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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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四話 ミライ(9)

三日目はクロウリーさんから事前に依頼があった通り、研究室に向かった。


研究室がある建物は孤児院の近所にあった。三階建ての白いコンクリート造りで、石造りが基本の街の建物とのギャップが、余計に違和感を作り出している。


入口には警備員が立っていたが、クロウリーさんは顔パスで入っていく。顔パスのクロウリーさんに連れられていた私達も、特に何も言われなかった。


一階は壁の一部がガラス張りで明るく、子供向けのキャラクターが貼ってある部屋も見えた。真っ白な壁などで構成されていて、近未来感がある。もしくは病院。

奥には礼拝堂らしき場所もあり、そこで祈りの実験もされているのだろうと推測できた。


建物内は恐ろしいほど静かで、聞こえてくるのは私達の足音や衣擦れの音ばかりだ。

皆が動くのをやめてしまうと、心臓の音まで聞こえてきそうだ。


「二階に研究室があるので、二階に向かいます」


そう言ってクロウリーさんは、エレベーターのカードリーダーにカードをかざす。


「建物内の移動は基本的にカードが必要になります。トイレ等へ移動する際は、先程お配りしたカードをかざしてくださいね」


私は首に掛けたゲスト用のカードを見つめる。


――ゲストを弾くようにしたら、外に出られなくなるよね……?


チン、という音がエレベーターホールに響く。

同じく真っ白で目が痛くなるようなエレベーターに乗り込むと、すぐに二階に着いた。


「この建物は真っ白なんですねぇ」

「アイゼンベルク様が最新鋭をイメージして作られました」

「なるほど……」


「こちらがチームでの共同研究室になります」


自動の横開きドアが開くと、中には白衣を着た人々が八人程度と、島外の人らしき男女が三人いた。

皆そろって、貼り付けられたような笑顔で出迎えてくれた。


「コンニチハ、ヨウコソ」


たどたどしい日本語で出迎えられる。


クロウリーさんが皆それぞれ紹介してくれるが、私には人数が多すぎて頭に入らない。ケラーさんだけは認識できたけど……。やはりケラーさんは研究チームのリーダーだったようだ。


クロウリーさんの説明によると、白衣を着ていない三名は島外から呼んでいる霊視者らしい。いつもは月に何日か来てもらうのだが、今回は特別に検証のため来てもらったとのことだ。本当はあと数人いるが、今日は三名だけ来てもらったらしい。


小林さんと、悟と朋里、優希は研究室の見学ツアーに行き、私とミライはクロウリーさんの元に残される。

悟が心配そうな視線を寄越したが、ミライが深く頷いたのを見て、口を強く引き結んでいた。


「今日ご協力をお願いしたいことはいくつかありまして、まずはこちらの霊視者達との脳波の比較をさせてください」

「わかりました。何を視ればいいですか?」

「まずは石を視てもらいましょうか」


そう言ってクロウリーさんに引き連れられ、別室に行く。別室には、新生児ほどの大きさの水晶の原石が鎮座していた。紫色のオーラを纏い、そのオーラが炎のように静かに揺らめいている。ピィィィン、という音も発していて、耳が痛い。

水晶の正面に、四つのEEGデバイスが接続された四角い機器が置いてある。その機器は別のPCに接続されており、PCは画面と繋がっている。


皆に見つめられる中、クロウリーさんに指示されるままEEGデバイスを装着する。そっとミライが手を繋いでくれる。温かい手に少し安心したが、検査が始まったら影響が出るので、すぐに手を離した。


「ありがとうございます。検出できました。こちらの紙に、視えていたものを表現していただけますか?」


水晶が正確な線画になった塗り絵の紙を渡される。他の人に倣って、EEGデバイスを着けたまま、渡された色鉛筆で表現する。

四人のイラストと出力結果を比較したクロウリーさんが唸った。他の研究者もイラストや出力結果を回し見する。なんだか恥ずかしい。


「あなたの脳波は、他の人より強く出ているようですね。あと、他の人にはない部分でも反応がありますが、何か心当たりはありますか? イラストを見た感じだと、違いはなさそうですが……」

「あー……なんか、音が出てる気がします。『ピィィィン』って。少し耳が痛いです」

「ほう」


クロウリーさんが興味深そうに目を開くと、他の人に英語で何やら問いかける。皆、首を横に振った。


「音は、あなたにしか聴こえていないようですね。しかし、これは興味深い……情報構造体は視覚だけではなく、聴覚にも影響がある可能性を考慮しなくてはいけない、ということですね」

「こちらの研究室では、フィルタリングしていなかったのですか?」

「していませんでしたね。そもそも話題にも上がらなかった。協力者に聞いていれば違ったかもしれませんが、こちらが言わなければ報告もないでしょうしね……」


クロウリーさんは僅かに眉間に皺を寄せながら、腕を組む。


「そういえば、あなた方はどうやって霊視の際の脳波を拾っていますか?」

「えーっと、私達は……」


スマートフォンを取り出して、動画投稿サイトのアプリを開く。登録チャンネルから江島神社のライブ動画を開いて、クロウリーさんに見せた。

お姉ちゃんが江島神社の宣伝のために始めた事業の一つだ。視える人には視える、江島神社の上を飛ぶ白龍。何度かSNSでバズったりもしていた。今日もスピリチュアル界隈の人のコメントで賑わっていそうだ。


「空に何か見えますか?」


クロウリーさんはじっと画面を見つめた後、目を擦った。


「日本の神社と雲しか見えませんね」

「霊視ができる人は、この空に白龍が視えるんです」

「白龍?」

「はい。ドラゴンストーンに出てくる龍神様の、白い感じのものが浮いてます」

「ちょっとスマートフォンを借りていいかい?」


「どうぞ」と頷くと、クロウリーさんはスマートフォンを部屋にいる全員に回して動画を見せた。研究者が首を捻る中、やはり霊視者達は何かが視えるようで、面白そうに口を開いた。


クロウリーさんに紙と鉛筆を渡され、白龍を描く。


四人同時に見せ合うと、一人はモヤのようなもの、一人は蛇、最後の一人は私に近い絵を描いていた。


「(私は霊力が一番弱いのです)」


と、モヤを描いた人が言った言葉を、インコが伝えてきた。


「確かに、これは龍神様に似てますね。日本には実在していたんですね」

「実在と言っても、情報構造体ですけどね……」


クロウリーさんにチャンネルと探し方を聞かれたので、一応伝える。江島神社が変に目をつけられたら困るが、嘘をつくことはできなかった。

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