三話 共鳴(2)
「ぷはーっ! 終わったー!」
溜めていた緊張を吐き出すと、一気にお腹が張ってきた。慌てて鎮まれとお腹を擦っていると悟が微笑んだ。
「発表自体は終わったけど、本当の本番はここからだよ。今から接触がないと希望が一気になくなる」
「まぁそうなんだけど……あー、小林さんや鈴木さんが質問してくるとは思わなかったー」
「良い感じのフォロー系の質問で有難かったね……っていうか、ちゃっかりみんな居たよね」
「それね。嬉しかったけど、恥ずかしかったわ――あ、朋里だ!」
朋里達に手を振ると、振り返してくれた。嬉しい。今日は河井が朋里とミライの保護者をしてくれている。非常に助かる。
よく見ると開発メンバーが集まったきている。そして、他の研究者達に話しかけられ始めている。
機械生命体を開発した私たちは、色んな研究者たちから良くも悪くも注目の的である。発表後の質疑の時間も質問者がそれなりに多く残った状態で終了している。
「先程の――」
セッションが終わった所で、私たちの真の目的を分かってか分からずか、質問が出来なかった研究者達がそれなりに押し寄せ始めた。
「初めまして。先程の発表に関して、少しお話よろしいですか?」
質問者の波が落ち着いた頃に、声をかけられた。振り向くと、背の高い白人男性がいた。銀色の丸フレームの眼鏡がよく似合っている。外国人なのにとても流暢な日本語なのでとても違和感があった。
「はい。大丈夫ですよ」
「まず最初に、あなた達の『自律的機械エージェントによる人間脳波の検出と高次情報構造化』は非常に興味深かった」
彼は表情筋をピクリともさせずに言うので、こんなに感情の籠っていない社交辞令もあるものなのだなぁと逆に興味深かった。
「ありがとうございます」と苦笑い気味に返す。
「高次情報構造化の最終的判断を行う主体は自律的機械エージェントになるのでしょうか?」
「判断そのものはエージェントです。私たち人間は、それを観測し、比較しているだけです。人間は、人間が見ているものと、エージェントが再構成した情報構造が一致しているかどうかを確認します」
「エージェント――貴方たちが創った機械生命体に脳波を解析することで、人間の視覚を再現しようとしているのですか? 何故?」
「今、私達が『視ている』と思っているものは、機械がカメラで見ているように可視光を反映したものだけではありません」
私が説明すると、彼は「なるほど」と少し口角を上げた。彼の様子に今までの質問者とは質が異なることに気がつく。
「目からの可視光を脳が処理した結果を『視ている』と言いたいんだね」
「はい。物質でもない、エネルギーでもない、なのに脳がそこに『在る』と認識するものを、脳波をエージェントが観測することで検出が可能になると考えています」
「さっきから君か一緒に発表した彼がその『視える』当事者であると言っているようなものだけど、大丈夫かい?」
「あ……」と言葉が漏れる。趣が違う質問だったので口が滑ってしまっていた。
――バレても問題はないけど、後から悟に迂闊だと怒られそう。
私が固まっていると、彼は少し笑いながら名刺を出してきた。
「私の名前はアラン・S・クロウリー。アメリカの研究者だ。差し支えなければ、スライドか予稿をこちらのメールアドレスに送って欲しい」
受け取った名刺は、名前とメールアドレスが記載されたとてもシンプルなものだった。慌てて私の名刺を渡すと、彼は直ぐに胸ポケットにしまった。
「では、君たちからの連絡を楽しみに待っているよ。もし、君が当事者なら、君は自分のことをもっと隠した方がいい。もし君が作ろうとしているものができたら、君の価値が跳ね上がる」
そう言うだけ言って、あなたも視えるのですか? という質問をするよりも前に、クロウリーさんは颯爽と立ち去って行った。
長く他の質問者に捕まっていた悟が、後から心配そうに確認しに来た。
「外国人だったよね? 英語大丈夫だった?」
「向こうが日本語ペラペラすぎてビックリした」
「どこの人だったの?」
悟に名刺を見せると眉間に皺を寄せた。
「名前とメールアドレスしか書いてないね」
「アメリカの研究者とは言ってたよ」
「怪しい……怪しいけど、ピンキリだからなんとも言えない……」
悟は頭をポリポリと掻く。
「どんな質問をされたの?」
やり取りを一通り伝えると、やはり迂闊だと怒られた。
――うぅ……。気をつけないと……。




