四話 ミライ(3)
開発の遅延をクロウリーさんとケラーさんに報告した数日後、気分転換も兼ねて、こちらの研究室に見学しに来てはいかがか? というメールがクロウリーさんから届いた。
下手に断れないということで、私と悟と小林さんで向かうことになり、子ども達に報告した。朋里がゴネることは予想していたが、予想外にもミライもゴネた。
「僕も連れてって」
「ミライ、あなたに自覚は薄いかもしれないけど、あなたは日本の超機密情報の塊なのよ?」
「知ってる。でも、行きたい!」
「何かあったら、チームメンバーだけじゃなく、日本に迷惑をかけることになるんだ」
「何も起きないようにする! 朋里も嫌だって言ってるんだから、家族みんなで行けばいいじゃん?」
「あっちに子どもは連れていけないのよ……」
「それは確認を取ったの? ちゃんと訊いてないなら確認してよ。開発チームにも確認は取ってる?」
「う……」
図星を突かれて変な声が漏れた。確かに、両方に確認は取っていない。
私の反応に、ミライは畳み掛けるように言う。
「ほらね、取ってないんだ! ダメなこと、確認してから言ってくれる?」
「ハイ……」
渋々、両方に確認を取ると、日本側は厳重注意でOK。クロウリーさん側は無問題でOKの返答が来た……クソが。
二歳連れでの長距離フライトはキツいぞ……と覚悟しつつ、クロウリーさんの指定されるがまま空港に行くと、個人所有の飛行機が私達を待っていた。
案内に来たクロウリーさんが、私達の驚く様子を見て笑う。
「アイゼンベルク様は富豪ですから」
機内では、初めて会うミライにクロウリーさんが興味津々だった。
「パッと見、本当の子どもとまったく違いがないですね」
「有線接続用の穴は、人工皮膚の下に隠れてますからね」
「いや、それもあるんですが、所作も見分けがつきません。会話も年齢より大人びているだけで、まったく人工知能とは分かりませんね……」
「よく言われます……」
ミライが照れて頭を掻く。私は昔の悟を思い出して噴き出しかけるが、その所作すら人間味があると、クロウリーさんは感じるのだろう。
私やチームのメンバーは一緒に過ごす中で慣れてしまっているが、クロウリーさんの反応を見て、外部の人間にはこんなにも特殊に見えるのかと気付かされた。
「あなたの開発チームの機械生命体は、皆このようなのですか?」
「ミライはかなり特殊な部類ですが、他の子達も近い感じはありますね……」
「日本産の機械生命体が、世界の人々に受け入れられ始めている理由が、なんとなく分かってきた気がします……」
「日本以外は違うのですか?」
クロウリーさんは首を横に振り、ミライを羨望の眼差しで見つめる。
「少なくとも、我が国で開発された機械生命体は、人間の兄弟にはなりません。家族のヘルパーにはなっても、機械生命体そのものは、家族の一人にはなり得ません」
「……それは、私達がそうしたから――」
「開発者が、そういう風に機械に家族としての役割を与えていなかったのも、この差の要因かもしれませんね。それが良いこととは断定できかねますが……」
そして、クロウリーさんはうっとりと微笑む。
「私が木陰ちゃんと生活できる日も、近いかもしれませんね……」
クロウリーさん達の研究室は、アイゼンベルクさん所有の島にあるらしい。その島には孤児院があり、大人になった者が島内で働いたりと、小さな町が出来ているようだ。クロウリーさんの研究室も、その働き先の一つらしい。
飛行場に降り立つと、そこからヘリコプターで島まで移動することになった。島はほとんど崖になっているらしく、島への移動は、ほぼヘリコプターに限られるらしい。ちなみに、ヘリコプターももちろんアイゼンベルクさんの所有物だ。
島に辿り着く頃には、私達はヘトヘトになっていた。帰りは飛行機に乗り換える前に、休みがてら一泊ヨーロッパで観光できないか相談してみよう。そうしよう。
草原が多い島はのどかで、皆がのびのびと暮らしているのが伺えた。到着した日は生憎の曇り。生憎とは言ったけど、この地方は天気が良い日の方が少ないらしい。
「天気が悪いと、洗濯物の乾きも悪そうだね」
「この島は風が強くて、湿気が籠もらないので、よく乾きますよ」
「今は風速8メートルだね」
「まだマシな方ですね」
「これが?!」
ヘリコプターから降り立ってから、常に髪の毛が舞い踊った状態が続いている。そもそも、ヘリコプターの操縦士も、こんな風でよく運転できたものだ――まぁ、毎度なら慣れるだろうけど……。
少し離れた場所では、風力発電の風車がクルクル回っている。「だっ!」と言って、優希が楽しそうに指をさした。
「この島は、アイゼンベルクさんの希望で、衣食住はすべてこの島で完結できるようになっています」
「それは凄いですね」
「食事は基本的に、この島で生産された物になりますので、あまり期待しないでくださいね」
「いえいえ、何から何まで手配して頂いているのに、文句なんてありませんよ!」
クロウリーさんは、私達の反応に少し口角を上げる。
「さぁ、アイゼンベルク様がお待ちです。行きましょうか」
こうして、私達はアイゼンベルクさんの善意で成り立つ島に降り立った。




