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沈黙する存在  作者: 小島もりたか
2章 生命の創造
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三話 共鳴(3)

後日、クロウリーさんに学会で使用したスライドや予稿をメールで送付すると、すぐに返信があった。


「悟が怪しいって言ってたクロウリーさんから、オンラインで他の人も交えて話がしたいって連絡があった」

「オンラインか――」


悟が顎を擦りながら難しい顔をする。


「ミライはどう分析する?」


朋里と遊んでいたミライが即座に悟に振り向き、動きを止める。


「詐欺の可能性は低い。ただ、利用される可能性は高い。悪意を含む確率は二割。アラン・S・クロウリーでWeb検索したけど、ヒットは0。論文発表はしていないみたい。支援者候補の代理研究者の可能性はあり」

「まあ、支援者も何か利用価値があるから支援してくれるのは当たり前だな……」

「オンライン面談するなら、チームメンバーの誰かを同席させた方がいいよ、って小林さんが言ってたよ」

「確かに。山下さんに同席してもらえるかと、こちらも同席者がいていいかの打診をしてみようか」

「うん、そうする」


私は即座にチャットを開いて山下さんに打診する。すぐにOKの返信があった。有難い。


「あと、クロウリー氏には研究記録のための録画と録音、カメラで顔出し必須の条件を提示して様子を見てみようか」

「分かった。メール書くから、後で確認してくれる?」

「分かった」

「僕にも見せてくれたら協力するよ」

「ありがとう。ミライにもお願いするね」

「うん!」


数日後、クロウリーさんから了承と日時の打診があった。

支援者が出てくれるかもしれないという希望と、詐欺やどんな利用価値を考えられているかの不安が入り交じり、オンライン面談までの間、朋里を抱っこして後頭部の匂いを嗅ぐ回数が増えてしまった。

「はぁ。落ち着くぅ……」とやるたびに、悟に「出た、ヤク中」と笑われた。



指定時刻に、メールで指定されたリンクから入室すると、既にクロウリーさんともう一人の男性が画面に映っていた。白髪混じりの髪に、クロウリーさんと同じくあまり表情のない顔をしている。白いシャツにラフに羽織った白衣を着て、いかにも研究者といった風貌だった。

すぐに山下さんの姿も画面に追加される。


「こんにちは、聞こえていますか?」

「聞こえています」

「大丈夫です」

「問題ないです」


日本組がそれぞれ口にする。

私たちは会議室のテーブルに座り、それぞれWebミーティングに参加していた。悟や山下さんも隣にいるのに、パソコンの画面内に映っているのが少しおかしい。カメラに映らない空いた席には、ミライや山下さんの相棒のロッキーが陣取っていた。朋里は小林さんが相手してくれている。

マイクやスピーカーはハウリング対策で、代表して悟が外付けのものを繋いでいた。


「では、改めまして。本日はお時間を頂きありがとうございます。学会では短い時間でしたが、今日は少し落ち着いてお話できればと思います」

「よろしくお願いします」

「まず紹介からしましょう。今日、私と同席しているのはマティアス・フォン・ケラーです。専攻分野は認知科学などですね。彼は日本語が話せないため、隣に通訳がいます。ご了承ください」


ケラーさんが何語か分からない言葉で喋ると、通訳の男性の声が聞こえた。


「(はじめまして。マティアス・フォン・ケラーです。本日は皆さんの研究について深く知るために参加しました。よろしくお願いします)」


山下さんが悟と私に視線を送る。先に自己紹介して、ということだろう。


「私は守山悟です。守山茜と共同研究しています。本日はよろしくお願いいたします」

「山下哲郎です。よろしくお願いいたします」


山下さんの挨拶を聞いて、クロウリーさんは僅かに口角を上げる。


「まさか機械生命体の開発リーダーが同席されるとは思いませんでした。光栄です」

「ありがとうございます」


クロウリーさんの視線が画面を見渡すように動く。クロウリーさんは一呼吸置いてから話し始めた。


「まずは簡単に現状を説明してもらえますか?」


山下さんと目を合わせてから口を開く。今回の面談では、私がメインで話すことになっていた。


「はい。学会で発表した内容と、先日送付した予稿の内容が、現在公開できる範囲です。自律的機械エージェントによる脳波検出と、その情報構造化処理はまだ始まって日が浅く、検証としては断片的に留まっている段階です」

「どの程度の期間、検証していますか?」

「まだ半年程度です」

「被験者数は?」


先日のこともあったので、思わず固まる。代わりに悟が答えた。


「数人ですね」

「なるほど。まだまだ実験回数が不足しているといったところですね」

「はい」


他にも次々にクロウリーさんから質問をされるが、ケラーさんは基本的に聞いているだけだった。ケラーさんは時折目を閉じて考えては頷いたり、首を傾けたりする。首を傾げられると、悪い評価をされているようで、焦ってしまう。

悟は私が焦ったタイミングで回答してくれたり、山下さんは補足したり、回答しやすいように質問を噛み砕いたりしてくれた。……非常に助かった。


あらかた確認したい内容を聞けたのか、クロウリーさんが満足したように頷くと、今度はケラーさんが口を開いた。


「(この研究は、貴方たち自身の手で、どこまで進めたいと考えていますか?)」


直接的だが答えにくい問いに一瞬戸惑ったが、私はゆっくりと答える。


「理解されるまでです」


ケラーさんの口角が上がる。


「(分かりました。私の質問は以上です。本日は有意義な時間をありがとうございました)」

「ありがとうございました」

「では、縁もたけなわですが、本日はこの辺にしたいと思います」


無表情から繰り出される、おそらくあえてのボケに思わず吹き出しかける。私たち日本組の様子を見て満足したのか、クロウリーさんが悪戯っぽく笑った。こちらが本来の彼の性格なのかもしれない。


「それでは、改めてまたこちらから連絡しますね。ありがとうございました」

「ありがとうございました」


緊張で気がついていなかったけど、クロウリーさんの画面が消える直前に、私はやっと気がついた……。


クロウリーさんの背後の本棚に、日本でも人気だった某忍者漫画のキャラのTシャツが飾られていたことに……。というか、本棚全部、漫画が入っていた気がする。


――クロウリーさん、日本の漫画オタクだったの……!?

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