々にしてくれたようだ。悟はさぞかし震えただろう。一方、小林さんはケラーさんと打ち解けたようで、インコを通じて楽しそうに話している。


――流石、小林さん。人心掌握に長けてますわね……。


感心していると、隣でクロウリーさんが「あんなに楽しそうにしているケラーは、久しぶりに見ますね」と驚いていた。


今日の昼食は魚のムニエルだった。塩気がちょうど良くて美味しかった。優希は気に入らなかったのか、全然食べてくれなかったので、非常食の子供ご飯セットをあげる。

黙々と食べていると、ミライがパンを千切りながら私を見た。


「……お母さんは、なんで霊視装置を作ろうとしてるの?」


唐突な質問に驚く。クロウリーさんも耳を傾け始めたのが、横目で見えた。


「うーん。私の頭はおかしくないって、世界に証明したいっていうのが理由かな」

「おかしくないって、病気とかって意味?」

「そう。淑華お姉ちゃん、覚えてる?」

「うん、覚えてるよ」

「悟と淑華お姉ちゃんに会うまでは、お母さんはずっと嘘つきと言われてたの。それがずっと悲しくて、悔しくて、孤独で寂しかった。それで、悟に誘われたの。霊視装置を作ってみようって。それが始まり」

「きっかけは、お父さんなんだ」

「そうなの。誘われてからが勉強漬けで辛かったけどね」


私の視線に、悟が笑みで返してくる――そこは、笑うところではない。


「あなたの素晴らしい学力は、努力の結晶だったんですね」

「努力というか、ほぼ強制でしたけどね」


私がじっとりと睨むと、悟は素知らぬ顔で優希の顔を拭く。


「あなた達と出会えたのは、悟さんのお陰ということですね」


クロウリーさんが少し口角を上げた。いつもより、笑みがふわりとしている気がした。


食後も、色んなパターンで脳波の検出を行った。

流石にEEGデバイスを頭に着けたまま街に出るのは恥ずかしかったが、街の人は慣れた光景らしく、特に視線を集めることはなかった。


研究室に戻ると、クロウリーさんが私に、彼の前にある椅子に座るよう促す。

指示のまま座ると、彼は重々しく口を開いた。


「霊視能力者は、人の過去なども視える人がいると聞きます。あなたは視えますか?」

「――」


返答に窮する。学生時代の好奇心と、変なベクトルの努力で、そういったものも視ようと思えば視えるようにはなっていた。

クロウリーさんは、私の迷いを暴く。


「即答しないということは、視えるということですね?」


奇しくもEEGデバイスを装着したままだった。嘘も検出できてしまうだろうと、諦める。


「少しだけです……」

「では、私の過去も視えますか?」

「多くの人がいる中で話してもいいんですか?」

「似たり寄ったりな過去を持つ者も多いです。大丈夫ですよ」

「……わかりました。試してみますね」


あまり気が進まない中、クロウリーさんの透視を始めることにする。私の不安を察したのか、ミライが私の手を握ってくれる。その温もりが、少しだけ私の心を落ち着かせてくれた。

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