四話 悟の提案(2)
「はぁ?!」
お姉ちゃんが素っ頓狂な声を上げて、悟を見つめた。お姉ちゃんの反応に、悟はおずおずと上目遣いをする。
「……だめ?」
「ダメもなにも……無理じゃない?」
「無理じゃないよ! 僕たちならできるよ!」
「すごい言い切るなぁ……」
頬っぺたをポリポリ掻くお姉ちゃん。私は、いまひとつ実感が湧かなかった。
「だって、霊が視える人が二人もいるんだよ! そして、霊に否定的でない僕もいる。開発するなら最強チームだと思うんだよね!」
目をキラキラさせて言う悟を制するように、お姉ちゃんは「落ち着け」と悟の肩を叩いた。
「まず、ひとつ言わせて。私には目標があるの」
「目標?」
「私は神社経営がしたい」
「神職に就きたいってこと?」
「まぁ、そうっちゃそうなんだけど……ただ、神職に就くだけじゃなくて、神職一筋で生活したい。私のお父さんみたいに兼業じゃなくて」
なるほど……と悟が考え込む。
「だから、ごめんだけど、その霊を視る装置の開発主戦力にはなれない」
「……」
悟が泣きそうな顔で項垂れた。
「でも、本気でするなら協力はするよ! 霊視してほしいってお願いしてくれたら、時間の許す限りいくらでもする!」
「ありがとう、お姉ちゃん!」
そして悟は私を見た。「どう?」と窺う表情は揺れている。
ここが、私の人生の分岐点だった。私はその分岐の存在に気が付かないまま、怖々と返答する。
「さとるくんが、いっしょにつくりたいなら、わたしもいっしょにつくりたい」
「やった! ありがとう!」
悟は私の返答に破顔した後、すぐに真剣な顔になった。
「それじゃあ、茜ちゃんの学力向上計画を立てないと」
「がくりょくこうじょうけいかく?」
「うん。霊視装置――あ、霊を映す装置のことね。その霊視装置を開発するには、それなりに頭が良くないと作れないからね」
「おねえちゃんみたいに、べんきょうするの?」
「そうそう! これから、僕が茜ちゃんに勉強を教えてあげるから、一緒に頑張ろう! 今から勉強したら、茜ちゃんならまだ間に合うはずだから!」
悟に両手をがっしり握られて、私は選択を間違えてしまったのかもしれないと、ここでやっと気がついた。
お姉ちゃんを見ると、ニヤニヤ笑っている。
「青春ですねぇ」
決して青春ではなく、むしろ悪魔との契約に近かったのだけど、五歳の私はその事実が分からない。
そうとも知らず、悟は希望を語る。
「霊視装置ができると、茜ちゃんが視ているものが他の人にも視えるようになる……茜ちゃんが嘘を吐いていないって証明できるよ!」
「そうなの?!」
「神社の上の白龍も映せるはず!」
「そうしたら、龍のいるパワースポットって宣伝できていいねぇ……」
「僕はおじーちゃんとおばーちゃんに会えるかもしれない! みんないい事だらけじゃない?!」
「うん、すごい! つくりたい! いっしょにつくろう!」
「うん! 頑張って作ろう!」
私たちは、疲れ切るまで二人で輪になって踊った。
その時の私は、胸が少し苦しいことを、ただの息切れだと思っていた。
そうして、私のある意味修羅場な生活が始まった。
つまり、勉強漬けの日々である。
私が何度めげそうになっても、悟はあの手この手で私を励まし、知力の底上げをした。
その生活は、私が中学二年生で、日本最難関の大学の赤本を難なく解けるようになるまで続いた。
――あれは、本当に、辛い日々でした……。




