五話 恋人(2)
私は頭を抱える。
こんなところでこんな……こんなサクッと告白なんて……。しかも公開処刑に近い……。恥ずかしい……穴があったら閉じ篭りたい。天照みたいに岩戸に隠れたい……。いや、それで外で悟にパーティされても困る。
「なになにー、どしたー? やっと告白したのー?」
真由がりんご飴を食べながらやってきた。
「真由ーー!」
「やっと告白したわー。公開だったけど」
「やっとかー。んで、付き合うの?」
飄々と悟に問い掛ける真由。私は羞恥心のあまり真由を睨むが、真由は全く気にしない。
「それは茜次第だよ。そもそも茜が僕のこと好きかも、明言されてないし。僕は今のままの関係でも、茜の傍に一番いられる存在であれば満足してるから」
悟の言葉で、涼香と真由の視線が私に集中する。
「どうすんの?」
「健気な悟を放っておくの?」
「茜も本当は好きなんでしょ? さっさと吐いちゃいなさい」
「〜〜っ!」
涼香のお父さんが気まずそうにみたらし団子を焼いている。
「――時間を……私に時間をください……っ!」
私の言葉に、二人は「え〜」と落胆したような声を上げる。
「うちら結果分かんないじゃん」
「すぐ出せ、今出せ、さっさと出せ!」
「二人とも、ちょっとそれは酷では……?」
悟が若干引き気味なのを無視して、二人はデモを始める。
「もう! 他人事だと思って! ちょっとは公開処刑されてる私の身にもなって!!」
私が涙目になりながら――いや、少し泣いてるわ――怒ると、二人はやり過ぎたと軽いフットワークで謝罪してきた。
「じゃあ、話を変えましょう」
急にエアマイクを握り出す涼香。おもむろに真由へマイクを向ける。
「最近の恋愛事情はいかがでしょうか?」
「今は5月に付き合い始めた、同じクラスの男の子と付き合ってまーす」
「くぅ〜! さすがモテ女・真由選手! 途切れませんねぇ!」
「涼香選手はいかがでしょうか?」
「イマイチ好きになれる男子がいませーん!」
「あちゃー、合コンしてみる?」
「いや、そこまではいいや」
――父親が隣にいるんだけど、大丈夫なのかな?
チラッと涼香のお父さんを見ると、安心したように溜息をつきながらタオルで汗を拭いていた。
「二人は高専どうなん? 悟に至っては寮生活なんでしょ?」
「授業はまだ基礎的な勉強が多いけど面白いよ。寮生活も実家に比べたら滅茶苦茶快適。研究も捗るし」
「そういや悟のお母さん、どうなったん?」
「さぁ? 今日帰っても誰も居なかったよ。全然、人が居る雰囲気じゃないから、誰かの家に転がり込んでるんじゃない?」
「あ〜……」
悟の棘のある言い方に、皆なんとなく察してしまう。
これは早々に話題を変えた方がいいだろう。
「悟、高専の授業でも物足りないんじゃない?」
「まあ、ちょっとはね。でも進学校でずっと大学進学向けの勉強をするより、基礎的でも専門分野を実践的に学べるのは有意義だよ」
「確かに……」
「でも茜もちょっと物足りない側なんじゃないの?」
「私は凡人だから、そんなことないよ」
「茜も悟と二人で天才って言われてた癖にー」
茶化してくる真由に、私は慌てて手を振る。
「私は偽物! メッキ物の天才みたいなものだよ! 本物の天才は悟だけ! 私は悟に色々させられただけ!」
「そうね……あの勉強量を見てると……まぁ……」
皆、悟のスパルタ的な私への指導を思い出し、しみじみとする。
「でも、茜の努力もあってこそだよ!」
無邪気に言う悟を、私は睨む。
「努力というか、ほぼ強制だったよねー」
「そりゃ、霊視装置の発明をするなら、生半可な学力じゃ足りないからね」
「そこを明示しないで、約束させたでしょ!」
なんのことかな? と悟が白々しく笑う。
「それで、霊視装置の開発状況はどうなの? 高専は電子情報工学科だったよね? 関係あるの?」
「あるよ。開発には情報分野が欠かせない」
「どっちかって言うと、装置だから機械的なイメージだけど」
「霊視装置を開発するには、霊視能力のメカニズムをまず解明しないといけない。でも恐らく霊視のメカニズムは人間の脳に起因している。だからサーモグラフィーみたいに、特定の現象を直接観測できるわけじゃない。ここまでは分かる?」
「分かんないけど、続けて?」
涼香の言葉に笑いながら、悟は続ける。
「だから、霊視している最中の人の脳を探らなきゃいけない。これって、すごく大変そうじゃない?」
「うん、それは大変そう」
「僕達はまず、この解析をコンピュータ……正確には人工知能にさせようと思ってるんだ。人間だと解析中に休まなきゃいけないけど、人工知能なら休みなく、しかも上手く作れば人間よりずっと高性能な解析ができる」
「人工知能って……SFみたいだね」
「まあね。でも人工知能が活躍する日はどんどん近付いている。決してSFのフィクションなんかじゃない」
理解を放棄したらしい真由が、難しい顔で悟に聞く。
「それで、進捗の方はどうなんだね。悟君」
「今は人工知能の開発について学びつつ、開発チームになってくれそうな人を探してる。霊視能力がある子が二人、人工知能の開発に興味がありそうな子が二人いるかな」
「そうなの。視える同級生が二人もいたんだよ!」
「仲間増えたじゃん」
「そういや、うちの高校、隣城が城跡なんだけどさ、なんか噂だと落ち武者の霊が中庭に出るらしくて」
「あー、本当みたいだよ?」
「え、見たの?」
「私は視てない。近所のお姉ちゃん」
「あ――神社の――」
楽しい雑談は続く。
悟をチラリと見上げると、悟も私も見ていた。
いつものようにニコリと笑う。
先程の告白なんて、何も無かったかのようなその笑顔に、胸の奥がざわつく。
悟はもう、答えを求めていなかった。
それが優しさだと分かってしまったからこそ、私は何も言えなくなった。




