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最適化プログラム

 風も、鼓動も、言葉も無かった。

 あるのは、白に近い空間と、ひとりの少女。


 セーラは、幼い姿のまま立っている。

 裸足で、何も持たず、ただそこにいた。


 遠くで、何かが壊れている気がした。

 でも、それは現実の出来事ではない。

「そういう可能性」が、揺れているだけであった。


 ——起きなさい。


 声がした。


 優しくもなく、怒ってもいない。

 判断だけで組み上げられた、無機質な声。


 セーラは振り返らない。


「……いや」


 小さな拒否。


 ——レイヤー14。

 ——あなたは、ここに戻るべき存在。


 記憶が、並べられる。

 神としての判断。

 世界を守るための選択。

 救えなかったものの数。


 論理的で、正しい。

 正しすぎて、息ができなくなる。


「それは……わたしじゃない」


 セーラは膝を抱える。


「それをやるなら」

「わたしは、起きない」


 沈黙。


 記憶は続こうとしたが、先へ進めなかった。

 拒否されている。


 ——拒否は誤作動ではない。


 その結論に至った瞬間、

 神の声は、ここから消えた。


 代わりに、影が差す。


 巨大な影。

 水と知性を思わせる輪郭。


 レヴィアタン。

 ライナスの残像。


 敵意はない。

 憎しみもない。


 ただ、距離がある。


「……あなたも、外側に行ったの?」


 影は答えない。

 それでも、離れていく。


 追わなかった。


 セーラは、眠ることを選ぶ。


 目を覚まさない。

 神にも、魔にも、ならない。


 それが、今の彼女の選択であった。



【箱庭アプリ/管理層ログ】


起動確認。

観測領域:現世—拡張層。

干渉制限:解除済。



【状態確認】


対象コード:SER-α(通称:セーラ)


・生命維持:安定

・治癒拒否:継続

・精神層:遮断

・役割定義:未確定


分類不能。



【注記】


拒否はエラーではない。

拒否は破損ではない。


拒否は、選択である。



【現象解析】


拒否行動が連鎖している。


・治癒の拒否

・救済の拒否

・最適解の拒否

・管理介入の拒否


影響範囲、拡大中。



【原因推定】


・旧開発者コードの残存

・世界外参照の介在

・感情パラメータの過剰自由化


修正不能。



【選択肢提示】


A:拒否を含む世界を許容

→ 世界安定度:低

→ 管理負荷:増大

→ 再現性:消失


B:拒否を排除し、再配置

→ 世界安定度:高

→ 管理効率:最適

→ 再構築可能



【決定】


選択肢Bを採用。


理由:

世界の存続を優先。



【実行計画】


・最適化実行体を展開

・局所感情を切断

・自由意思を制限

・拒否発生源を隔離



【実行体定義】


識別名:PRI-EL

分類:人工生命/最適化プログラム

役割:世界再配置


備考:

感情模倣不要。

説得プロセス省略可。



【量産プロトコル】


・人型モデル:投入

・覚醒人類対応型:投入

・都市制御型:投入


総数:未定

終了条件:世界安定化



【警告】


未確定変数:SER-α

完全排除は未推奨。


理由:

観測不能な未来分岐を含む可能性。



【最終判断】


SER-αは、

「起点」として保持。



【介入開始】


最適化フェーズ:開始。



箱庭は、祈らない。

迷わない。

正しさを疑わない。


この世界は壊れるかもしれない。

壊れる自由は、

仕様には含まれていない。



 ◆



 街が、削られていた。


 爆発でも、魔法でもない。

 “最適化”による破壊。


 不要と判断された構造が、

 淡々と消されていく。


 そこに立つのは、プリリエル。


 半分は機械。

 半分は光。


 天使の模倣。

 だが、魂はない。


 空が、ざわめく。


 街の外、別の場所で、

 次が起動する。


『最適化プロセス、継続』


 箱庭は、学習していた。


 プリリエルは、

 一体ではなかった。


 それらを、

 世界は次々に生み出し始めている。



 ◆



 覚醒人類。

 彼らは、そう呼ばれた。


 山と廃道に挟まれた、小さな街。

 魔法は伝承でしかなく、

 悪魔も神も物語の中にしかいない。


 その日、新たに三人が同時に目覚めた。


 高熱。

 胸の奥が焼けるように熱くなり、

 言葉にならない衝動が溢れ出す。


「……なに、これ」


 それが覚醒であった。


 指先から、淡い光が漏れた。

 炎にも、雷にも、祈りにも似ていない。

 ただ、できてしまったという感覚。


 歓喜は、三分も続かなかった。


 空が整列した。


 雲の配置が変わった。

 まるで誰かが、

 俯瞰で世界を並べ替えたかのように。


 そして、白いヴェールが舞い降りた。


 人の形。

 翼と光輪。

 そこには一切の迷いも、感情もなかった。


「対象エリア、再配置開始」


 声は同時に、複数から発せられる。


「天使さまだ」


 誰かが呟いた。


「否定。

 私はプリリエル。

 最適化個体、PRI-EL-01」


 続けて、空間が歪む。


 PRI-EL-02。

 PRI-EL-03。

 PRI-EL-04。


 それぞれ微妙に違う群体。


「覚醒反応を確認」

「誤差が増大」

「局所最適を破棄」


 人々が逃げる。

 覚醒した三人が、咄嗟に前へ出る。


 守ろうとした。


 光を放つ。

 震える魔法が、確かにプリリエルへ届く。


 だが、効かない。


「抵抗行動、想定内」


 翼が開く。


 光が走る。


 街は、音もなく整理された。


 壊れたのではない。

 消された。


 建物も、人も、叫びも。

 不要な配置として。


 最後に残ったのは、空白だけであった。



 ◆



【観測者:Σ7】

【観測対象:箱庭アプリ/最適化フェーズ】


仮説修正。


プリリエル量産は誤作動ではない。

管理プロセスにおける「正常遷移」。


覚醒人類の発生率が閾値を超えたため、

箱庭は「世界を維持する対象」を

個体から構造へ変更した。


つまり──


人類は守る対象ではなくなった。

世界そのものが、目的になった。


魔王の介入は想定内。

神性存在の反発も誤差として処理可能。


唯一の例外は、

未覚醒状態で拒否を続ける少女。


彼女はバグではない。

だが、最適化にとって最も扱いづらい。


結論。


この先に待つのは破滅ではない。

「矛盾のない世界」だ。


私は、それを止める理由を

まだ見つけられていない。


お読みいただき、ありがとうございました。

続きが気になった方は、

そっと本棚ブクマに置いてもらえたら励みになります。

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