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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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四話 ミライ(8)

「子供たちは学校を卒業すると、島内に土地と職業を与えられます。エリート以上は大学に進学するために一旦島外に出ますが、土地自体は割り振られます」

「土地の持ち主が亡くなったら、どうなるんですか?」

「島のものに戻ります。基本的に、島から与えられた物は島の所有であり、生きている間だけ個人に使用権がある、という形ですね」

「じゃあ子どもは、両親が亡くなったら『実家』が無くなるんですね……」


「あぁ、そういうことですか」


クロウリーさんが小さく頷く。


「もし両親と暮らした家に戻りたいのであれば、その時点で自分に割り当てられている土地を返還すれば、使用権を移すことができます」

「あー、それは面白いですね」


小林さんが興味深そうに頷いた。


「では、別の土地が欲しくなった場合も、自分の土地と交換するか、使用権を購入する形になるんですか?」

「そうなります。基本的に、エリート層以外は複数の土地の使用権を購入できるほどの財産は持ちませんが……」


どうやらクロウリーさんは、この島でもかなりの富裕層らしい。この島では、知能そのものが大きな財産なのだ。


孤児院を出ると、馬車が待っていた。


「うわぁ!」


心底嬉しそうな朋里を先頭に、通気性の良い馬車へと乗り込む。寒さ対策なのかブランケットが用意されており、有難く優希と一緒に包まった。


「島の外周を、馬車で一周しましょう」


クロウリーさんの言葉を合図に、馬車がゆっくりと動き出す。舗装はそれなりにされているものの振動は大きく、じわじわとお尻が痛くなる。


「みんな、似たようなお揃いの服を着てるんですね」

「衣服も支給制なので、どうしてもデザインは似通いますね。職人の気分で柄が変わることはありますが、基本は同じです」

「日本の学校の制服みたい」

「確かに。制服と言えば、制服のようなものですね」


淡々と答えるクロウリーさんの服装は、島民のものとは明らかに異なっていた。島外で購入したものなのだろう。

そう考えると、クロウリーさんは島の人間でありながら、どこか異質な存在にも見えてくる。


時折、島の人と目が合う。

すると無表情から一瞬で貼り付けたような笑顔になり、手を振ってくる。その切り替わりが、妙に恐ろしかった。


街と島の外周を一周する頃には、外はすっかり暗くなっていた。

「寒いー!」と子供たちが叫びながら、私たちは屋敷へと逃げ戻る。


屋敷に戻ると夕食はすでに準備されており、温かいカボチャのポタージュを口にすると、思わずほぅっとため息が漏れた。


「おいしー!」


朋里がスプーンで勢いよくスープを飲む。


――カボチャのポタージュ。メニューに追加しよう。ありがとう、シェフ……!


客室に戻り、寝支度をしていると悟からチャットが届いた。

朋里と優希は疲れたのか、準備を終えるとすぐに寝落ちしてしまっている。

ミライも一緒に、不思議そうにチャット画面を覗き込んだ。


悟:インコに会話を聞かれてる。内密な話は、できるだけチャットで。


メッセージを見た瞬間、ミライが私の肩に止まっていたインコをそっと捕まえ、テーブルの上に置いた。

悟のインコも、すでにテーブルの上にいる。


茜:どうしたの?

悟:明日、研究室の見学が終わったら、明後日には帰国しよう。

茜:急だね

悟:嫌な予感がする。この島、どこかおかしい。


昼間の島巡りを思い出す。

悟ほど強い言葉ではないけれど、この島がかなり特殊なのは確かだった。


茜:分かった。小林さんにも相談しよう。


グループチャットで相談すると、小林さんも悟と同じ感覚だったらしく、明後日に帰国する方針で話がまとまった。

小林さんが明日クロウリーさんに相談してくれると言い、悟は少し安心したように息を吐いた。


翌日、小林さんが切り出すと、クロウリーさんは渋い顔で顎を摩った。


「明日ですか……本当は、アイゼンベルク様がお戻りになるまで待っていただきたかったのですが」

「いつ頃お戻りになる予定ですか?」

「早くて二日後、と聞いています」


悟は顔色を悪くし、静かに首を横に振った。


「アイゼンベルク様が、面白いものを見せてくださるそうなんです。ご都合はつきませんか?」


ここまで世話になっている身だ。

そこまで言われてしまえば、断ることはできない。

『面白いもの』にも興味がないわけではないが、今はそれ以上に、早く島を離れたい気持ちが勝っていた。


小林さんは私たちを一度見てから、「わかりました」と歯切れ悪く答えた。


「ありがとうございます。では、二日後の夕方に帰国できるよう手配します」

「……お願いします」


給仕をしていた若いメイドさんが、一瞬だけこちらを睨む。

そこに確かな怒気を感じ、私はひっそりと背中に汗をかいた。


――このまま、ここにいて本当に大丈夫なのだろうか……?


震える手で、朝食に出されたオレンジジュースを飲み干す。

よく冷えたジュースが、体の芯まで冷やしていくようだった。

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