一話 初産(2)
今週になってから、なんとなく予感があった。
「あー、もう子宮口4センチ開いてますね。入院ですー」
妊婦健診の内診で医師に伝えられた。
悟と計画分娩にしようと言っていた矢先だった。
「今日、計画分娩のご相談しようと思ってたんですけど……」
「計画分娩ではバルーンという物を使って子宮口を開けるんですけどね。4センチだと、もうバルーン使った後ぐらい開いてます。つまり、計画分娩は無理ですね。もうすぐ産まれる可能性が高いです」
「あらー」
思わず医師と笑ってしまう。
なんとなくお腹の感じでもうすぐ産まれそうな気はしていたが、その感覚は正しかったらしい。
「看護師が手続き等の説明に伺いますので、中待合でお待ちください」
言われるがまま中待合に行き、ぼーっとしたが、直ぐに我に返って悟に電話する。
「ごめん、入院になった。子宮口4センチで、もうすぐ産まれるかもって」
「はぁ?!」
素っ頓狂な悟の声を久しぶりに聞いた気がする。私も、いつも通り妊婦健診に来て、入院することになるとは思わなかった。なんとなく自宅で陣痛が来て、そこから病院に行く流れを想像していた。
看護師さんに説明されるがまま、あれよあれよと入院の手続きが進んでいく。初めて入院するので、入院の手続きがこんなに多いとは思わなかった。
「医師から説明があったと思いますが、当院での無痛分娩の麻酔は本陣痛が来てから、かつ子宮口がある程度開いてからになってからになります」
「はい。分かりました」
朝イチで受診し、入院を告げられ、やっと人心地着いたのは夕方だった。夕食が病室に運ばれてくる。
美味しいと評判の病院食を堪能していると、お腹の異変に気が付いた。
――お腹が痛い気がする。
痛みに気がつくと、その痛みはどんどん増していく。とうとう生理痛をものすごく激しくしたような痛みが来る度に、食事を中断するようになった。
「……くっ」
――これが、陣痛か……?!
医師に「痛くない陣痛もあるので注意してください」と口酸っぱく言われていて、陣痛に気がつくか心配していたのだけど、そんなことはない。
――このレベルの痛さは絶対気がつく! 痛い! 無理!!
感染症予防で、悟と合流できるのは私のお産の直前と聞いている。それが私を絶望させる。
――無理、無理、無理! 痛い痛い痛い痛い痛い!
痛みの山が来る度に一人で悶え苦しむ。
耐えかねて、ナースコールを押した。
「陣痛が来たみたいです……」
助産師さんが素早くやってきて、NST――お腹の張りや赤ちゃんの脈拍を調べる機械――の準備をしていく。
「まだ子宮口4センチです」
「何センチが最大ですか?」
「10センチですね」
「じゃあ、麻酔まだ出来ないんですか?」
「できないですね……下手に麻酔をしちゃうと、お産が止まっちゃったり、危険な信号を拾えなかったりする可能性が高くなるので……」
「くぅ……」
余りの悲しみに私はベッドを叩く。
「もう頑張って耐えて下さいとしか言えないんですよねぇ……。一緒に乗り切りましょうね」
「辛い……辛い……」
若い助産師さんが悲しげに言った後、急いで立ち去って行った。
辛い。本当に辛い。生き地獄だ。特に痛みの度に大便が出そうになる感覚があるのも、辛い。出ようとしているのは大便なようで、大便ではない。たぶん胎児の頭だ。
何が辛いかって、分娩が終わるまでこの痛みが続く――というか、悪化する。え? ヤバくない? これ以上痛くなるの? え? え?
そして、一時的に痛みが無くなったところで、産まなければまた、この苦しみが待っているのだ。
つまり、進むも地獄。戻るも地獄。
――地獄しか待ってない……!
とうとう激痛に呻き声が混じり始めたところで、助産師さんが車椅子を持ってやってきた。
無痛分娩については、病院によって制度が異なりますのでのご留意下さい。
茜の分娩した病院は、そうだったということで……。
将来はもっと分娩に関わる痛みが減っていることを祈ります……。




