特別収容報告書 HKO-Λ0001
オブジェクト番号: HKO-Λ0001
オブジェクトクラス: Keter
管轄: HKO統合管理局
監査: Σ7監査課
文書区分: 内部閲覧限定(Σ7以上)
作成者: 観測官補佐《MNEMOSYNE》
通称: ルシフェル(転移前呼称)
備考:
HKO-Λ0001は収容不能である。
ただし同時に、他の神性侵入事象を抑止している唯一の存在であるため、
排除・隔離・封印はいずれも実施不可と判断された。
本対象は、
「存在を許容すること自体が世界安定に寄与する」
という例外的判定を受けており、
最重要監視対象としてレベル5セキュリティプロトコルが適用される。
■ 概要
HKO-Λ0001は、
複数の神性・概念存在を内包した統合型超越存在である。
当該存在は自らを「支配者」や「神」と定義せず、
行動原理は一貫して以下に集約される。
不要な可能性の消去による世界最適化
HKO-Λ0001は、
対象を追跡・攻撃・交戦することはほぼない。
代わりに、
•道が崩れる
•門が閉じる
•選択肢が成立しなくなる
といった形で、
「結果としてそうなった状態」を成立させる。
■ 収容方針
収容は不可能。
HKO-Λ0001は、
•時空固定
•神性封印
•概念隔離
•多層現実遮断
いずれの試行においても、
実施前に成立条件そのものが消失する。
記録上、
収容計画が成功した事例は存在しない。
失敗した事例も、厳密には存在しない。
計画が「失敗する」という未来が
計画立案段階で消失するためである。
■ 物理的破壊能力について
誤解されやすいが、
HKO-Λ0001は物理的破壊能力を保持している。
以下は過去ログより確認された事例。
•神性装甲体の接触前崩壊
•神格存在の質量・概念同時破砕
•半径数十kmに及ぶ地形の因果圧縮破壊
•世界層を跨ぐ衝撃波的干渉
ただしこれらは、
戦闘の結果ではない。
HKO-Λ0001が
「そうなる必要があった」と判断した際、
世界側が耐えきれず壊れた結果である。
■ 行動特性
•HKO-Λ0001は基本的に歩行する
•移動に転移・瞬間移動を用いない
•対象に気づかれない距離を維持する
•追跡は行わない
獲物が自ら来たと思い込むまでが、
彼の「狩り」である。
■ 事故ログ記録
HKO-Λ0001 関連事象
※以下の記録は、
HKO-Λ0001が「選択肢消去ではなく、結果として物理破壊が発生した」
初期〜中期観測事例である。
⸻
■ 事故ログ Λ-01
《神性装甲体崩壊事例》
発生日時: 不明(転移直後推定)
発生地点: 旧・天界座標層β-12
関与存在: 神格防衛機構《████████》
■ 概要
HKO-Λ0001が天界層に侵入した際、
防衛用に展開された神性装甲体が
交戦前に崩壊。
■ 詳細
・HKO-Λ0001は停止状態で歩行
・武装・詠唱・神性励起なし
・距離:推定18m
装甲体は、
「攻撃を開始する」という状態に至る前に
自壊した。
■ 観測結果
•神性結晶:全損
•概念防壁:未展開
•破壊音:なし
■ 分析
破壊ではない。
「装甲体が存在し続ける意味」が消失したと推定される。
注記:
この時点で、HKO-Λ0001は
「殴れば壊せる存在」ではなく
「壊れた結果だけが残る存在」として分類された。
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■ 事故ログ Λ-02
《地形因果圧縮事例》
発生日時: 観測暦██年
発生地点: 地上層・旧大陸西部
影響半径: 約42km
■ 概要
HKO-Λ0001の通過後、
広範囲の地形が一瞬で押し潰された状態で固定。
■ 詳細
・地震波なし
・爆発反応なし
・熱反応なし
にもかかわらず、
•山岳が低地化
•河川が消失
•建造物が「最初から存在しなかった」状態へ再配置
■ 観測結果
地形は破壊されていない。
「成立しなかった」形に再定義された。
■ 補足
現地住民の証言は一致している。
「音がしなかった」
「気づいたら、もう終わっていた」
「逃げる必要がなかった」
■ 分析
HKO-Λ0001は
物理エネルギーを行使していない。
世界側が、耐えきれず折り畳まれたと考えられる。
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■ 事故ログ Λ-03
《神格存在・同時破砕事例》
発生日時: 観測暦██年
発生地点: 多層現実交差点《NODE-Δ》
■ 関与存在
•神格存在A
•神格存在B
•神格存在C
いずれも単独で
国家級災害指定を受けていた存在。
■ 概要
三体は、
HKO-Λ0001を排除対象として認識。
交戦開始から
0.3秒以内に全存在が消失。
■ 詳細
・神格A:質量崩壊
・神格B:概念剥離
・神格C:存在履歴消去
破壊方法が統一されていない。
■ 観測結果
戦闘ログは存在しない。
残されたのは、
•クレーター
•焼失
•消失
という結果のみ。
■ 分析
HKO-Λ0001は、
「敵を倒す」という処理をしていない。
敵対関係が成立した世界線が、即座に閉じられた。
■ 総合所見(Λ-01〜03)
これら三件は、
HKO-Λ0001が
•破壊できる
•殲滅できる
•消去できる
存在であることを明確に示している。
同時に、
それを“選ばない”という選択肢を持っている
という、
より深刻な異常性を示している。
補足注記(Σ7)
これらは、
彼が「まだ世界に慣れていなかった頃」の記録である。
Λ-04以降、
彼はほとんど壊さなくなった。
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■ 事故ログ Λ-04
《接触事例 ――彼が唯一、手を伸ばした存在》
関連オブジェクト: HKO-Λ0001
文書区分: 内部閲覧限定(Σ7以上)
編集権限: 監査課・観測班合同
備考: 本記録は、複数回改訂・削除要請を受けている。
最終版のみが保存されている。
■ 発生日時
観測暦 ██年 ██月 ██日
(※正確な時間記録は存在しない)
■ 発生地点
地上層・未登録地域
旧文明圏外縁/人類居住限界線付近
■ 概要
HKO-Λ0001が
初めて自発的な身体接触を行った事例。
対象は、
当該時点で脅威指定・観測対象・異常指定
いずれにも該当しない存在であった。
■ 対象情報
識別名: 未確定
分類: 人類個体(年少)
状態: 生存
特記事項: なし(当時)
※本対象は、
後の記録において《中心候補》と再分類されるが、
本ログ作成時点では未認識であった。
■ 事象経過
HKO-Λ0001は、
当該地域において通常通り歩行を継続。
周囲環境における事象:
•通行不能地形の成立
•生物活動の収束
•音環境の単純化
※いずれもΛ-02以前と同一傾向。
■ 異常点
対象個体は、
唯一、移動を止めなかった。
逃げない。
祈らない。
恐怖反応を示さない。
ただ、
足元の小石を拾い、
少し先へ置く行為を繰り返していた。
■ 接触記録
HKO-Λ0001は、
対象の前で初めて停止。
ここで通常であれば、
以下のいずれかが成立するはずであった。
•対象の回避
•対象の消失
•対象が存在しない世界線への移行
しかし、
いずれも成立しなかった。
■ 行動ログ
HKO-Λ0001は、
1.右手を上げ
2.膝を折り
3.対象と同じ高さまで視線を下げ
4.手を伸ばした
この間、
周囲で発生していた選択肢消去現象は
完全に停止。
■ 接触
指先が、
対象の肩に触れた。
この瞬間、
観測班の全機器が一斉に警告を発した。
•因果安定値:急低下
•中心偏差:急上昇
•世界線固定率:未測定域へ逸脱
にもかかわらず、
物理破壊は発生しなかった。
■ 対象の反応
対象は泣かなかった。
悲鳴も上げなかった。
ただ、
次の発言を記録している。
「……あったかい」
■ HKO-Λ0001の発言記録
音声としては残っていない。
だが、観測ログに
概念的応答が検出されている。
「──まだ、早い」
この発言以降、
HKO-Λ0001は手を引き、立ち上がり、
通常の歩行を再開。
■ 事後影響
•対象は消失していない
•記憶改変なし
•環境破壊なし
ただし、
以後、この地域では
「戻れる道」が一切生成されなくなった。
■ 分析
Λ-04は、
HKO-Λ0001の全記録の中で
唯一、
•選択肢を消さなかった
•破壊を行わなかった
•対象を「狩らなかった」
事例である。
■ 監査課注記(Σ7)
彼は、この存在を
「消せなかった」のではない。
消さなかった。
■ 観測官補佐 私見(削除要請却下)
HKO-Λ0001が
世界を壊さない理由は、
慈悲ではない。
壊す必要がなかったからだ。
だがこのときだけは違った。
彼は、
壊さずに済む未来を
初めて“選ばなかった”。
■ 付記
本事故ログ以降、
HKO-Λ0001の行動傾向は明確に変化している。
•物理破壊事例:激減
•間接的最適化:増加
•中心候補周辺での行動頻度:上昇
■ 結論
Λ-04は事故ではない。
例外である。
そして例外は、
この存在にとって
最も危険な兆候である。
■ 評価
HKO-Λ0001は、
最強ではない。
最も危険でもない。
だが、
最も「抗えない」存在である。
敵対した瞬間に敗北するのではない。
敵対するという選択肢自体が、
世界から消去される。
■ 総合結論
HKO-Λ0001は、
収容対象ではない。
世界そのものが、彼を前提として成立している。
彼が消えた未来は観測されていない。
正確には、
観測しようとした時点で
その未来が成立しなくなる。
■ 最終注記(MNEMOSYNE)
彼は世界を壊せる。
それを、誰よりも知っている。
だからこそ、
壊さずに済む形を選び続けている。
【内部文書参照番号:HKO-015/Σ7-Archive】
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