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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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四話 ミライ(4)

「(ようこそ遥々いらっしゃいました)」

「何から何までありがとうございます」

「今回付き添ってくれているのは、同じ開発チームの小林明です」

「小林です。お話はたくさん聞いております。よろしくお願いします」

「(日本を代表する開発者の方にも来ていただけて嬉しいです。どうぞごゆっくりしていってください)」


アイゼンベルクさん自ら、恭しく案内してくれる。屋敷は当たり前だけど島で一番豪華だったし、なんなら私が今まで見たことのある屋敷の中で一番豪華かもしれない……。

床に敷き詰められたカーペットは手入れが行き届いていて、色褪せている部分もなければ、ゴミが乗っている部分もない。むしろ私達がゴミを乗せてしまいそうで申し訳ない気分になる。


――いっそのこと土足厳禁にしてほしい。靴を脱いでスリッパを履きたい……いや、履かせてください……!


「おかあさん……」


アイゼンベルクさんと対面してから、朋里は怯えたように私の脚にくっついている。

理由は、なんとなく分かっていた。


目敏くアイゼンベルクさんは朋里の様子に気付き、優しく問いかける。


「(初めまして。どうしましたか? 小さなお嬢さん)」

「……」


朋里は答えず、隠れるように私の後ろへ回った。


「すみません、人見知りが激しくて……長女の朋里です」

「(あなたのお嬢さんなら、視えるのでしょう?)」


――バレたか……。朋里にも事前に説明しておくべきだったな……。


暑くもないのに、背中を汗が伝った気がした。


「……おじさんは、なににおこってるの?」


朋里の問いに、アイゼンベルクさんは一瞬動きを止めたが、すぐにいつもの柔らかな笑みを浮かべた。


「(怒っていませんよ。どうしてそう感じましたか?)」

「……なんとなく」


朋里の感覚が、私にはとてもよく分かった。

しかし、それを言葉で説明しろと言われても、感覚――オーラのようなものなので難しい。


「長男のミライです。いつもお母さんとお父さんの援助、ありがとうございます」


ミライが一歩前に出て、愛想よく笑った。


「(あなたが守山夫妻の機械生命体ですね。素晴らしい)」


ミライはさらにニッと笑顔を振りまく。


「こっちは妹の優希です。二歳なので、まだチビチビです」

「あうー」優希が頭を振る。優希なりの挨拶だ。アイゼンベルクさんが小さく笑った。


「(こんにちは。子どもはかわいいですね)」

「ありがとうございます」

「(到着して休む暇もなく呼び出してしまい、すみません。私はこれから数日外出しなければならないため、先にご挨拶だけさせていただきました)」

「いえ、お忙しいところありがとうございます」

「(この島では、お好きに過ごしてください。滞在日数も自由です。帰る日程が決まりましたら、屋敷の者に伝えてください。帰国の手配をします。細かいことは屋敷の者に任せていますので、何かあれば遠慮なく言ってください)」


優希がのてのてとアイゼンベルクさんに近付くと、彼は慣れた手つきで優希を抱き上げた。


「(ふふ、良い子ですね)」

「優希は今、11kgあります」

「(少し軽い方ですね。もう少し色々食べましょう)」

「朋里もそうなんですが、偏食気味で困ってるんですよ」

「(味覚が他の子どもより敏感なのかもしれませんね)」


アイゼンベルクさんは腕時計を確認する。


「(すみませんが、そろそろ出発しなければなりません。これで失礼しますね)」


そう言って優希を下ろし、アイゼンベルクさんは笑顔のまま立ち去っていった。

姿が見えなくなった瞬間、どっと疲労が押し寄せる。他の日本メンバーも同様だったようで、クロウリーさんが少しだけ口角を上げた。


「とても緊張していましたね」

「はい……」

「お疲れでしょうし、今日は一旦お部屋にご案内しますね」

「ん? ホテルではなくですか?」

「この島にホテルはありません。基本的に来客はアイゼンベルク様が招待した方のみなので、この屋敷の客室に泊まっていただきます」

「この屋敷に……?」


好奇心旺盛な子どもが二人もいる。

この屋敷の高級調度品を壊してしまいそうで、恐怖しかない。


クロウリーさんが私の反応を不思議そうに見ていると、悟が口を開いた。


「部屋に飾ってある物があれば、撤収していただけますか? 子どもが触って壊すといけないので……」

「あぁ、分かりました。片付けておくよう伝えましょう」


クロウリーさんがベルを鳴らすと、メイドさんが現れた。


――生メイドさん! 本物!


別の意味で感動しつつ、改めて富豪との生活の違いに圧倒される。

二十歳前後の若い女性は、私とは比べものにならないほど所作が洗練されていた。


――この子も、孤児だったのだろうか?


クロウリーさんの指示を受け、音もなく去っていくメイドさんの背中を見送る。

視線を戻すと、クロウリーさんと目が合った。


「そういえば、翻訳のために機械生命体をお付けしてもよろしいでしょうか? できるだけ案内はしますが、常にご一緒するのは難しいので」

「え、気になる。もちろん大丈夫ですよ!」


クロウリーさんから、三羽のインコ型機械生命体を借りた。

私の一羽は肩に乗ってくれるかと期待したのに、ミライの頭の上に止まったため、ミライはとても不機嫌になっていた。

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