五話 恋人(1)
「はぁ? 茜たち、まだ付き合ってなかったの?!」
近所のお祭りで、みたらし団子の並ぶ台の前で涼香が毒づいた。私は涼香から買ったみたらし団子を一本、口に頬張る。蒸し暑い夜なのに、背筋がヒヤッとした。中学卒業以来、久しぶりに会ったのだけど、涼香の言葉は相変わらずだ。
「いや、私も悟も、お互いにあんまりそういうのに興味がないというか……そもそも、悟が私を好きかどうかも分かんないし……」
「いやいやいやいや、悟は茜にゾッコンだから。他の子が好きとか、ありえないから」
「んー、どっちかと言うと兄弟じゃない?」
「幼なじみで二人を昔から見てきた私が言う。悟は幼稚園のころから茜ラブだから」
「えーーー、嘘だぁ!」
私には、幼稚園から中学までの悟との記憶は、ほとんどがスパルタ気味な勉強のものばかりだ。時々は息抜きに、ってお姉ちゃんとも遊んだけど、詰め込まれた記憶は……うん。勉強ばっかりだよ。
「そんなんだと、他の女の子に盗られちゃうよー」
悪戯っぽく涼香が笑うので、私はみたらし団子を食べながら涼香を睨む。
「高専でモテてるんじゃないの?」
「うーん……分かんないなぁ。同じクラスだけど、女子があんまり少ないし」
「じゃあ茜がモテてる側?! やだぁ、悟、ジェラシーよ、きっと!」
「いやいやいやいや、モテてないから。日々、霊視装置の発明に向けて勉強してますから」
「本当に凄いね、二人とも。霊視装置の発明、小学生くらいからずっと言ってるよね?」
本当は幼稚園の頃からだけど、「目標だからね」と私は苦笑いする。
そろそろ来るかなぁと辺りを見回していると、裏道から悟がやって来た。
「福山さん、みたらし二本ちょうだい」
「百六十円。すぐ食べる?」
「うん、直でちょうだい!」
悟は当たり前のように私の隣に来て、みたらし団子を食べ始める。お祭りで涼香の実家が出店しているみたらし団子屋さんは毎年人気で、お客さんがそれなりに来ている。涼香はお客を捌きながら、私たちに話を振る。
「んでさぁ、結局付き合うの?」
「ぶっ!!」
みたらし団子を一本、発射してしまう。慌てて拾い、ゴミ箱に捨ててくる。
「涼香ぁあ……」
「私はね、他人の色恋話が欲しい。何故なら今の私には縁がないから」
涼香はあっけらかんと言うが、それに私を巻き込むのは、些か自分勝手なのではないだろうか??
「んで、悟はどうなの?」
「え? 茜が付き合いたいなら、付き合うよ?」
「ぶっ!!」
最後のみたらし団子を射出してしまった。悲しみが深い……全て涼香のせいだ。
「そもそもさ、悟は茜のことが好きなんだよね?」
「そうだね。僕的には茜に散々伝えてるつもりだけど、本人には伝わってないみたいなんだ。どうやったら伝わると思う?」
「茜、変に鈍感というか、自己評価低いもんね。もうこれは直接伝えるしかないと思うよ!」
「確かに! 茜、前から好きでした!」
「ちょっと待って、軽い流れで告白されても困るし、なんか色々ツッコミたい……」
頬どころか耳の先まで真っ赤な自覚はあるが、もはやどうしようもない。
最初からずっと涼香の隣でみたらし団子を焼いているお父さんが、ソワソワしているのも知っている。
待って、お客さんも、みたらし団子を買いに行っていいか悩んでるじゃん。営業妨害もしてるよ!
――いや、みたらし屋のスタッフが原因だから、私悪くない!
つまり、私は滅茶苦茶恥ずかしい。
悟が私を好きだった嬉しさが飛んでいくほど、恥ずかしい。
悟が私の顔を覗き込む。既にみたらし団子を二本、食べ終わったらしい。
「茜、大丈夫?」
「大丈夫じゃないわい!」




