異常事案報告書:堕天使Lucifer_降臨事案
HKO異常事案報告書:堕天使Lucifer_降臨事案
(通称:HKO-Λ/神性非干渉型存在 観測ログ)
オブジェクトクラス: Keter(暫定/再分類不能)
※Apollyon指定を求める複数意見あり(却下)
管轄: HKO統合管理局
監査: Σ7監査課
文書区分: 内部閲覧限定(Σ7以上)
作成者: 観測官補佐《MNEMOSYNE》
備考: 本文書には削除済み文書ID《73941》の参照痕跡が確認されている。
当該文書は完全消去済みであり、復元は不可能である。
なお、参照痕跡そのものが残存している理由については、説明不能。
■ 事案番号
HKO-Λ-001
■ 事案分類
神性存在/非干渉型
観測不能階層への部分的遷移を伴う事象
■ 発生日時
神性管理構造崩壊直後
(通称:「唯一神消失事案」より連続発生)
■ 発生地点
旧・都市中央領域上空
※正確な座標指定は不可能
※当該存在は「位置」という属性を持たない
■ 概要
本事案は、
堕天使Lucifer_と識別される存在が地上に顕現したにもかかわらず、
一切の直接行動・干渉・裁定・救済を行わなかったことにより発生した。
被害報告は存在しない。
しかし、「何も起きなかった」こと自体が、観測史上最大級の異常として記録された。
■ 観測ログ抜粋
•金色の発光現象を伴う顕現を確認
•重力、時間、因果への即時影響なし
•攻撃的行動、言語的干渉、命令行動を一切確認できず
•周囲神性反応は急速に沈静化
•世界管理層へのアクセス痕跡のみを残し離脱
※離脱は「移動」ではない
※観測者側が当該存在から切り離されたと推定される
■ 特記事項:非行動の影響
通常、神性存在の顕現は、
以下のいずれかを伴う。
•裁定
•介入
•破壊
•救済
•命令
本事案では、
上記すべてが発生しなかった。
代替的に観測された現象は以下の通りである。
•人類側意思決定の自律化
•神性依存思考の急激な減衰
•世界の「期待構造」の不可逆的破損
■ 人的事象との関連
当該存在の顕現と同時刻、
人間個体「Kai」による神性管理歯車の破壊行為を確認。
注記:
当該個体は、
自らを救済対象から除外する選択を行った初の人間個体である。
Lucifer_は、
当該行為に対し評価・否定・補正を一切行っていない。
■ 分析
Lucifer_は、
神として世界を管理する存在ではない。
また、
人類を導く存在でも、裁く存在でもない。
当該存在は、以下の役割を有すると推定される。
「神という概念が機能しなくなった後」を観測する存在
期待されることによって成立する神性構造を、
“行動しないことで破壊する”特性を持つ。
■ 結論
本事案は、
救済の失敗でも、神罰でも、侵略でもない。
世界管理段階が一段階、静かに終了した記録である。
人類は未だ救済されていない。
しかし、神に委ねる段階を越えた。
■ 勧告
•当該存在への直接接触・交渉は禁止
•信仰・召喚・期待を伴う行動は厳禁
•観測のみを継続すること
■ 追記(Σ7未承認ログ)
「対象は何も奪っていない。
ただ、神である理由を失わせただけだ。」
■ 状態
観測継続中
再干渉条件:未確定
■ 付録:内部協議ログ(抜粋)
区分:Σ7以上/緊急招集記録/一部音声欠損
参加者:
Σ7-1(現場責任者)
Σ7-2(理論担当)
Σ7-3(対神性担当)
Σ7-4(広報・秘匿)
Σ7-5(監査補佐)
※本ログは自動記録であり、編集・整形は行われていない
※複数の発言が重複している箇所あり
※途中から議事進行は完全に崩壊している
⸻
Σ7-01:
まず確認する。
被害は、本当に「ゼロ」だな?
分析官A:
物理的被害、死者、因果改変、全て未確認です。
Σ7-02:
なら異常等級を下げろ。
Keterは過剰だ。
Σ7-03:
待て。
「何も起きなかった神性顕現」をどう分類する気だ?
Σ7-02:
起きてないなら“起きてない”だろう。
分析官B:
……失礼します。
その論法は、73941と同一です。
(※ここで一瞬、無音)
Σ7-02:
その番号を出すな。
Σ7-01:
続けろ。
分析官B:
73941では
「神性が行動しない=無害」と結論づけた直後、
信仰系統が三日で崩壊しました。
Σ7-04:
今回は崩壊していない。
分析官B:
違います。
“もう崩壊した後”です。
⸻
Σ7-03:
……人類側の反応は?
観測官補佐《MNEMOSYNE》:
期待の減衰を確認。
祈り、命令待ち、責任転嫁の思考が同時に失速しています。
Σ7-02:
それの何が問題だ。
MNEMOSYNE:
問題は……
次に責任を押し付ける先が、存在しないことです。
⸻
Σ7-05:
つまり人類は今、
「神がいない前提」で意思決定を始めている?
MNEMOSYNE:
はい。
Σ7-05:
それは……
それは我々の管轄外だろう。
Σ7-01:
いや。
“神の代わり”を名乗ってきたのは、我々だ。
⸻
Σ7-02:
冗談じゃない。
この情報が外に出たらどうなる?
Σ7-04:
信仰暴走、無秩序、反管理運動。
Σ7-03:
いや、もっと単純だ。
「神はいなかった」と皆が理解する。
Σ7-02:
それだけは駄目だ。
Σ7-05:
なぜだ?
Σ7-02:
それを認めた瞬間、
我々が“何者でもない”と露呈する。
⸻
分析官A:
……質問してもいいですか。
Σ7-01:
簡潔に。
分析官A:
この事案、
本当に“隠せますか”?
Σ7-02:
隠すしかない。
分析官A:
でも、現場の人間は生きています。
Σ7-02:
だから危険なんだ。
(※複数名の発言が同時に記録される)
•「口封じか?」
•「また73941を繰り返すのか」
•「違う、今回は“正しい”」
•「何が正しいんだ」
•「組織が生き残ることだ」
Σ7-01:
……決を取る。
本事案は
「被害なし・影響不明」として非公開。
ルシフェルの定義は
“観測不能・再出現未定”。
人間個体の歯車破壊行為は
単独異常として切り離す。
異論は?
(沈黙)
MNEMOSYNE:
記録します。
ただし……
この決定は、将来必ず失敗します。
Σ7-02:
それでもいい。
失敗は未来の問題だ。
※本ログはここで終了している
※直後、73941への再参照要求が発生
※要求は自動的に却下された
※理由:参照対象が「存在しない」ため
【内部文書参照番号:HKO-015/Σ7-Archive】
※当該アーカイブは、現在アクセス不能である
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