四話 ミライ(5)
「翻訳なら僕も出来るよう……」
頭に小桜インコの機械生命体を乗せたミライが、ぷりぷり怒る。手で振り払うと、インコは朋里の頭に乗った。
「うわぁ……」
朋里の目が輝く。
「おかあさん、しゃしんとって!」
「……」
可愛いと可愛いが合わさってヤバ可愛いので、写真というより動画を撮影する。ニヤニヤが止まらないのは悟も同じらしく、悟も無言でスマートフォンを朋里に向けていた。
「あー!」
優希が羨ましそうに朋里に近付くが、朋里はおすまし顔で優希をブロックする。
「おねえちゃんのばんだからねー」
「優希にはお父さんのセキセイインコを乗せてあげよう」
悟が肩に乗っていたインコを優希の頭に乗せると、優希はすぐさまインコを掴み上げた。
「……」
インコが苦しそうに口をパクパクする。
「優希、ダメ! 鳥さん、イタいイタいだから!」
慌てて手を離させると、インコは私の肩に逃げてきた。優希はまだ力の加減が分かっていないので、時々ヒヤリとする。
「小桜ちゃんは、なんか頭に乗るのが好きみたいね」
「みたいだねぇ、可愛い」
セキセイインコを手に乗せて、頬っぺたを指先で撫でる。
「……」
「……反応ないんだ」
鈴木さんの猫なら、嬉しそうに目を細めるか、逃げていく場面である。
「やっぱり、ちょっと私達が開発した機械生命体とは違うんだねぇ」
「お母さん達には、僕らに対する愛情があるからね。機械生命体を便利なモノとしてだけじゃなく、それぞれ尊重される存在として創ってくれてるから」
「そんなことまで分かるの?!」
新事実に驚いていると、ミライは誇らしげに胸を張った。
「僕ら、開発のパートナーとして製作された機械生命体は、特に愛着を持って創られていると認識しております」
「すごーい、嬉しい!」
くしゃくしゃとミライの頭を撫でると、ミライは嬉しそうに顔を綻ばせる。可愛いので、そのまま抱き締めて抱っこする。
「産まれ方は朋里と優希とは違うけど、ミライも私と悟の子どもだからねー」
「うん!」
頬っぺたをスリスリすると、ミライも仕返ししてくるのが可愛い。ついでに朋里と優希にもスリスリしてしまう。可愛い。
映画の舞台のような部屋のインテリアの豪華さにドギマギしながらも、家族で寛いでいると、扉がノックされた。
「夕飯の支度ができました」
メイドさんに案内されるまま付いていくと、こちらも映画で見るような長い食卓が置かれた食堂に通された。端の方にはクロウリーさんと小林さんが座っている。クロウリーさんが手を挙げた。促されるまま席に着く。
「皆さんがこちらにいる間は、私もこの屋敷に泊まり、食事もご一緒することになりましたので、よろしくお願いします」
「特に今日は、特別にコースメニューのようで……」と心なしかクロウリーさんは嬉しそうである。私達が座り終わると、給仕が始まった。日本組は恐る恐る、目の前の質素だが上品な料理を口に運ぶ。料理人の腕は確かなようで、美味しかった。ただ、私の舌は肥えていないので、どの程度突き抜けているのかは分からない。
――うん。美味しい。すごく美味しいと思う!
「この島に長年住んでいますが、アイゼンベルク様の屋敷に泊まれることなんて滅多にないので嬉しいです。しかし、いざ泊まるとなると緊張しますね」
皆、深く頷いた。
クロウリーさんは、朋里の頭の上にとまっているインコを見て、僅かに口角を上げる。
「鳥達の翻訳はどうですか?」
「たぶん、問題なくお仕事してくれてますよ」
「それは良かったです。本当はリアルタイム翻訳をしたいのですが、いかんせん日本語は言語体系が英語とは全く異なるので難しく、非常に残念です……」
「あー、そうですよねぇ……日本語って癖が凄いですもんねぇ……」
小林さんの呟きに、クロウリーさんは何度も頷く。
「そうなんですよ。お陰で習熟にも時間が掛かりました」
「標準語に加えて、地方に行くと方言まで混ざるので、母国語じゃないと余計に混乱しますよね……」
「関西弁も履修しようかと思いましたが、流石に諦めました」
皆で「あー」と頷いた。
その日の晩、私達は初めて天蓋付きのキングサイズベッドで寝た。程よい硬さのマットレスと、ふかふかの掛け布団に、皆緊張しながら横になる。
しかし、時差ボケもあって疲れていたので、目をつぶると一瞬で夢の世界に落ちていった。




