三話 孤独な子供(4)
帰宅後、神社の広間で集まるのが、僕と茜ちゃんとお姉ちゃんのお決まりになって、半月ほどが経過した。
僕はお姉ちゃんに勉強を教え、茜ちゃんはおばさんが用意してくれた塗り絵や文字の練習をする。お姉ちゃんの勉強が終わると、遊びの時間だ。
「きょうはオセロしたい!」
「いいよ! 悟は茜ちゃんに二辺、私には四隅ハンデ。私は茜ちゃんに四隅ハンデね!」
「うん!」
おばさんが作ってくれたクッキーを食べながら、負けた人交代制でオセロをする。
ゆったりと流れる時間が心地良い。
「――」
ふと、茜ちゃんが僕の背後を見た。
なんだ? と思って振り返るけど、特に何も無い。
けれど、お姉ちゃんも僕の背後を見ていることに気がついて、僕は悟った。
――僕の後ろに、誰かがいる。
「――うん!」
嬉しそうに笑いながら、茜ちゃんが僕を見る。
「さとるくんのおじーちゃんと、おばーちゃんが、いつもさとるくんとあそんでくれてありがとう、これからもなかよくしてねって!」
不意に祖父母のことを言われて、心臓がぎゅっと締め付けられた気がした。
「いつもおかしやくだもの、おそなえしてくれてうれしい。おいしいよっていってるよ!」
茜ちゃんは目をキラキラさせながら、僕に伝えてくれる。
「さとるくんは、おじーちゃんとおばーちゃんとなかよしだったんだね!」
屈託なく笑う茜ちゃんの言葉に、自然と涙が流れた。
後ろを振り返っても、やっぱり誰もいない。でも、茜ちゃんと、恐らくお姉ちゃんには視えている。
「おじーちゃん……? おばーちゃん……?」
虚空に問いかけても返事はない。
ぽろりと、涙が顎から落ちた。
急に泣き出した僕を見て、茜ちゃんが焦ったように僕の手をぎゅっと握る。
「ごめんなさい、へんなこと、いっちゃった?」
僕は弱々しく首を横に振る。
「悟のじーちゃんとばーちゃん、悟を護ってくれてるんだよ。前々から悟の後ろに居たんだけど、悟がそんなに仲良しだったとは思ってなくて……言ってなくてごめんな」
――もしかして、死んでから、僕が心配でずっと見守ってくれていたの……?
「あ……あぁ……おじーちゃん! おばーちゃん!」
茜ちゃんの手を逆に握り返し、縋りつくように僕は泣いた。
「なんで先に死んじゃったの? 僕、寂しくて……会いたいよ……!
なんで僕には視えないの? 顔が見たいよ……!」
この日僕は、おじーちゃんとおばーちゃんが死んでから、初めて泣いた。
一度堰を切ってしまうと、会いたくて、寂しかった気持ちが溢れ出して、止まらなくなった。
僕には視えない二人が、茜ちゃんとお姉ちゃんには視えることが、この時は羨ましくて堪らなかった。
僕が落ち着いた頃、お姉ちゃんが言った。
「悟も、頑張ってたんだね」
そう言って、頭をくしゃくしゃに撫でる。
茜ちゃんも、わさわさと僕の背中を撫でてくれた。
「そうやって、また泣かせるようなこと言わないでよ……」
「いいじゃん、泣けば。まだ五歳だよ? 泣けるところで、泣きたいだけ泣けばいい」
「お姉ちゃんって、どっか達観してるよね」
「ほら、私って徳が高いからさ」
「……ありがとう」
僕がお礼を言うと、お姉ちゃんは「いいってことよ」と鼻を鳴らした。
「茜ちゃんも、ありがとう。茜ちゃんが教えてくれなかったら、僕はずっと、おじーちゃんとおばーちゃんが護ってくれてるって、知らなかったかもしれない」
茜ちゃんが、ぱっと笑顔になる。
「はじめて、おばけがみえててよかったとおもった」




