五話 恋人(3)
お祭りの帰り道、悟の手を引っ張って公園に行った。
近所の公園では、主に中学男子達がたむろして、楽しそうにはしゃいでいる。
私達は公園の隅の縁石に並んで座る。
声を出す前に、私は大きく深呼吸した。
「――いつから好きだったの……?」
顔を見るのが恥ずかしくて、足元ばかりを見てしまう。
公園に連れてくる時に繋いだ手が、じわりと汗ばんでくる。
「うーん……たぶん、初めて会った時から?」
「え? 一目惚れ?」
驚いて振り向くと、悟と目が合った。
その瞳が、楽しそうに笑う。
「初めて会った時から、茜は特別だったから」
「なんで?」
「それは、恥ずかしいから秘密」
「恥ずかしいって……珍しいね」
私がクスリと笑うと、悟も同じように笑った。
悟が秘密というからには、問いただしてもきっと打ち明けてくれないだろう。
「もし付き合ったらさ――どうなるかな?」
少し声が震えた。
きっと悟にはバレているだろう。
悟は夜空を見上げ、少し考えてから、私を見た。
「お互いの『付き合う』の定義によるんじゃないかな?」
『定義』という、恋愛とはかけ離れていそうな言葉に、思わず目が白黒する。
「僕にそんなことを聞いてくるってことは、茜はさ、『付き合う』ってことに対して漠然と怖いと思ってるんだよ。だから、もし僕達が付き合うとしたら、世間一般的な『付き合う』に当てはめなくてもいいと思う」
「つまり、悟が言いたいことは、もし付き合っても、ほとんど今のままでいいんじゃないかってこと?」
私の言葉に、悟は「よくおわかりで」と笑う。
視界が、ふっと開けた気がした。
「まあ、僕の希望的には、希望だよ? 付き合ってくれると嬉しい」
「ふふ、その心は?」
「付き合う――恋人になってくれれば、茜に寄り付く男子を追っ払いやすくなる」
唐突な発言に、思わず私は吹き出してしまった。
「え? もしかして今までそんな事してたの?」
悟は静かに頷く。
茶目っ気はあるが、末恐ろしく感じると同時に、呆れてしまう。
――あ〜、涼香達は悟のこの辺の行動を知ってたのね……理解。
「あと、女子に告白されても、彼女いるんで、って言えるしね」
しれっと言う悟に、思わず驚く。
「え、告白されたことあるの?」
「あるにはあるけど、僕じゃなくて、僕の頭の良さ欲しさに、ってところだと思うよ?」
「なんか、それはそれで悔しいね」
「ふふっ、そうだね」
「まあ、そういう理由もあって、茜が好きなんだけどね」
さらっと言われて、顔が赤くなる。
「確認なんだけどさ、僕は茜の恋人ってことでいい?」
「……はい」
「じゃあ、改めて。これからよろしくお願いします」
「よろしくお願いします」
緊張しながら返事をすると、悟は私の顔を見て、へらっと笑った。
「まあ、基本は今までと変わらないから、安心してね」
「うん……」
――それは有難いような、残念なような……。
「ふふ……僕としては、大きな前進だけどね」
私の手を握る手に、少し力がこもる。
蒸し暑い夏の夜。
夜空には、涼やかに煌めく星達が散らばっている。
公園でたむろする中学生が、
「あのカップル、イチャイチャしてらー」
と言っているのが、小さく聞こえた。
その言葉に、胸の奥が少しだけ温かくなった。




