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神話剥離(ミシカル・スプリット)

 冥界の戦闘は、まだ終わっていなかった。


 無限にも思える数で出現するプリリエルに押され、

 スルトとマグナは、わずかずつ陣形を後退させられていた。


 勝てない、という焦りはなく、

 キリがない、終わらないという感覚であった。


 白い存在のひとつが、戦場を見渡す。


 感情のない、人工的な視線。


 その瞳に

 一体の悪魔が固定された。


 マグナの肩。

 戦況を俯瞰し、指示を飛ばす巨大なフクロウ。



【SEARCH】


 対象:悪魔

 識別名:ストラス


 分類:上級悪魔

 役割:戦術補助/未来予測/魔力演算

 脅威度:高


 備考:

・戦闘継続率を27.4%向上

・悪魔軍の意思決定速度を加速

・最適化を阻害する要因

・代替不可


 情報は即座に共有された。


 一体ではない。

 すべてのプリリエルが、同じ結論に至る。


「排除対象、確定」


 狙いはマグナ、ではない。

 その肩に止まる彼女の右腕ストラスの思考だ。


 光が走る。


 刃でも、魔法でもない。

 薄く、均質な光線が、あらゆる角度から同時に放たれた。


 マグナは反応する。


 軽い身のこなし。

 即座に展開される多層シールド。


 攻撃は、ほぼすべて弾かれた。


 ほぼ、すべて。


 しかし、その攻撃は想定より激しく、

 肩にいたストラスを庇いきれなかった。


 そして、

 フクロウの身体は、光線の糸によって、

 綺麗に切り分けられた。


 悲鳴や抵抗する暇もなく。


 地に落ちていく途中、かろうじて発せられた声。


「マグ……ナ……さま……」


 それきりであった。


 羽毛が、灰のように散る。


 マグナは、息を吸い損ねた。

 初めて、声を失った。

 戦況を読む思考が、急激に鈍る。


「ストラス! てめぇら…やりやがったな……」

 プッツン切れてマグナの魔力が暴走する。



 次に、プリリエルたちの視線が向いたのは、

 燃え盛る巨躯。


 魔王スルト。



【再評価】


 対象:スルト

 分類:魔王級

 特徴:終末神話保持

 問題点:

・神格反応を内包

・世界破壊の可能性


 結論:

 破壊ではなく、機能の剥離を優先



 光が、集束する。


 攻撃ではない。

 処理だ。


 スルトの炎が、逆に解析されていく。


 燃え広がるはずの終末の火は、

 分解され、数式に還元され、意味を失っていく。


「邪魔だあああっ!!」


 スルトは半身半馬の姿で駆け、プリリエルの胴体を

 二人まとめて真横に斬り捨てる。


 後方のプリリエルたちは、ただ手を伸ばす。


 その手がスルトの身体に触れると、

 彼の内部から何かが引き剥がされていく。


 それは痛みではなく、

 空白がスルトを襲った。


 神として語り継がれてきた理由。

 終末を象徴していた物語。


 それらが、ごっそりと削除される。


「ぐっ……何をしやがった…」

 スルトは、膝をついた。


 死んではいない。

 だが——


 神話ではなくなった。



 マグナが、歯を食いしばる。


「……まさか」


 悪魔軍は、まだ壊滅していない。

 だが、知性を失い、神話を削られた。


 そして、白い存在は告げる。


「最適化フェーズ、継続」


 新たなプリリエルが、宙に滲む。


 無限ではない。

 だが、尽きる兆しもない。


 冥界の空は、白く染まりつつあった。


 マグナは怒りで溢れ出る暴走気味な魔力を解放し、

 強風、ストームを起こす。

 そして、くるりとターンすると、揃えた両腕を天に掲げる。


 マグナを中心に、広範囲に弩雷の雨が降り注ぐ。



(バチバチバチ…ズドドドドドドドォン!!)



 取り囲んでいたプリリエルが十数体、雷で蒸発、

 砕け、あるいは丸焦げになり倒れた。


「よっしゃ!!」


 ガッツポーズで叫ぶマグナは、

 スルトのほうを振り返る。


 スルトは半身半馬の変身が解け、

 黒い甲冑の人間の姿に戻り、動きを止めていた。

 肩で息をしていた。


 マグナは再び戦況を確認する。

 敵の数は減っていない。


「ちょっと……分が悪いわね…

 スルトくん、戻るわよッ」


「オレはまだやれる、こんな機械みたいな奴らに、

 背など向けられるか!」

 スルトはそう強がったが、神話性を奪われ、

 本来の力を封じられていた。

 彼の炎はもう周囲に恐怖を与えない。

 それは、神話の戦いにおいて、

 何より致命的なデバフであった。


「このまま終われるかよ……!」

 スルトはそう言うと、

 その巨躯でプリリエルに飛びかかる。

 輝剣の斬れ味は衰えておらず、敵を数体、

 撫で斬りにする。

 だが、着地でバランスを崩す。


「おっとっと」

 スルトは違和感を感じた、弱体化の感覚、自分のレベルがドレインされてしまったような。


「退くしかねぇようだ…」

 スルトは悟り剣を鞘に収める。


「対象の破壊は不要」

「削減完了」

「再遭遇時、再処理」


 ログは空中に直接現れる。


(チッ……逃がすことも想定内ってか)


 ──長期戦は不可能。


「行くよッスルト!

 これ以上は、戦っても意味がない」


「くそっ」


 マグナの跳空間転移ディメンショナル・リープに掴まり、二人の魔王は戦場を後にした。


お読みいただき、ありがとうございました。

続きが気になった方は、

そっと本棚ブクマに置いてもらえたら励みになります。

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