C-17関連事案ログA/B
《付録A》
■ 内部反対意見ログ(非公開)
記録区分:Σ7限定/意見対立記録
関連事案:C-17-Ω
出席者:Σ7-4、Σ7-12 他(記録上省略)
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Σ7-4:
封鎖完了。再居住判定、否。
報告書はこれで確定だ。
Σ7-12:
異論はありません。
ただし——「終息」という表現には反対します。
Σ7-4:
言葉の問題か?
Σ7-12:
ええ。
終息とは、脅威が消えた場合に使う言葉です。
Σ7-4:
敵性存在は排除された。
汚染拡大も停止している。
Σ7-12:
都市が死んでいます。
(短い沈黙)
Σ7-4:
……死という表現は、報告書に相応しくない。
Σ7-12:
では、何と書きます?
「都市概念の喪失」でしょうか。
それは、死と何が違うのです。
Σ7-4:
我々は被害を抑えた。
人口密集都市でこれ以上の結果は望めない。
Σ7-12:
同意します。
戦術的には、最善でした。
Σ7-4:
ならば問題はない。
Σ7-12:
問題は、成功条件です。
Σ7-4:
……続けろ。
Σ7-12:
我々は「殴れる神」を確認しました。
そして殴った。
Σ7-4:
必要な検証だ。
Σ7-12:
その結果、神は学習した。
都市は、その学習データになった。
Σ7-4:
では聞く。
殴らなければ、何が起きた?
Σ7-12:
分かりません。
だが少なくとも——
殴った瞬間から、我々は選択肢を失った。
Σ7-4:
それは後知恵だ。
Σ7-12:
ええ。
ですが、後知恵は次の判断材料になります。
Σ7-4:
君は、今後の対神接触を否定するのか?
Σ7-12:
いいえ。
否定しているのは
「都市でやること」です。
Σ7-4:
都市は人類の活動拠点だ。
Σ7-12:
同時に、
神話にとって最も情報量の多い教材でもある。
(沈黙)
Σ7-12:
我々は、
人間の生活圏を盾にして戦った。
Σ7-4:
……言い過ぎだ。
Σ7-12:
違います。
神話は人間を見ていません。
都市を見ている。
Σ7-4:
結論は変わらない。
C-17は封鎖。
人類は勝利を宣言する。
Σ7-12:
構いません。
ただ、
勝利の定義を、忘れないでください。
Σ7-4:
どういう意味だ。
Σ7-12:
「勝った」のではなく、
「更新を許可した」のだと。
(記録終端)
■ 付記/解析補足
本ログは、
公式記録には反映されていない。
しかし、
以降のΣ7判断基準において
「都市での神話接触を極力回避する」という
暗黙の合意形成が確認されている。
この合意は、
人類が初めて“敗北を自覚した瞬間”として
内部的に位置づけられている。
《付録B》
■ 類似事案予兆ログ(C-17模倣事案)
記録区分:内部解析用/未公開
関連分類:神話適用範囲 拡張兆候
重要度:橙→赤(移行中)
■ 概要
C-17事案終息後、
世界各地の都市データベースにおいて、
同一構文を持つ意味欠損現象の初期兆候が検出された。
当該現象は、
敵性存在の出現・侵入・顕現を伴わない。
代わりに観測されるのは、
「都市機能は正常だが、説明が成立しない」という
概念レベルの齟齬である。
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観測ログB-1
地点:内陸都市D-03(人口約140万)
•信号機は稼働している
•歩行者も車両も存在する
•事故・事件発生率は平常値
ただし、
・「なぜこの道路がここにあるのか」を
市職員が説明できない
・都市計画図と実地配置が一致しているにもかかわらず
設計意図の記録が消失
・住民インタビューにて
「昔からあった気がする」という
曖昧な証言のみが反復される
備考:
物理的異常は皆無。
しかし、都市の「由来」に関する情報だけが
選択的に欠落している。
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観測ログB-2
地点:沿岸都市E-11
港湾区画にて、以下の事象を確認。
•倉庫群の配置が
「物流効率としては非合理」
•にもかかわらず、
現行システムでは最適解と判定され続ける
•管理AIのログ解析結果:
「この配置は“そうあるべき”と判断された」
質問:誰によって?
→ 応答不能。
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観測ログB-3
地点:山岳都市F-02
夜間、住民から以下の通報が集中。
「街が、思い出そうとしている気がする」
調査員の主観評価では、
街路・建築物・広告・音環境が
特定の時代様式に寄ろうとする傾向を示している。
該当する時代は、
住民の世代記憶と一致しない。
■ 解析メモ(Σ7-情報解析部)
C-17とこれら事例の共通点は、
敵が存在しないことである。
観測対象は、
破壊でも侵略でもない。
都市そのものが
「意味を持とうとしている」
この挙動は、
神話的存在による直接干渉とは異なる。
より正確には、
神話が適用可能な余地を探している状態。
■ 内部評価
•C-17:完全顕在化事案
•D-03 / E-11 / F-02:
前駆段階(Pre-Myth State)
重要なのは、
これら都市では
一切の敵性存在が観測されていない点である。
すなわち、
神話は、
呼ばれなくても来る。
■ 結論(暫定)
人類は、
C-17において
「接触できる神話」を確認した。
しかし現在観測されているのは、
殴る対象すら持たない神話である。
この段階では、
軍事介入・封鎖・殲滅
いずれも適用不可。
■ 追記(Σ7-12 個人メモ/未承認)
都市は、
もう神話を思い出し始めている。
我々が忘れさせたはずのものを、
都市自身が補完している。
次に現れるのは、
神ではない。
神話そのものだ。
【内部文書参照番号:HK0-015/Σ7-Archive】
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