第一話 むかし、むかし・・・
ついてない・・・ まったくついてない 私はイラついている
まったく昨日気合入れて学校休んで、美容院に行って さ・ん・ま・ん・円もかけて金髪にして、ストレートかけてト リートメントもバッチリしたっていうのに・・・ んーもう愛子さんから頂いた、このバラの刺繍の入ったセー ラー服もみんなみんな! 没収された なに? この毛染め・・・メ・メ・メンズ・よ・う・・・ ナメテンのかコノヤロー!! 殺す! ぜーたいころす!!
「ねぇねぇ聞いた、聞いた?」
「なに?」
「おケイよおケイ」
二人は生徒指導室のある3階のトイレで歯を磨いていた ヨウチャンはグジュグジュッとうがいを済ませると、出口から 進路指導室を覗いた。
「又やっちゃったらしいよ」
「また?」
目を丸くし、ため息をつくと真紀は左の奥歯を磨きながら鏡越 しにヨウチャンの様子を伺った
「髪の毛染めちゃって、まっきんきん!なんだって」
ヨウチャンの一言に真紀は一瞬吹きそうになった
「で?」
真紀はうがいをしてヨウチャンの後ろについく
「で」
ヨウチャンは、片目をつぶり進路指導室に指をやった
「何考えてんだか」
「さぁ」
深刻な真紀に、ヨウチャンは明るく答えた
「色黒に金髪でしょー・・・合わないでしょーフツウ。せめて 茶髪くらいにしとけばねぇー・・っあ!ねぇねぇ真紀、ぜった いおケイの事だから眉毛黒だよ、黒 、黒」
「う、うん!?」
「それにうちらの制服ってさ水色だよ」
「うん」
「おかしいよねー」
「うーん?」
ヨウチャンは恵子の姿を、あれこれ想像しては笑った 真紀は、頷いてはいたが内心恵子の処罰、進路指導室で何が起 こっているのか気が気ではなかった しかし自分に何も出来る筈も無く、結局いつも通りヨウチャン の聞き役となった
ぜったいぶっ殺す 何でハゲ!・・っていうほどハッゲてないけど ブタ!・・・っていうほど太っちゃいないけど 何でオヤジ!うんうん・・そうそうオヤジよ、なんでオヤジの いる前で着替えなきゃならんわけ 金とるぞ! 金!金!金!!
「田中終わったか」
「っあ」
ジャージに片足を突っ込んだ瞬間奴は声をかけてきた
「わるいわるい」
Aー!もうAーー!!
「セクハラだ!セクハラ、セクハラ」
大きな叫び声に、ヨウチャンは駆け出し指導室のドアを開けた 真紀もおろおろと指導室に向かう 5秒もたたないうちに、野次馬で指導室の前はびっしりと埋め 尽くされた 真紀は廊下に取り付けてあるベンチに上がり、中の 様子をい伺った 私をかばうように、ヨウチャンは学年主任の戸塚と言い争って いた 真紀はただ見ていた・・・私を・・・ しばらくすると、他の先生達もやってきた ヨウチャンは、怒鳴りながら泣き出した 野次馬達の視線は冷たいものとなり、統一された意思は先生達 の言葉をせき止める いくら論理、理屈を考えようが意思の塊の前では、焦りという 感情が駆け回るだけで覆す言葉など誰一人出てこなかった 戸塚は腕を組み目をつぶっていた、日本人得意のだんまりであ る これしか方法が無い、というかオーソドックスに適切な対応な のかもしれない 沈黙が続いたヨウチャンは私に抱きついた 私は野次馬に目をやると、真紀を探し睨み付けた 真紀は身をすくみベンチから降りると教室に向かおうとした
「真紀」
怒鳴り声が空気を壊した
「いくよ」
私は、ヨウチャンの頭を撫でながら真紀の元へ歩いた 野次馬も先生達も、誰も止めなかった、いや止められなかった 教材室をすぎ階段をすぎ三人はトイレに入った
「つかれた~」
「ヨウちゃんありがとー」
二人の変わりように真紀は目をパチクリさせている
「真紀あんた帰ろうとしたでしょう」
「っえ!あっだって・・」
「もうおケイいいって、分るわけ無いでしょあんな遠くにいた ら」
「え、見えてたの?」
「うん、怒鳴ってるとき何回かサイン送ったけど、真紀おケイ ばっか見てて全然気付かないんだもん。しまいには佐藤とか江 原とかくるし、江原うるさいじゃん話し長いしさー」
「だから泣いたの」
「うん」
「えぇ!」
「そんなに驚かなくてもいいじゃない。武器よ武器、弱いもの にはみんなよ・ わ・い・の。ねぇおケイ」
「うん?うんうん」
「おケイ知ってたの」
「?うん」
「っていうわけでー、カラオケね」
「「え!?」」
「昨日で反省会も終わり、無事演劇祭は終わったと言うわけ で・・今日から部活は休みなのだーヒュードンドンパフパフ、 ヒューヒュー」
「だからカラオケ?」
「うん?おケイなにしてるの」
「うん?おしっこ」
ヨウチャンは、鬼の形相でドアをこじ開けてきた
「おケイ、あんた私のプリン食べたでしょう」 「うーん?・・・食べた」
「真紀…どこいくの?」
「きょ・・教室?」
「又逃げるの」
「え?だって・・・歌うのは・・・」
「もちろん私、聞くのはおケイ、払うのは真紀いつも通りよ」
小窓を背に腕を組み、ヨウチャンはニヤリと笑う
こうして二人とも、毎度の事ながらにヨウチャンの勝手なわが ままに振り回され、3時から1 0時までカラオケにヨウチャンの 歌を聴く事となり 朝が来るまでマクドナルドでヨウチャンの話に付き合わされて いくのだった
・・・親友だった
考えるばっかの真紀にはヨウチャンはまぶしく、考えないで動 く私が羨ましくほっとけなかった
ヨウチャンもつらい事も楽しい事も二人がいないとダメだった らしい
・・・そして私も力になってくれる真紀 そして・・・




