四話 ミライ(7)
「まずは、この島のメインの孤児院に行きましょうか」と連れてこられたのは、街の真ん中にある大きな建物群だった。
真ん中に大きな教会があり、向かって右側に三階建ての広場付きの大きな建物、左には二階建ての建物が二棟あった。
「右手にある孤児院は、島の学校としての役割も担っていて、島外から迎えられた孤児は『寄宿生』と呼ばれ、左の寮で卒業まで暮らします」
「おおきいね〜」
朋里がおっかなびっくりしながら呟く。
特に大きいのは、真ん中の教会らしき建物だった。地味にアイゼンベルクさんの屋敷からも、はっきり分かるくらいの存在感があった。
「まずは真ん中の教会から見ましょうか。綺麗ですよ」
「うわぁー」
日本組は全員、開いた口を閉じるのを忘れて、目の前のステンドグラスを見つめた。巨大で綺麗で、神秘的だった。風が強いのに耐久性は問題ないのだろうか? という疑問はあったが、無事なのだから大丈夫なのだろう。
教会の中は静かで清らかで、透き通った空気をしていた。
数人、並べられたベンチに座って祈りを捧げている人もいる。
「キラキラがきれいだね」
朋里が小さな声で私に告げる。祈っている人から、細かい光の粒が湧き出てきて、どこか空に昇っていくのが見える。朋里も同じ光景が見えているのだろう。
頷くと、朋里は嬉しそうに、そのキラキラをまた見つめた。
「何か視えるのですか?」
教会内に響きすぎない音量で、クロウリーさんが問いかけてくる。不意打ちだったので驚いた。
「はい。祈っている人から、粒子状の光が出ているのが視えるんです」
「祈っている人から、粒子状の光ですか?」
「そうです。私は『神様の元』と呼んでます」
クロウリーさんは少し悩んでから、納得したように頷く。
「なるほど。日本人であるあなたは、神は人の祈りから生まれると考えている故の発想ですね」
「茜、日本のアニミズムの考え方は独特だから、気をつけた方がいいよ」
「あ、そうだった!」
悟の発言に、私は肝を冷やす。宗教施設内では、確かに気をつけるべき発言だった。
クロウリーさんは、悟を宥めるように手を上げる。
「いえ、問題ないですよ。この島の人間は、基本的に神を信じていませんから」
クロウリーさんの発言に、皆、目を見開く。
小林さんが素っ頓狂な声で訊く。
「では、この教会は何なんですか?」
「祈りの場ですね」
「神を信じていないのに?」
「神は信じていませんが、アイゼンベルク様は信じています。故に、毎日アイゼンベルク様へ祈るのです。感謝と共に」
――アイゼンベルクさんは、孤児院単体じゃなくて、島全体に信仰されていたのか……。
つまり、先程の祈りの行先も、アイゼンベルクさんなのだろう。
……きっと、身体が震えるのは、寒さだけのせいではない。
「しかしながら、やはり祈りも情報構造体であり、あなたには観測が可能なのですね」
「情報構造体のはずなので、他の霊視者も視えているはずですよ?」
私の言葉に、クロウリーさんは少し眉間に皺を寄せる。
「そういえば、島の人口が1400人程度なら、霊視者もそれなりにいそうですけど、探したりしないんですか?」
「一時期はいましたが、諸処の理由により、今はいません」
端的な返答に、背中がゾクリとした。
――ここは――
ミライが、私の服の裾を引っ張る。
「お母さん、優希が外に出たそうにしてるよ」
優希を確認すると、大人しく悟に抱っこされているだけだった。疑問に思いつつも、ミライの助言に従い、教会を出ることにした。祈りを捧げる人々は、私たちが教会を出る時も、まだ祈りを捧げ続けていた。
「次は孤児院に行きましょうか」
と、クロウリーさんの案内で学校に入る。
先程、クロウリーさんが島の学校として機能していると宣言した通り、孤児院はそのまま学校だった。各教室に20名程度の生徒が机を並べて座っている――ただし、身体の大きさに差があった。
私たちの疑問に答えるように、クロウリーさんが口を開く。
「各クラスは、年齢ではなく学力で振り分けられます。学校は最長で18歳まで、最短で10歳での卒業になります。大方、12歳までに卒業できた子どもはトップエリート、14歳までがエリートとして分類されますね」
「クロウリーさんは、何歳で卒業したんですか?」
「私は11歳ですね。ケラーは10歳です」
「おぉー」と、日本組が感嘆の声を上げる。
「しかしながら、悟さんなら、10歳で卒業だったのでしょうね」
「ここの教育内容が分からないので、それは何とも言えないですね……」
「それもそうですね……」と、クロウリーさんが頷く。
教室を覗くと、どの子どもも真剣な表情で教師の言葉を受け取っている。私たちにチラリと視線は向けても、好奇心より授業の方が優先順位が高いらしい。素晴らしい心構えだ。
「皆、ちゃんとしてて偉いですね」
「学校の成績が、将来の職業に直結することを、よく理解していますからね」
「日本でも、それは同じなんだけどなぁ……私の子は、そこを理解していなかったなぁ……」
小林さんが肩を落とす。小林さんの娘さんは、あまり勉強熱心ではなく、勉強も隙あらばサボろうとするのが悩みの種らしい。
「日本は、ここ程顕著ではないので、良くも悪くも仕方のないことかもしれませんね」
「親としては、ちゃんと勉強して、良い職業に就いてほしい……」
小林さんの言葉に、大人は皆、深く頷いた。




