二話 生命の創造(1)
「あらら、朋里ちゃん、うんち出たねぇ……悟くーん、オムツ替えてあげてー!」
「はーい!」
副リーダーの鈴木さんから、悟が朋里を受け取る。首がしっかり座ってきたので、抱っこの交代もスムーズになってきた。
悟は開発室の一角に設置されたベビーベッドに朋里を連れていき、カーテンを閉めた。
「茜さんは体調大丈夫? もう復帰して3ヶ月になるけど、不調出始めてない?」
鈴木さんの優しさに、私は思わず破顔する。
「ちょっと寝不足ですけど、大丈夫です。皆さんに交代で朋里をみてもらってるので、自宅で一人で相手するより、むしろ楽かもしれません」
「それは良かった。僕らは息抜きになるし、茜さんに仕事をしてもらえる。茜さんはちょっと楽になるなら、多少はWin-Winだね」
「ふふ、そうですね」
「でも本当に助かるよ。政権もいつ変わるか分からないからね。今の政権から変わってしまうと、政府からの支援も変わってくる。移民大賛成派の政権になってしまったら、僕らは終わりだ」
静かに山下さんが言った。大きく頷きながら、小林さんが続ける。
「名目は少子高齢化による人手不足解消のための、機械生命体開発にしているからねぇ……安直に移民をガバガバ入れていたら、他国の二の舞になるのに。早く機械生命体を開発させないと、昼間ですら安心して歩けなくなる」
小林さんは親指の爪を噛みながら続ける。
「最近、娘が心配で仕方ないよ。小学生なんだけど、どうしても登下校が心配だ。友達と外で遊ぶのも心配。こんな心配、僕らが子供の頃はもっと少なかったはずだ……」
そうして小林さんは勢いよく私を見る。居心地の悪さを感じて何か作業をしようとしていたので、驚いた。
「とりあえず、早々に復帰してくれてありがとう!」
「いえいえ、皆さんのご協力のお陰です」
「また赤ちゃんを抱っこできるのも嬉しいよ! 赤ちゃんは最高の癒しだ!」
悟が朋里を連れてオムツ替えスペースから出てくると、小林さんが悟から朋里を受け取る。
「お尻すっきりしたのー、良かったねぇー」
生後6ヶ月になる朋里だけど、開発チームの皆が相手してくれているお陰か、今のところ人見知りがほぼない。それも非常に助かる。
「女性は凄いね。僕らがこんなに苦労して開発している生命を、その身で作れるんだから」
「めっちゃ痛かったですし、私は死にかけましたけどねぇ」
「茜さんも、朋里ちゃんも、今無事に生きていてくれて良かったよ。悟君はトラウマみたいだけど……」
「あれはトラウマにならない方がおかしいですって」
「ごめんね、悟」
悟の顔を見ると、少し青くなっている。この話題は避けた方がいいだろう。なまじ私が死にかけた記憶がない分、扱いが難しい。この話になって悟の顔が青くなる度に、当事者の私より悟の方が傷付いていることを思い出す。小林さんも茶化してごめんと悟に謝罪した。
私が産後3ヶ月という、かなり早い時期に職場復帰した理由の1つでもある。
悟はあの日以来、私にやたらと過保護になった。私が言い出さなければ、一年経っても職場復帰はなかっただろう。予定を作らなければ、家に閉じこもってのんびり過ごす日がほとんどだった。
「山下さん、プロトタイプの機体、組み立て終わりました!」
村瀬が四足の機体を持って、山下さんに見せに来た。
柴犬ほどの大きさのそれは、脚が4本で首のない蜘蛛の姿をしている。正方形の角にそれぞれ脚があり、4辺それぞれにカメラが埋め込まれる設計になっている。
「うんうん。良いねぇ」
そう言いながら、山下さんは機体を上から落とした。
ガシャリと落ちたが、ぱっと見では破損は起きていない。山下さんは改めて拾い上げ、機体を確認する。
「丈夫さも一旦合格だな」
「ふぅ……冷や冷やしたぁ」
「若いのに凄いよ」
「ありがとうございます!」
「自衛隊が使う災害救助向けだからね、丈夫じゃないとね」
ニコニコと微笑む山下さんだが、初めて機体の落下試験をした時は、村瀬を絶望させていた。
「他の機体も組み立ててきますね!」
「うん、よろしく!」
村瀬は一緒に組み立てていた河井と「やったな」と拳を突き合わせて、作業場に戻っていく。
「ほい、次は茜さんよろしくね」
「はい! 悟、準備しよう!」
私と悟は機体を受け取ると、いそいそとデスクに戻った。




