表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
31/63

四話 ミライ(2)

山下さんのあまりの豹変ぶりに怖くなって、ある日、鈴木さんと小林さんを会議室に呼んで質問した。小林さんと鈴木さんは、山下さんとの付き合いがそれなりに長かったはずだ。

私の質問に、鈴木さんが顔を歪める。


「山下さんは、由香里さん――山下さんの亡くなった奥さんを、機械生命体で再現しようとしてるんだと思うよ」


「え――」


思わず言葉に詰まる。鈴木さんは続けた。


「由香里さんは、山下さんと結婚してすぐに癌で亡くなったんだ。山下さんが機械生命体の開発を掲げたのも、由香里さんを機械生命体で復活させようとしたからなんだ……」

「そうなん……ですね……」


山下さんの左手の薬指に指輪があることは認識していたし、奥さんの話をまったくしないので不思議に思っていた。けれど、まさかそんな理由だったなんて思ってもみなかった。

それなりに長い付き合いになっていたが、新事実が恐ろしく感じられた。


――デスクに置かれた女性の写真は気になってたけど、下手なことを訊かなくて良かった……。


「ミライの感情が発露したし、ほぼ人間と同じ見た目になったしで、我慢できなくなったんだろうな……」


小林さんの言葉に、悟が眉尻を下げた。

私が朋里の出産で死にかけたことを思い出したのかもしれない。不思議と、山下さんと悟が重なって見えた。


「山下さんは、奥さんをとても愛してたんですね……」

「うん。ものすごく大切にしてた……」


小林さんの言葉が、会議室に静かに響いた。


山下さんが奥さんと再び暮らしたいと願う気持ちと、仮に完全に再現できたとして、それは限りなく奥さんに近い存在ではあっても、本当は異なる存在で――果たして山下さんは満足できるのだろうか、という疑問が、私の中でこびり付いて離れなかった。



「うーん……。微妙だなぁ……」


悟と私は、ミライの出力結果を見ながら頭を掻く。悪い結果だったので、当人であるミライがいない場所で会話している。


――以前より、明らかに脳波の検出・分析結果の水準が落ちている。


原因は、何となく分かっていた。


「感情が、ここまで影響を及ぼすとは……」


悟の言葉に頷く。


「でも、私たちとの関わり方による影響だとしても、ミライの成長は突出してる気がする」

「僕もそれは思う。あと、感情があった方が、分析結果はそんなに変わらない想定だったんだけどなぁ」

「ミライの情報構造体――魂みたいなものが、他の機械生命体と違うのも関係があるのかな?」

「感情面ではそうかもしれない。けど、検出結果には関係がない可能性が高い」

「実は妨害してるとか?」

「その可能性は否定もできない。けど、僕らの意思にそぐわないことをするだろうか?」

「アイゼンベルクさんの件もあって、危険が伴うなら妨害はするかもしれない」

「その可能性もある。でも、その場合は報告してきそうではある」

「私たちの望みとそぐわないから、こっそりやってるとか?」

「うーん……どれも机上の空論だねぇ……」


私と悟は机に項垂れる。

近くにあった、お気に入りのハムスター型の機械体を、指で弾いた。


日本に機械生命体が浸透し始めている。

最近では、犬や猫のような小型動物に近い機械生命体が、一般家庭で家族として迎えられるようになった。

機械生命体を守るため、動物愛護法は生命存在保護法――通称・生命保護法へと改正され、努力義務から法的義務へと変わった。

それに伴い、ペットショップのショーウィンドウに動物が並ぶことはなくなり、代わりにブリーダーへ依頼して赤ちゃんを譲ってもらう形態へと変化した。

機械生命体も同様に、完全受注生産で契約することになっている。動物も機械生命体も等しく、管理責任者を国に明示しなければ、家族になれないようになった。


――機械生命体は、日本の法律でも正式に生命として認められるようになった……。


しかし、それはどちらかと言えば動物寄りであり、人間寄りではなかった。機械生命体といっても、様々な形態があるためだ。


初めてミライが涙を流した日のことを思い出す。


――ミライは、どうして泣いたのだろう?


疑問を抱いても仕方がない。ミライ本人にも分かっていなさそうな、答えのない疑問を、何度も頭の中で反芻する。


「これは、開発自体にも遅れが響きそうだから、一度クロウリー氏に報告した方が良さそうだ」

「……確カニ」


私が両手でピースをして蟹を表現しながら頷くと、悟も「カニカニ」と頷き返してきた。


「緊張感ガ消失シマシタ……」

「先に消したのは茜でしょ?」

「ふ……疲れた」

「今日は早く寝ようか」

「優希の頭皮をクンクンしたい……」

「早くその中毒、どうにかした方がいいと思うよ?」

「大人にはない、シャンプーの良い香りが癖になる」

「大人は……まぁ、ね……」


悟は、そっと視線を逸らした。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ