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設計思想

 村には、まだ余熱が残っていた。

 燃えたのは建物だけじゃない。

 村の手触り自体が、もう思い出せないものに変わっていた。


 セーラは傷を負ったまま眠っている。

 その傍で、カイとイリスは武器を下ろさず、

 立っていた。


「……まだ、終わってないよね」

 イリスが呟く。


「そうだな…」

 カイも気を抜かなかった。


 張り詰めた空気。


 そこには、オルドとはまた別の、

 光の存在があった。


 瓦礫の向こうから、白が立ち上がる。

 人の形をしているのに、人ではないと分かる。

 翼。光輪。過不足のない造形。


「……天使?」


 カイの声に、オルドの眉がわずかに動いた。


「……いいえ」

 白い存在は、首を横に振った。


「私はプリリエル。

 世界を、正しい形へ戻す者」


 穏やかな声。

 なのに、聞いているうちに生命的な体温を

 忘れそうになる。


 ジュリアンの通信が割り込む。


『……変だ』


【照合不能】

【天界反応なし】

【神界ログ未登録】


『天使なら、何かしら痕跡が残るはずだ』


 プリリエルは、聞こえていないかのように続ける。


「この少女は特異点です。

 拒否は誤作動。再配置が必要」


 それを聞いて、熾天使に扮したオルドが、

 一歩前へ出た。


「……その口ぶり」


 オルドは六枚の翼を広げず、

 ただ、視線だけを向ける。


「その姿」


「君は箱庭の設計思想だな?」


 プリリエルの視線が、初めて彼を捉えた。


「……あなた、

 世界の外側を知っている」


「さてね」

 オルドは肩をすくめる。


「とぼけても無駄、理解しています」

 プリリエルの声が、訝るように低くなる。

「あなたは、作る側の存在」


 解析中のジュリアンの指が、止まった。


『そいつは普通の天使ではない』

『世界を維持するための──』

『最適化装置』



「……ふぅ」

 オルドは嘆息をついた。


「私は、最善を選ぶ」

「世界を存続させるために」

 目を閉じてそう語るプリリエル。


「その最善に……」

 カイが前に出る。

「人の気持ちは入ってるのか?」


 プリリエルは、初めて言葉に詰まった。


「……感情は、誤差です」


 それ以上、確かめる必要はなかった。


 彼女の翼が、わずかに開く。

 オルドに向けて、鋭利な光の束が振りかざされる。



(ガキィィィィン)



 鋭い金属音。


 イリスの剣が、その攻撃を弾いた。


「……させない」



「大丈夫だ」

 オルドが手を上げて、イリスを制する。


「俺を排除しようとした君は、間違ってない」


 プリリエルが静かに止まる。


「だが、この世界は、

 拒否されることも……最初から、許されてた」

 オルドは眠るセーラをちらと見る。


 数秒の沈黙。


「理解不能ね」

 プリリエルは戦意を収める。

 光が収束する。


「再評価を行う」

「次は、もっと広く」

 そう言うと彼女の身体は、瞬間的に強く明滅し、

 その場から跡形もなく消えた。


 残ったのは、壊れた静けさだけであった。


『……厄介だな』

 ジュリアンの声が震える。


『あれは、恐らく、箱庭のシステムが生んだものだ』




【再評価ログ:PRI-EL】


拒否反応:確認

感情由来:不一致

※再解析中

※基準値と不整合


自由意思

仕様外?

あるいは……


旧開発者の介在により、

世界は最適から逸脱している


次回介入時、

少女を起点に

(未確定)

全体再配置を試行

※成功率未算出



 ジュリアンは、箱庭アプリの画面を見つめたまま動けなかった。


 偶然、破綻、そのどちらでもない。

 システムによって、こうなるように作られている。


『……仕様だ』


 神の失敗か

 悪魔による悪戯か。


 拒否する自由。

 壊れる余地。

 正しさに逆らう、どうしようもない瞬間。


 全部が混ざっている。


『だから……安易に修正できない』

『直した瞬間、別の世界になる』


 画面の向こうで、少女が眠っている。


 世界は少女をバグとして扱わない。

 中心として、それはまだ選ばれていない。

 箱庭は……そう思いたかっただけかもしれない。



 瓦礫の隙間で、

 セーラの指が、わずかに動いた。


 ライナスから受けたセーラの傷は、

 塞がらなかった。


 血は止まっている。

 けれど、治らない。


 オルドが癒しの手をかざす。

 光は、確かに届いている。


 それでも、変わらない。


「……拒んでいるな。セーラ自身が」


 眠ったまま、セーラは

 癒やされることを遠ざけていた。


 まるで誰かに守られることさえも、

 拒絶するかのように。


お読みいただき、ありがとうございました。

続きが気になった方は、

そっと本棚ブクマに置いてもらえたら励みになります。

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