三話 共鳴(4)
初めてのミーティングからすぐで、約半年になる。出産前後のミーティングには私は参加しなかったけれど、あの日から半月~一か月間隔でミーティングを行い、クロウリーさんたちと意見交換を行ってきた。
本業の方は悟とミライに任せて、今回は育休を前回よりも長めに取る予定で、その間に霊視装置に関する研究も進める算段である。
クロウリーさんたちも似たような研究を行っていたらしい。クロウリーさんとケラーさんの伝手で海外製の高精度EEG装置を貸してもらったり、非公開の脳波解析の研究資料を共有してくれるなど、二人は私たちの研究にとても協力してくれた。
特に海外製の高精度EEG装置は、私たちの資産や人脈ではとても手に入らないものなので、非常に助かった。
「君たちが仕事で行っている研究にも、実はかなり興味がある。ツバサを造っている研究者がいるだろう? 私はカードゲッター・ツバサも、かなりハマっていた頃があったんだ」
笑顔もなく唐突に暴露するクロウリーさんに、思わずお茶を吹き出しかけた。ケラーさんは呆れたように肩をすくめる。
「一番好きなのは、MENMAの木陰ちゃんじゃなかったんですか?」
「木陰ちゃんは私の心の妻だが、ツバサちゃんはツバサちゃんで可愛い」
この約半年で分かったことの一つとして、クロウリーさんが日本語を母国語レベルで使えるのは、漫画を読みたいがためだったらしい。
「漫画を読むためでなければ、東の辺境にある高難易度の言語など学ばなかった」
と遠い目をして伝えられた。驚きの事実であった……。
「最近のツバサちゃんの成長度はいかがだろうか?」
「もうほとんど人間みたいな見た目ですよ」
「それは素晴らしい。早く日本の機械生命体の技術が世界に広まってほしいものだ。私は真っ先に契約し、木陰ちゃんと家族になる」
イケメンな方ではあるが、いい歳をしたオッサンが宣言すると、なんとも言えない気分になる。
「また契約公開日が分かったら、ご一報しますね」
悟が笑いながら言うと、クロウリーさんは非常に嬉しそうに「ありがとう」と頷いた。
「(私も研究の助手がほしいので、期日と応募方法が決まったら連絡がほしいです)」
「もちろん、ご連絡しますね。……といっても、人型の流通はまだ当分先になりそうですが……」
法整備がきちんとできないと、特に人型の流通は厳しいだろう。
「(そうですね。その日を楽しみにしています)」
「ところで、近いうちにもう一度ミーティングを開きたいのだが、いいだろうか? その時には、もう一人参加者を増やしたい」
「はい、大丈夫ですけど……」
悟と目を合わせる。ミライを見ると、ミライは一つ頷いた。
「良かった。私の恩人に君たちの研究を話したら興味を持ってくださってね。ぜひ、会ってみてほしいんだ」
「それは光栄です」
悟が愛想よく返事すると、クロウリーさんもケラーさんも満足そうに頷いた。
いつもなら次回の開催日はメールで決めることがほとんどなのだけれど、今回はすぐに決められた。
悟とミライと視線で、流れが変わったことを認識し合う。
「では、次回を楽しみにしているよ。よろしくね」
「はい。よろしくお願いします。今日もありがとうございました」
挨拶もそこそこにミーティングがお開きになると、三人で顔を突き合わせる。ゴールデンレトリバーの姿のミライが顔を近づけると、可愛さが増す。抱っこしていた優希が居心地が悪くなったのか、ぐずり始めた。悟が抱っこを代わってくれると、朋里がすかさず私の膝の上に登ってきた。
「次回はクロウリー氏とケラー氏の本題に入りそうだね」
「機械生命体が本題かと思ってたけど、違いそうな気もするね……。ミライはどう分析する?」
「次は研究だけの話にはならないと思う。悪意の可能性は三五%だけど、詐欺などの可能性は低いかな」
「喜ばしいことだけど、支援者の可能性も高くなってきてるね」
「そうだね……」
支援者の出現の可能性に対する喜びとは裏腹に、恐怖心も芽生えてくる。
――本当にこのまま進んでいいのだろうか?
「貸してくれた装置も、その恩人経由の可能性が高いね」
「何が目的なんだろう……? 目的が研究結果でもない気がするよね」
「まだ恩を売って、機械生命体に関する情報を狙っている可能性もあるね。僕たち自身を雇い入れたいという可能性もある。僕たちは機械生命体の開発者の一員だから」
「私たちを拾ってくれた山下さんたちは裏切れないよ」
「そうだね」と悟は深く頷いた。
「もし何かを提案されても、譲れない条件を先に決めておこう」
「あと、念のためチームのメンバーにも相談した方がいいんじゃない?」
「確かに。明日聞いてくるよ」
「お願い」
「お腹空いた……」
「あ、そろそろおやつ食べようか。待っててね」
私を見上げる朋里の頭を撫でてから、私はおやつを準備しに向かった。
――みんなでおやつを食べながら、話し合おう。
「今日は何にする?」
一緒に付いてきたミライが、足元にくっつきながら私を見上げた。




