四話 ミライ(6)
到着した翌日、のんびり起きると、既に11時頃になっていた。食堂に行くと、クロウリーさんと小林さんが優雅にコーヒーを飲んでいた。
「遅かったね。おはよう」
「おはようございます。すみません、皆ですっかり寝坊してしまいました!」
「大丈夫ですよ。もう朝食にするには遅いので、少し早めの昼食としましょうか? 昼食を食べた後に、島をご案内しましょう」
「すみません、ありがとうございます」
朝食兼昼食は、色々なパンにヨーグルトやサラダ、ベーコンエッグなど、朝食にしても重くなく、美味しかった。
「まずは島の中心部をご案内しましょう」と、白衣の下にセーターという軽装で、クロウリーさんが出発しようとする。
「そんな薄着で大丈夫なんですか?」
「大丈夫です。少し寒いだけです」
「凄い、寒さにも慣れてるんですね」
「いえ、面倒くさいだけです」
そう言ってクロウリーさんは、そのまま屋敷を出た。案の定、厚手の上着を着ていても寒い。なにせ風が強い。
クロウリーさんと共に逃げ込んだミニバスは、暖房がしっかり効いていて暖かく、座席に座るとほっとため息が漏れた。
のんびりとミニバスが走り出す。運転手は若い男性だ。
「そういえば、この島のことについて、まだあまりお話していませんでしたね。この島はミラ島と言います。人口は約1400人程度で、昨日もお伝えしましたが、基本的な衣食住は全て島内で完結するようになっています」
風が強く、ミニバスが揺れるのを感じながら、クロウリーさんの説明に耳を傾ける。
「アイゼンベルク様は、この島を一つの国として完結するように管理されています。有難いことに、アイゼンベルク様の死後も、今と同じような仕組みで島内が回るよう、取り計らってくださっています」
「凄いですね」と呟くと、クロウリーさんは少し誇らしげに頷いた。
「基本的に島内では独自通貨で取引を行います。個人の素質と希望に合わせて職業が割り振られ、報酬として支払われます。基本的な衣食住は島から現物支給されますので、働けなくなっても飢えて死ぬことはありませんし、病気になっても無償で受診が可能です。少なくとも、この島で『見捨てられる』ことはありません」
「理想化された社会主義国家みたいですね」
小林さんが興味深そうに呟くと、クロウリーさんは頷いた。社会主義国家といえば不均衡のイメージだが、この島はそういう訳ではないようだ。
「そうですね。全てはアイゼンベルク様の人望と、島内の少人数だから成り立つ構造ではありますが……」
「外貨はどうしてるんですか?」
「アイゼンベルク様の支援もありますが、現在は研究や発明などでの特許料やライセンス料、農作物の余剰分や工芸品の輸出で賄えるようになっています」
「では、クロウリーさんは外貨を稼ぐ側ですね」
「そうです。私が言うのもあれですが、研究開発チームは島内でもエリートに分類され、学力などが一定水準以上の者しかなれません。高学力と分類されれば、島の外の大学への学費援助なども無償で支援してもらえますけどね」
やはりクロウリーさんは、ここでもエリートに分類される側なのだと、妙に納得する。
窓の外の風景が、草原から街に変わる。
高くても二階建ての石造りの建物が、程よい間隔で並んでいる。時々大きな建物があり、お皿のマークが看板として付いている。食堂なのかもしれない。
島民も程々に歩いており、平日の昼間なせいもあってか、子どもはほぼ見かけない。お年寄りもあまりいなかった。
そして道路はしっかり整備されているが、車とは全くすれ違わず、信号も見当たらない。
「おうまさんー!!」
朋里が外を見ると、嬉しそうに指をさした。なんと、この現代に馬車が走っている。テーマパークでもないのに、驚きである。私は地味に馬車を二度見していた。
「後で乗ってみますか?」
「え、いいの?!」
「もちろん。手配しておきますね」
「ありがとう!」
クロウリーさんの言葉に、朋里は目をキラキラさせながら、外の馬車を見つめる。馬車といっても、漫画でよく見るドア付きで貴族が乗るようなものではなく、幌の天井が付いた荷車に椅子が付いたような馬車だ。
――寒そうなのに、皆、平気な顔で乗ってる……!
「馬車に乗ったら、頭の上のインコなんて吹き飛ぶね」と、ミライが悟に言っているのが聞こえて、少し笑う。
――インコにめっちゃライバル視してない?
「基本的に島内は、自転車や馬車での移動になります。車など、島内で完結できないものは、ほぼ使いません。なので、テレビやスマートフォンも、ほとんどの島民は使いませんね。パソコンも言わずもがな……」
「近代みたいですね」
「そうですね。まぁ、研究者所属の者は、パソコンやスマートフォンも普通に使っていますよ。インターネット環境も問題ありません。仕事になりませんので」
クロウリーさんは、いつものように口角を少し上げて笑った。




