回収記録『朝、目が覚めたとき』
※以下は、後にC-17事案と関連が示唆された
個人の体験記録である。
【回収記録】
識別符号:Σ7-未分類
記録対象:本城清隆(一般市民)
記録形式:私的文章(原文ママ)
⸻
朝、目が覚めたとき、少しだけ寝過ごしたと思った。
目覚ましは鳴っていなかったが、たぶん自分が止めたのだろう。
そういうことは、たまにある。
カーテンを開けると、空がやけに澄んでいた。
雲がないわけではないのに、遠くまで見えすぎる気がした。
顔を洗って、歯を磨く。
鏡の中の自分は、いつもと変わらない。
ただ、少し疲れているように見えた。
駅までの道を歩く。
いつもより早く着いた気がしたが、時計を見ると、時間はぴったりだった。
信号は、すべて青だった。
運がいい日だな、と思った。
ホームには人が少なかった。
いないわけではない。ただ、隙間が多い。
電車は定刻通りに来て、定刻通りに発車した。
車内で、誰かが咳をした。
それがやけに大きく聞こえて、少しだけ居心地が悪くなる。
吊り広告の文字を途中まで読んで、やめた。
最後まで読む理由が、急になくなった。
会社のビルに入る。
自動ドアは問題なく開いた。
エレベーターに乗ると、誰もいなかった。
なのに、ドアが閉まるとき、反射的に言った。
「失礼します」
言ってから、少し間があった。
誰に言ったのか、分からない。
フロアに着く。
いつもの席に座る。
パソコンを起動して、メールを確認する。
未読は、三件。
どれも、重要ではなさそうだった。
窓の外を見ると、街が静かだった。
車は走っているし、人も歩いている。
でも、音が薄い。
昼休み、いつもの定食屋に向かう。
角を曲がって、少し考える。
この先に、店はあっただろうか。
あった気がする。
ない気もする。
考えるのが面倒になって、別の道を選んだ。
昼食は、何を食べたか覚えていない。
空腹は、ちゃんと満たされた。
午後は、会議が一つだけあった。
内容は覚えていないが、うなずいた記憶はある。
帰り道、風が吹いた。
匂いが、なかった。
潮でも、排気ガスでもない、
何も含まれていない風だった。
立ち止まって、少しだけ空を見上げる。
理由はない。
家に帰って、テレビをつける。
ニュースはやっていたが、どれも遠い話だった。
音量を下げて、画面だけを見る。
何かが起きている気がしたが、
それが自分と関係あるとは思えなかった。
風呂に入って、布団に入る。
天井を見ながら、考える。
今日一日、何かあっただろうか。
少し変だった気もする。
でも、思い出せない。
そういうことも、あるんだろうな。
目を閉じる。
外で、何かが剥がれるような音がした気がしたが、
たぶん、気のせいだ。
スマートフォンの通知。
また下らないフェイクニュースだろう。
世界ニュース【速報】
複数の無人都市において、
「都市機能は正常だが、
住民が定着しない事象」が確認されました。
───【続報】
当該都市では、
居住を試みた住民の多くが
「理由の説明できない違和感」を訴え、
24時間以内に自発的退去を行っています。
ちょうどウトウトしてきた布団の中で、
私は、その奇妙なニュース記事を読んでいた。
⸻
【個人記録/回収済】
お読みいただき、ありがとうございました。
続きが気になった方は、
そっと本棚に置いてもらえたら励みになります。




