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スペクルム ” 印を持つ者と7人の魔導師達”

” 月と太陽が昇る時、夜と昼が大陸を二分する。夜の国は太陽を亡くし寒さと飢餓に落ちる、太陽の国は眠ることを忘れ熱波による暑さと飢餓に苦しむだろう。黄金の糸が紡ぐ始まりと終わりのベールと虹の瞳を持つ者を繋ぐ時、夜と昼が解け合い穏やかな日々が訪れるだろう”


 大陸ガルパスには4つの大国がある500年ほど前までは平和を保っていた。いつ頃からだろうか?自国の利益ばかりを重視し始めたのは。国の利益の為に王室は結婚相手も自由には出来ない時代ではあったが、ここガルパスではなるべく互いの気持ちを尊重して相手を時間をかけて選んできた。心の幸せを願って愛し愛される相手を選べるようにと。それが後々大陸全体の幸福になると信じられていた筈なのに......


   序章


 300年前に忽然と消えた王子 シューリアス・ノアジェレミ・フィヨルド。

 

 私はこの国の王太子だった、虹の瞳と黄金の髪の印を持って。

 スペクルムを見る事ができるこの国唯一の人である。

 神々の島から来た神官達が言った、十五歳の誕生日にスペクルムを見るための儀式を行うと。そして自分の運命関わる人々が映す出されるのだと。それまでにこの国に立つ者としての矜持を持つようにと……これ《スペクルム》に映し出された人々や物はきっと私の運命に関わりがある事が映し出されるだろう。

 私には想っている人がいる。彼女はまるで太陽のように明るく温かく雪のよう白くてフワフワとした人だ、見ていると胸が熱くなるようなそんな人だ。

 運命の人がいるとしたらそれが彼女だったらいいのにと思った。


「シューリアス、西の国テゥーリスの第二王女との婚約が決まった」

「っ! 陛下......父上それは? どう言う事ですか」

「あれ《スペクルム》に映し出されるものは気にするな」

「それでは炯眼けいがん式をする意味がなくなりませんか?」

「形だけだ。愛だの恋だの言っていた時代は終わった、もう何代も前から国の利益を重視して婚姻を結んできた、お前の叔母であるリリアルもテゥーリスに嫁いだ、お前の気持ちは聞いていない」

「でも、私には......」

「しつこいぞ!お前の気持ちは聞いていない。シューリアスこれは王命だ。近いうちに顔合わせをするいいな」

 悔しい!強く握った手のひらから血が流れるのが分かった。何も出来ないのか私には......


 炯眼式けいがんしきが3ヶ月後に迫って来た日、大陸の西の国テゥーリスから第一王女がやって来た。

 一月ほど滞在し半年後の婚約式にまたこちらに来ることで話がまとまった。

 炯眼式も滞りなく終わった。

 国王の炯眼式に対する対応はいかがなものか。はぁー大きなため息が漏れる。

 大神官の怒りを買ったことに間違いない、俺より前にこの瞳と髪色を持った王女がいた。国益だけを考えて婚姻を結ぶようになったその頃から作物の育ちが悪くなった災害も増えた少しずつだが何かが狂い始めた気がする。何年何十年何百年をかけてこの国が?イヤ、大陸全体が疲弊していっている事ぐらいわからないはずないのに。

 心の安寧が国の安定に繋がると古い文献にも記されていた、ここで私が運命に抗ったとしたら更なる不幸がこの大陸を......

「くそ!!」

 パッリーン 音とともに砕け散った。

 真ん中が丸く綺麗に残った、手に取ったスペクルムを覗いた中にぼんやりと映っていた。

「はっ!」

 突然目の前が真っ暗になった、何も聞こえない静まり返ったここには自分の心臓の音だけが聞こえた、そして真っ白になった。

 ゆっくり目を開けた。手にはスペクルムの欠片かけらを持っていた、何も写っていないそれだけを......

 足下あしもとに散らばったスペクルムが無い......部屋の外の様子もいつもとは何だか違う、何だこの違和感は?

「ウォーリアル、ウォーリアル。ヘインズ、ヘインズ」

 部屋を出た。何故誰も来ないんだ?静か過ぎる。

 城中を探したが誰も居ない、一体どうなっているんだ?スペクルムを割ったからなのか?

   


   1面

 

 ここに来てからどれだけの時間が経っただろうか?ここにはちゃんと雨も風も雷も…..元の世界と何ら変わらないみたいだ、ただ違うのは私以外は誰も居ないと言う事と時間の経過?だ

「何故だ!なぜ私がこんな目に遭わねばならんのだ……なぜ!?これからどうしたらいいんだ」

 一体どうなっているのか?理解するのには流石に時間がかかった。

 ここでは私一人なんだ。取り敢えずこの状況を何とかしなくてはならない事は理解している。

 どうにもならない事を悩んでも仕方ない前向きに考えなくては。

「そうだ、あそこなら何か分かるかもしれない」

 図書室に行ってみる事にした、もしかしたらこの奇妙な現象に似た事が今までにも起きているかも知れない。

 自国や他国の歴史書、お伽話に至るまで。ヒントになるものはないか探した、ほとんど全ての本を読んでいる筈なのだが?

 時々スペクルムを覗いてみた。人々が目まぐるしく動いている、まるで速回しの映像を見ているようだ。

 ここに来た日付けを付けた、そして日記を付ける事にした。

 

 だがこちに来て程なくしてスペクルムにハッキリ映し出された事があった。

「っは!!......スペクルムに映ったこれは、何処かでこの瞳と髪色をした子供がうまれたのか?」

 あんなに目まぐるしく動いていた人達が......

 禁止書がある部屋へ行ってみた。

「確かこの辺だった様な気がするんだが?」

「あった」

 この本だ!

 図書室で読んだ隣国に関する本の中に大陸を横断する山脈ピルクールにあるとされる国コーライズ。黄金の髪とアースアイを持つ人々が住んでいて魔法を使うと記されていた。

「年中雪に覆われている国か……本当にそんな国があるんだろうか?」

 どうして今これに映ったんだ?この意味が何なのかどうしても知りたい。城の中にいてもこれ以上の進展は無いだろうコーライズを探してみよう。

   

   コーライズでは。 

 スペクルムを創った始まりの国。そしてここには不思議な図書室がある。東西南北に分かれておりそれぞれ大陸にある国と同じ名前がついている。

 東は、イージス 西は、テゥーリス 南は、サージカル そして北のフィヨルドである、千年ほど前から現在までの日記がある。そしてその日記を開けば不思議な事が起こるようだ。


「こ……これは!! 大変だ!すぐイクシス様に知らせてくれ」

「どうしてだ!! 毎日の見回りはちゃんとしていたのか?」

「はい、勿論です。昨日の時点では何事もなかったです」

「サジアル達を集めてくれ」

 7人の上級魔導師達が集められた。


「これを見て欲しい」


 国の中心に建てられた神殿、その中にスペクルムが上級魔導師と同じ数だけ置いてある、それぞれの色があり7色存在している。

 クリスタルの魔導師イクシス・赤はサジアル・青はジル・白はトゥーリオ・黄はカロナ・紫はウィーゴ・橙はハントである。

 これまで起こったこた事が無い事態である、全てのスペクルムにヒビが入っている。


「これは……どうしたんだ? どうなってるんだ?」

「今までこんな事は起きた事がない、全てにヒビなんて……]

「イクシス、どう思う?」


「あぁ……俺にも何が何だか分からない。まずは長老師達に聞いてみよう」

「それぞれの師の所に行って聞いてみてくれ」


 フィヨルドの王子が消えて300年後のある日。

 大陸にある3大国にアースアイと金色の髪を持った子供が誕生した。東イージスには王子が、西のテゥーリスにも王子、そして北のフィヨルドには双子の王女が産まれた。これまでこの印を持ったものが生まれた事のない、テゥーリスやイージスにも生まれたのだ。

 

「この鍵を持って行きなさい」

 そう言うと首から下げた鍵を出した。

「鍵……これは何処の鍵ですか?」

「この鍵は図書室の右奥にある棚の右下の本を手前に引いてみなさい棚が動く、その先の扉の鍵だ」

「そのような場所があったのですか?」

「これは、お前が二十歳になった時に渡すはずだった が、このような事態になったからにはそこまでは待てそうにないな」

「師も二十歳の時受け取ったのですか?」

「あぁ そうだ、そしてこれは最上級の力を持つ者が代々受け継ぐこととなっている。今から三百年ほど前からか、フィヨルドや他国は自国の利益を優先して婚姻を結ぶようになった。何故今までのように適齢期の王子や王女を集めた大きな舞踏会が無くなったのか?その頃から気候が徐々に悪くなった。フィヨルドは北に位置しているので作物も限られたものしかなかったが、雪が年々多くなっているような気がする。

理由が分からないままだ。今、ヒビが入った事とこれまでの災難が関係があるかはまだ分からないが、もしかしたらまた同じような事が起こるのかもしれぬ......文献や禁忌書などから探ってみてほしい」

「移時日記を探しても?......」

「場合によっては必要になるかもしれんな」


 イクシスは受け取った鍵で図書室へ入ってみた、そこは、丁度7人が集まれるような広さのテーブルを中心に椅子が7脚置いてあり、持ち出し禁止と書かれた棚には本がびっちりとあった。

 いつから開けられていなかったのか分からない部屋なのに全くカビ臭さが無い、まるで、空間を浄化する魔法でもかかっているかのようだ。


 そしてイクシスの案内でみんなが集まった。


「ここは?」

「俺もここの存在は今まで知らなかった、師に聞きに行った時に初めて知らされた」

「我々の師さえ知らされていなかったと言うわけか?」

「……そのようだ」

「何故?」

「今まで危機的状況になった事が無いようだ」

「師自身もどのような状況の時に必要になるか分からなかったようだがここの本は読んだようだ、なので今が危機的状況だと言う事だ」

イクシスは師から言われた事を皆に伝えた。


「とりあえずこれからどうするかだな」

「取り敢えずここにある本から見てみようよ」

「あぁ、そうだな!まずはこれに似た現象があったかどうか禁止書など手分けして探してみよう」

「消えた王太子の事も気にはなるが......切り離して考えよう」

「300年前の話なら うん もうおとぎ話だよね」



   2面


 フィヨルドでは第1王子誕生から5年ぶりに祝福がもたらされた。

双子の王女が生まれたのだ、しかも虹の瞳と黄金の髪を持った子供が生まれた。実に三百年振りだった。


 姉のソニア・ジェレミ・フィヨルドと妹マリール・ジェレミ・フィヨルド、雪のように白く透き通る肌と、虹色の地球と言われるいろ 虹の瞳、そして黄金に輝く髪はまるでシルクのように輝いていた。

 愛らしい王女である。しかも二人。


 この国に伝わる神話に虹の瞳と黄金の髪を持って生まれた子供には不思議な力が宿っていると言われている。

  しかし三百年前と同じ不吉な出来事が起こらないかが国王の懸念だった。

 王太子が消えてからこの国だけでなく大陸全体の気候までもが不安定になっている、気候だけではないここの所東の国境付近は小競り合いが続いている。戦争は避けたいのだが......


 王国フィヨルドから遥か遠い位置に浮かぶ島、神々の島と呼ばれていて神官達に守られた神殿がある。

 霧に覆われたその島だが島の中は穏やかな時が進む不思議な島だ。

 だが......

「今日は随分天候が荒れていますね……何かの前触れでしょうか?」

 いつぶりだろうかこんな悪天候。 雷鳴が轟く中分厚い雲から光が差し込んだ、それは真っ直ぐに教会の天井を飾っているステンドグラスを貫くようにスペクルムへと向かって行った。

 一瞬炎に包まれたように見えた。オレンジ色に輝いた後火が消えるようにゆっくりと元の色を取り戻した。

さっきまでの天気が嘘のように雲が無くなり青空が広がった。


「大司教様、スペクルムが……」慌てた様子で大神官ユリウスの下に来た。

 今までに無い反応にユリウスも慌てていた、急ぎスペクルムを見てみた。

「こ これは! 4人!! 4人も御生まれになったのか? しかも三国で、双子まで......」

 今まで北フィヨルド以外にこの印を持った者は産まれた事がない。フィヨルドならまだしも、他の国では印の事すら分かってない筈だ。いや!テゥーリスには過去に王女が嫁いだ事があったな。だが、イージスでは......もし迫害でもされたら。

 かつて豊国を望んでその印を持つ王女をテゥ–リスが欲して婚姻が結ばれたようだが結局印を持った子供は生まれることはなかった、その頃から徐々に大陸では良く無い事が起こり始めたが......

 フィヨルド以外の国に印を持った子供が国にどれほどの恩恵がもたらされるかを知らせなければならないがこちらの話に聞く耳を持ってもらえるだろうか?


 ここは、大陸ガルパス。

 この大陸には四つの大国がある。一番の領土をほこる東の国イージス

 

 おぎゃーおぎゃー

 元気な鳴き声とともに跡継ぎとなる王子が誕生した。

 黄金に輝く髪と虹の瞳を持った王子だ、しかしこの国の国王をはじめ貴族たちは黒い髪と瞳だけであった。

 なのにどうして?


「こ これはどう言う事だ!!」

 王宮医師のセシウスは心臓が止まるかと思った、本当にこの子は王族の血を引く王子なのだろうか?

「セシウス?子供は?私の子はどうしたの?」

「王妃様、気をしっかりお持ちください」

 本当にこの子を王妃にお見せして良いのだろうか?だが、お見せしない訳にはいかない。

 恐る恐る王妃に見せた。

「あっ!そんな?どうして?」

 子供を目にして王妃は息を呑んだ。


 部屋の中の騒がしさに気付いたのか国王が入って来た。

「どうした何かあったのか?」

「国王、お待ちください」

「待て?どうしてだ!王妃に何かあったのか?」

「いいえそうでは無いのですが......」


 王妃をはじめ周りの者達の様子がおかしい一体何が?

 ベッドに静かに近付いた国王の目に入った者を見て言葉が出なかった、私にも王妃にも全く似ていない。

 まさに黄金のシルクのような髪、あくびをした後に涙を溜めた瞳は虹のような七色だった。

 思わず何と綺麗な......息を呑んだ

 王妃が不貞を...... いや、違う確かに彼女は私が初めてだった。間違いない。なのにどうして!!


 彼女の血の気の引いた顔を見て何て声を掛けようか迷っていた。

「この部屋にいる者全員部屋から出てはならん、ここで見た事を口外するな!!いいな」

「かしこまりました」


「あ...... カーチアス、私は!私は」

「分かっている......」

「メリッサ、きっと大丈夫だ、見てごらん綺麗な子だ」

 根拠のない言葉だったが気持ちは何故か落ち着いていた。顔は鼻筋の通った私に似ているな!うん!

「この子が生まれた事は何か意味があるに違いないよ、決して粗雑に扱ってはならない」

「今ここにいる者にも言っておく、生まれた子はこの国の跡を継ぐ第一王子だ、私と王妃との子供に間違いない、だがこの容姿では王妃の不貞を疑う者も必ずいるだろう。王弟を押すものにしたら格好の標的なるだろう決してこの事が露呈してはならない」

 

 国王が静かに頭を下げた。

「おやめください!臣下に頭を下げるなぞなりません、ここにいる者は理解しております」

「しばらくは王妃と王子の体調が悪いと時間を稼ぎましょう、その間に次の手を考えましょう」

「よろしく頼む」


 東の国イージスは黄金の髪と虹の瞳を待った王子を隠す事にした。



   3面


 南の国 サジュアル

 サジュアルでも祝福を持っている子供はフィヨルド同様に喜ばれている、四百年ほど前にフィヨルドから嫁いで来た王妃には残念ながら祝福を持った子供は授からなかった。だが今、祝福を持った王子が誕生したのだ。


「よくやった!これでこの国にも祝福がもたらされるだろう、これから神々の島から大神官が来られ洗礼式が行われる筈だ」

「粗相のないよう準備致します」

「よろしく頼む」


 そして、フィヨルドでも。


「陛下、おめでとございます。元気な王女様の誕生です、そして双子でございます」

 いつも眉間にシワを寄せている表情が多い国王だが今日ばかりは顔が緩みっぱなしである、愛らしい王女の誕生にしかも双子の。

「よく頑張った、双子とは。しかも二人とも虹の瞳と黄金の髪色だなんて神から祝福されている証拠だ」


 王女二人をどこに嫁がせるかでこれからの国の運命が大きく変わるに違いない、選択を間違わないようにしなければ。

 大陸の三国がこの印を持った子供の誕生によってかろうじて保っていた均衡が徐々に崩れ始めていた。


 誕生から二ヶ月 フィヨルドとテゥ–リスでは洗礼式のための準備が進んでいた、しかしイージスではこれまでに前例の無い事態に加え王子を隠して育てる事としているため神々の島からの使者の入国を拒んでいた。


「私どもは神々の島より来た神官にございます。この度は王子の御誕生誠におめでとうございます。国王陛下に拝謁を願いたい。何度か書簡は送っているのだが返答がないにで直接拝謁のお願いに来た」

「何を言っているのだ!!王子は産まれてすぐお亡くなりになった」

「っは!それは誠ですか?」

「嘘を言ってどうする」

「今一度拝謁願いたい、どうか国王に......」

「ダメだダメだ!帰れ!」

「神官様ここは一度下がりましょう」

 神官達はとりあえず宿に帰り話し合う事にした。


「陛下、どうしましょうか?神々の島からの使者が来たようです」

「何故、王子の誕生が分かったんだ?」

 あそこにいた者は信用できる者しかいなかった筈だ。

「王子の事が漏れていないかあの時あそこにいた者を全て調べろ」

「かしこまりました」

「王城以外の場所で育てた方がよいな、北の別荘の準備をしろ、それとここに来た神官を探して連れて来い」

 

「神官様、本当に王子は亡くなったのでしょうか?スペクルムに映った方は紛れもなく王子のはずです」

「あぁ、やはり印を持った者の意味を知らせねばこの先には進めない、そう思って早めに来たのだが城にも入れてもらえないのでは......もし洗礼式が行われなければ」

 そう、洗礼式が出来なかった時王子は......

「印持ちが国益のための政略結婚に利用される事を考えると産まれた王子王女達は必ず国益のためだけに使われるだろう、これはチャンスかもしれない。荒療治ではあるが軌道修正出来るかもしれない」

「まさか!!イージスには何も知らせずにこのまま放っておくのですか?」

「ああ、そうしよう。いやそうする」

 神官達は早々にイージスを離れた。


 誕生から三ヶ月フィヨルドとトゥーリスではそれぞれ洗礼式が行われた。


「祝名を授けます。姉であるソニアをマリエッタ。ソニア・マリエッタジェレミ・フィヨルド。

妹であるマリールをジェシカ。

マリール・ジェシカジェレミ・フィヨルド。これから先お二人には困難な事も起こるでしょう、この国 いいえ大陸全土そして、お二人がお互いを敬愛し困難に立ち向かって下さい」

「有難うございます。謹んでお受けいたします」

「それと、これは各々のスペクルムになります、ソニア様には紫の色を持ったスペクルム。マリール様にはピンクの色を持ったスペクルムを」


” 月と太陽が昇る時、夜と昼が大陸を二分する。夜の国は太陽を亡くし寒さと飢餓に落ちる、太陽の国は眠ることを忘れ熱波により暑さと飢餓に苦しむだろう。黄金の糸で紡ぐ始まりと終わりのベールと虹の瞳を持つ者をつなぐ時、夜と昼が解け合い穏やかな日々が訪れるだろう”


「これからいくつもの困難な状況が彼女達に起こるでしょうお互いに助け信頼し合い乗り越えてもらいたい」

「今後についてのお話をします。十五年後王女様たちが十五歳になった時もう一度こちらに来させて頂きます。多岐に渡る知識を習得される事を願っております」

「承知いたしました、本日はありがとうございました」

 フィヨルドとトゥーリスでの洗礼式は特に何事も無く無事に終わった。



   4面


 季節が変わり冬の時期になったここにも雪が降り始め白の季節が来る、この音の無い世界にお前は独りなのだと思い知らせるように色の無い世界が追い打ちをかける。

 この国では国王が生まれた月に誕生祭が開かれるもうじきここにきて八ヶ月が来ようとしている、年が明け白の季節が終わり色のある季節が始まる、キャンパスの上に絵の具を一雫ずつ垂らしたかのように色とりどりの花が咲く、自分を見てくれと言わんばかりに誇らしげに。

 あぁ〜そうだ、彼女が好きな庭園の奥にある桜の木を見に行ってみよう。

 孤独な時間が増えるほど幸せだった時間を思い出す、閉じた瞳の中に映るイザベラの笑顔を思いだし心が暖かくなる。春を告げる雪解けのように......

 ここはやはり不思議だ?食べ物はどんなに食べても次の日には元に戻っていた。

 そろそろこの城から出てみようか? ここに来て調べたコーライズと言う国、そこに行けば今置かれている状態が何なのか元の世界に戻る方法があるのか?無いのか?

 とにかく探しに行ってみよう、コーライズへ。


 ガラガラガラ 誰一人いなくなった草原にシューリアスの馬車の音だけが響いている、ふぅ〜とため息が漏れる。

「本当に俺だけなんだな、ここには……」


 今日で城を出て4日目だ、さすが北の山脈だ、王都では春を告げる花が咲き始めたがここはまだまだ冬のままだなコーライズに近づいて来ている筈だ。

 王都を出発して森を川沿いに進む、橋があるはずだが......今日はこの辺で休もう。

 火を起こし今日の夕食を作る、食事の度に一人でいる事や闇の中での静まり返った音とも言えない音に気が狂いそうになる。いかに自分が狭量だったかが思い知らされた、ここに入った時は少し嬉しかった、誰にも干渉されず好き勝手できる事が自由だと思っていてが……

「うぅ〜寒い、まだまだ春は遠いな」

 低く垂れ込めた雲の合間から朝日がさす、綺麗だ。今日もよく晴れそうだ。

 今日もコーライズに向かってひたすら進む、取りあえず城から持って来た地図をもとに北に進んでいるが?違和感がある。気のせいか?川沿いを行けばいい筈なのだが肝心の橋がいつまで経っても現れない。

 森の木に印を付けた......森を進む川に沿って

 

「これも、この世界だからか?」

 

 確かに進んでいると思ったのにいつから同じ所から進めなくなっていたのだろう?

 天を仰ぎ溢れる涙が抑えられない、涙を拭いふと目を落としてみたスペクルムに映し出される光景は相変わらず早回しだ。

 程なくして早回しだった光景がゆっくり動いているように見えた。遅くなったのか?馬車を止めスペクルムに見入っていた。


「イザベラ?」

 ベッドに横たわっている女性......紛れもなくこの女性は、イザベラだ。

 病気?なのか? 状況が見えない。イザベラの周りには両親やヘインズがいる、医者や看護師も。

 何故みんな泣いているんだ......まさか!!そんな!

 亡くなったのか?

「最後に見たかった彼と......満開の桜がを.....」

 最後の言葉なのか?


 あぁ〜ううううっここには誰もいない我を忘れ泣いた......

 ここでは君のために何も出来ない、君の手を握ることも抱きしめることも、ここでは何も出来ない......彼女を弔う事も。

 時が戻ればと願った、神はどしてこの様なことをなさったのか?私はどうすれば良かったのか?

 ここから、この世界から抜け出したかった。元の世界に戻りたい。

 コーライズにも行けない国から出れない、木々が風で騒めくまるで私を嘲笑っているようだ。

 何時間経っただろうか? 城に帰って来ても何も手に付かなかった毎日ボーッとして過ごす日が何日も続いた。


「ははっ こんなに悲しいのに腹は減るんだな」

 重たい身体を起こし彼女が好きだった庭園の奥にある桜の木に向かった、彼女好きなお菓子を持って。

 近くにある噴水はもう氷が解けているそろそろ新芽が芽吹く頃だが、イザベラ、私も見たかったよ桜を......君と一緒に。


 東の国のイージスでは、生まれた王子が二ヶ月を過ぎた。

「陛下、北の別荘地の準備が整いました」

「分かった、出発は三日後にしよう私も一緒に行く」

「では、手配いたします」

「くれぐれも気をつけてくれ」

「はい」

 あの時来た神官達は見つける事ができなかった。

 王城より北ピルクール山脈の麓に王家の別荘がある、避暑地として使われているこの別荘に死んだはずの王太子を隠すように必要最小限の信用できる人達とやって来た。


「再々こちらに来る訳にはいかない、ノエルを通じて何かあれば連絡を。あと影を一人。頼んだぞ」

「御意」

「こちらのことはお任せ下さい」

 こうして虹の瞳と黄金の髪を持った王太子は新たにこの北の城で新しい生活を始めた。



   5面


 禁書の図書室、七枚の割れたスペクルムを前に七人の魔導師達。

 最初はヒビが入っただけのそれだが日に日にヒビが大きくなりついには割れた。

 

「どうしたもんだか」

 持ち込んだスペクルムを眺めていた、一箇所だけに何かが映ってるしかも7枚ともにだ。

「おい!これ」

「ん?合わせてみよう」

 

 七人が顔を見合わせそれぞれのスペクルムに目を落とす、どうすれば良いかが何も言わなくても分かった。

 それぞれのそれを合わせてみる。映し出されたそれは?


「これなんだ? 木?噴水か......ここはどこなんだ?」

「これだけじゃ〜どこか判らないな」

「あ!! 何やってるんだ!コイツ」


 スペクルムを床に叩きつける光景が映し出されていた。ここに映し出されている人は?


「誰だ?コイツが壊したからここにあるスペクルムも壊れたのか?」

「我々の個々のスペクルムを他の誰かがしかも直接触らずに壊すなんて!有り得ない」

「それに我々のスペクルムはこの国に関わる事柄か人しか映さない筈、なのにここに映し出されたものは何だ」


 それぞれのスペクルムが七枚に割れ、しかも一枚にのみ映し出される映像。

 合わせて一枚。そして七人の魔導師。

「どこかの国に印を持った子供が生まれたのか?」

「ここに写った人物はどう見ても十代半ばから後半の青年じゃないか?」

「場所が何処か映った人物が誰なのか調べなければならないな」

「でもどうやって?」

「移時図書室に行ってみないか?」

「あぁ そうだな」

「いや、まず姿を変えて四つの大国に散らばっている仲間と連絡を取ろう」


 二名ずつに分かれた......一人あぶれるな

「俺は一人でいいよ」

「うん、イクシス君は強いので心配ないい!ウンウン」

「ふぅっ」鼻で笑った

 それぞれ四大国に分かれて出発した。


 イクシスは弟子で側近のオウエンを連れて北フィヨルドに来ていた。

 コーライズを出発してから一週間川沿いを歩き森を抜けた、検問を通過し王都領内に入った。

「この辺で宿を探そう」


 宿をとり食堂へ。

「やっとだな、まずは食事だ」

 隣の席から聞こえてきたのは......


「この度お生まれになった王女様、双子で美しい美姫出そうだ。お披露目はまだまだのようだが」

「祝名は頂いたようだがな、西と東の国にも生まれたらしいぞ」

「何でも珍しい髪色と瞳らしい」


 隣のテーブルではこの度生まれた王女の話で盛り上がってるようだ


「神々の島から来た神官様一行も来たらしい」

「そりゃーそうさ、祝名と神託も受け取ったらしい」

「その神託が不吉な内容のようでさこれから良くない事が起こるんじゃないかって噂になってるよ」

「神託って中身は?なんだ」

「気候がもっと酷くなるらしい」

「お前、それ本当か?」

「縁起でもない、せっかく虹の瞳を持つ方が生まれたのに」


「今のお聞きのなりましたかイクシス様?」

「あぁ、神々の島って何だ。聴いた事がないなコーライズでは」

「他の方々はどうでしょうか?」

「多分ない思う、師からも聞いた事がないしそんな話は今まで皆んなからも聞いた事がない」

「神託の中身も気になる」

「それに西と東の国にもって言っていました、他の国にも生まれたって事ですよね」

 

「すいません、ちょっとお話し聞かせて頂けないだろうか?」


「ん、旅人か?」

「はい、北の方から来たものです。この国には虹の瞳を持った方がいるのですか?」

「ああって俺も見た事がないんだがな」

「それなら俺もだ、何せその瞳を持った方が生まれたのは三百年も前の事だから」

「そーそーここにいる誰もが見た事ないよ」

「っ!三百年前ですか?」

「それまではその瞳の方も結構生まれてたって聴いた事もあるけど今じゃ王族だけだよ」

「あっ!そう言えば三百年前に王子が突然消えったって、まるで神隠しにあったみたいに突然消えたって。うちの村の言い伝えでさ子供が読む絵本にもなってんだ」

「その絵本見せてもらえませんか?」

「いいぜ、明日村に来るといい、ここから東に行ったところにある村だ。イーチャルって村だ」

「ありがとう、じゃー明日行かせてもらう」


「三百年前の王子失踪事件、師からも何も聞かされてない。ただのお伽話かそれとも事実なのか」


 もし、師たちも知らないこの事が事実ならスペクルムが割れた事に繋がるのか?しかし三百年も前なら何故今なんだ?

 翌日、イクシス達は村に向かって宿を後にした。



   6面


 ”昔々、大陸にある一つの国に王子様が生まれました。

 その王子様は他の人とは少し違う容姿をしていました。虹色に輝く瞳と黄金に輝く髪。

 そしてその印を持って生まれた者がいる国は豊かになり皆んなが幸せに満ちると信じられていました。

 王子にはとてもとても愛おしい人がいました、太陽のように明るく温かく雪のようにフワフワとした人でした。

 王子は彼女と彼女が好きな桜の木下でお茶をする時間が大好きでした。

 しかしある日突然、王命により婚約者を決められてしまいました、怒った王子は王家に伝わるスペクルムを割ってしまいました。

 王子を覆った真っ黒な光に包まれた彼はこの世界から消えてしまいました。

 王子がいなくなった国はひどい気候に見舞われ民の幸せは少しずつ失われていきました。

 王子を救い出すため七人の魔導師と印を持った勇者達が力を合わせて王子を助け出しました。

 助け出された王子は、姫が大好きだった桜の木の下でプロポーズをしました、そして幸せに暮らしました”


「これがこの村に伝わるお伽話か......」

「これって、もしかして私達が探している人と同じでしょうか?場所もこの国でしょうか?」

「映っているのが王子となると場所は王城内って事か」

「間違いないでしょう。何かヒントになればといいと思いましたが、まさかですね」

「スペクルムに映った人物が三百年前に消えた王子か?」

「え!三百年前の王子は生きてないのでは?」

「そうだな......では映っていた人物は一体誰だ?」

 印を持った者が生まれたのなら報告が上がっても良さそうなものだが


「ちょっと聞きたいなだが、お生まれになった王女はいつ誕生になったかわかるか?」

「ちょうど四ヶ月前だったかな、一ヶ月前に洗礼式をお受けになられた。生まれて半年でお披露目があるんだ、今回のお披露目はかなり盛大になるそうだ。なんせ双子の王女様だからな」

「ふ、双子なのか!!」

「そうさ、国中が歓喜に沸いたよ。これでこの国も祝福がもたらされるさ」

「この絵本を譲ってもらえないか?代金は支払う」

「いや いいよ、もう一冊あるから」

「ありがとう、では遠慮なく頂くよ」


 イクシス達はもう少しフィヨルドに滞在することにした。


「王城に入りたいが......」せめて次に来る時を考えて魔法陣だけでも描いておきたい

「来月お披露目があるようだからそれに合わせて国王に謁見できればいいのだが」

「そうですね......」

「今までどの国にも国交を持とうとしなかったのが今になって自分の首を絞める事になるとは」

「たった二ヶ月ぐらいで何とかなる話ではないな」

「この国に居る仲間に会いに行こう、確か昨日の村の隣村にいるはずだ」

「まず森に行きましょう、魔法陣はそこに」


 森についたイクシスは魔法陣を書いた。

「よし、移動だ」

 淡い光から徐々に強い光に......魔法陣に吸い込まれて行った。


「来られるぞ!連絡欲しかった」

「すまない、連絡なしに来て......ノラ久しぶりだな」

「はい、お久しぶりでございます、イクシス様。王女の誕生の事で何かありましたか?」

「何か?連絡なしはどうしてだ?」

「!っえ!いやこちらは伝書鳩飛ばしましたが?」

「それで来られたのでは?」

「伝書鳩?こちらには来ていないが」

 どう言う事だ?何故届いていない?もしかして途中で狩られたか。

「届いてないって事ですか」


 ここに来た経緯を説明した、スペクルムが割れた事は言わずに。

「王城に入る手立てを何とか探して欲しい、早ければ早い方がいいが。手立てができたらコーライズに帰ってきてくれ、伝令はいいから」

「分かりました」

 

 イクシス達が帰って来た。


「ジルやカロナ達は帰ってきたか?」

「ええ、三日ほど前に」

 イクシスはフィヨルドでの出来事を話した。イーチャル村から持ち帰った絵本を机に置きみんなに見るように促した。

 皆一様に今の状況にに過ぎている事に面喰らった。


「ふふっ、笑えるな......これはまさしく今起こってることじゃないか」

「そうだろ、中々だよ」

「ならやる事はハッキリしてるな」

「移時図書館に行こう」



   7面


 移時図書室に来たイクシス達は日記を探すことから始めた。


「まず、三百年前の日記を探そう」

「この辺か?」

「三百年前のいつ頃なんだろうか?今が大陸歴千二百十二年、単純に考えて九百十二年」

「この辺に間違いないよな......」

「おかしい。九百十一から九百十三年が無い」

「無い!ない!ナイ!」

「無いな」

「他の時代に混じってないか?」

「混じるわけないよ」

「日記自体この部屋から出せないし棚にしまい忘れた日記さえ日付が変わった時点でちゃんと棚に収まってるんだから」


 イクシス達は混乱していた、簡単に解決できるだろうと思っていたのに日記自体が無い。

 静まり返ったこの禁書室の空気までも重苦しいものに変わっていた。


 一方早々に神々の島に帰って来た神官達はスペクルムを見ていた。

「東の王子の様子はどうだ?虐待などされていないか?」

「はい、大丈夫ですね。国王ならびに側近達も大変可愛がっているようです」


 神々の島とスペクルムの創造国コーライズ。この二国もまた国交を持たない、と言うかコーライズはどの国とも国交は持っていないのだが......神々の島はコーライズの存在も今起こっている事も全て把握している。

 一方コーライズは神々の島の事も他の三大国のこともわからないのだ創造国なのに。

 コーライズと言う国が建国されたのは二千年以上前の事だ七人の魔導師が建国したと言われている。大陸にある東西南北の国がまだ不安定な中で魔導師達は印の無い人達と婚姻を結び祖先を増やしてきた。そしていつしか印を持った者だけの国になった。

 移時日記は東西南北の物はあるがコーライズの物は無いのだ。


「今までこの国の日記がない事を疑問に思う事はなかったが......何故この国の移時日記は無いんだ?」

「抜け落ちている年代の前後の日記を確認してみてくれるか?フィヨルドだけじゃなく他の三国の物も見てくれ、他の国で当時変わった事がなかったか、俺は師の所へ行ってくる」

「分かった」


 それから、手分けをして探した。が、どんなに探しても見つからなかった。

「まさかと思うけど、この移時図書室にも秘密の部屋があるとか?」

 顔を見合わせた、ウィーゴがニヤッと口角を上げた。

「悪い顔してる」

「空間魔法でここに空間がないか調べる」

 宮殿の図書室もそうだが、ここには無いと思い込んで調べた事なんてなかった図書室にあるのならここにあっても何ら不思議はない。


「ここ......ここに空間ではないが何かある、鍵穴のような物だ」

「何処?あ、この微かな違和感」

 少し抑えて下にずらしたカタッっと音を立てて外れた。

「これ鍵穴だよ」

「空間はないのに鍵穴だけあるのか?」

 移時図書室を支える部屋の中心の柱の足元より四十センチほど上の方にそれはあった。

「鍵はどこだろうか?」


 その頃イクシスは......一つの木箱をもらった。

「これは?」

「実は開け方はわしにも分からんのだ、これも禁書室の鍵と同様先祖から預かった、だが、開け方は知らないんだ、開け方を記した本が禁書室にあるはずだ探してみるといい」

「分かりました」


 移時室に帰ってきたイクシスにみんなの視線が集まった。

「っう、な 何だ?」

「これ、見てくれ」

 みんなが集まっている柱に向かっていった、手には先程渡された木箱を持って。

「鍵穴か?」

「ああ」

「よく見つけたな」

「空間魔法だ。だが空間は見当たらなくて......」

「イクシス?手に持っている物は何だ」

「この鍵穴に合う鍵が入っているのかもしれない」

「かも?」

「師も開け方は知らないらしい、だが、禁止書の中に開け方が記した本があるらしい、なので今から探しに行く」



   8面


 禁書室。

 このハッキリしない何かを探す作業も何度目だろうか? まだ、闇の中だ。

 せめて小さな灯りぐらい見えたらな......

 この箱が開いたら少しは光が見えるかな。


「あったか?」

「無いな」

「どんな文章かな?神話的な感じかな?」

「あ!そう言えば神話的な文章が書いてある本があったような??」

「そこは覚えていようよ」

「これだけの量なんだ責めないでくれよ」

 時間だけが過ぎていった。

「今日は止めよう、また明日にしよう」


 皆んなが去った後、窓のないこの部屋に何処からともなく光が差し込んだ、その先には一冊の本があった。

 陽の光に照らされたその本の色が少しずつ変わっていった、まるで蛇が脱皮するように。でもそれは一見では分からないゆっくりとした変化だった。

 誰かが手伝っているかのようだが......

 どれだけの時間が経っただろうか?皆んなの顔にも疲れが見えはじめた。


「っん!!、昨日までこんな本あったかな?」

「どうした?ウィーゴ」

「この本なんか違うんだ、こんな金色の本なんかあったかなって?」

 その本は最初の時とは色味が変わっていた、本当に脱皮した蛇のようだ、でもそれには全く気付いてなかった。

「ちょっと中見てみたら」

 本を開こうとした時だった。

 いきなり風が吹いた、それはそよ風のように優しく暖かな風だった。

 ページがパラパラとめくられていった、まるでこのページを読んでと言わんばかりだった。


"北の谷に差し込む陽射しを映しけりスペクルム、光を浴びし箱は音を立てて崩れ落ち中から出る《いずる》黄金の鍵は刻まれし印の中を更に照らし出すだろう"


「これが箱を開けるためのヒントか?」

「俺たちは自国なのにあまりにも知らない事が多いな」

「実はあれ《スペクルム》にはもっと別の使い方があるのかもしれないね」

「”北の谷”ね ここは、ピルクールの山脈の地下だ、谷は無い」

「東のイージス国の北側ピルクールに近い北側か、フィヨルド川の谷か」

「差し込む陽射しって事は東から陽が登るんだからイージス側じゃないか」

「東の国ならいいんだがな......他の国なら少々面倒だし時間も掛かる」

「いった事がない土地だから魔法で飛ぶわけにいかない、行くとこ行くとこに魔法陣を描いてこなくては」

「イクシスがいなくても行けるように」


 イクシスは一度行った場所は魔法陣なしに行けるが、あとの六人は行けないのだ、少々難儀だ。


「今回は誰が行く?大人数はまずいよな流石に」

 少し考えてイクシスは言った

「カロナ、一緒に行こう」

「ご指名承ります」

 ニコニコのカロナだ

「さて!明日にでも出発しよう」


 出発の朝。

 歓迎するかのように朝日が眩しいくらいだった。


 コーライズを出て二時間ぐらい歩いただろうか? 滝があった。

 目的の場所はあるのだろうか?

「ないですね、国境を越えたくないですね出来れば」

 更に川沿いを進んでいったが橋はない、かなり歩いているのだが......

「太陽に位置からしても今日の事にはなりそうにないな」

「そうだよね、もう少し行って無いようなら何処かで野営しましょうか」

「そうしよう」


 日が暮れる前に野営をすることにした。

 翌日、日が昇る前にイクシス達は出発した。

 一時間ほど歩いただろうか、橋があった。

「やっとありましたね、橋」

 橋を渡り日が昇る方向へ歩き始めた。

 川沿いを更に進むと川に迫り出した崖が現れた。

「ここか?」



   9面


 ここがその場所かどうかは定かではないが朝日が昇るのを待った。

 イクシス達は、迫り出した岩の先端へ進んだ、朝日が昇り始めた。

 朝日が箱に当たるように箱を岩の先端に置いた、朝日が当たった瞬間まるで魚の鱗が剥がれるようにサラサラと音を立てキラキラと光を放ちながら風に舞った。

 黒かったはずの箱は虹色に変わり剥がれ落ちたそれも黒から虹色へと変わっていた。

 箱の側面には丸い宝石が付いておりそれを押すとパカッとと音を立てて箱が開いた、中には手に中にスッポリ収まるほどの小さな黄金の鍵があった。

 イクシス達は小さなガッツポーズをしてヤッターと叫んだ。


「よし!これで少し前進だな」

「まさか、一度で鍵が手に入るとは思わなかったね」

「ああ、ラッキーだった」

「俺の普段の行いが良いんだよきっと」

「それは随分な自慢だな」

 普段あまり表情を出さないイクシスからも笑顔でかなり嬉しそうだった。

 城に帰ってきたイクシス達は移時図書室へ集まった。


「よし、開けるぞ!」

 皆一様に息を呑んだ。

 ガチャっと音を立てて鍵が開いた。

 静寂の中何も起こらない?皆んなが顔を見合わせた

 ゴォーと音を立て床が揺れはじめた、回っているのか?床が。本の棚が一つ一つ少しずつ動いた。

 まず、東の棚、西の棚、南、北に順に。鍵穴のある柱を一直線に結んだ先に柱から光が当ったこの光が何処から来たものか判らないがその先には扉があった。

 両開きの扉を少しずつイクシスが押し開ける、ギィギィギィ重い扉はほこりをたてて開いた。

 何千年も開いた事がな分かのようだった。


「ここがコーライズの移時日記の図書室か」

「数は思ったより随分少ないな」

「三十年分位なものか?」

「年代が分からないな」

「日記?って感じじゃないな?」

 表紙には建国の章とあった。

「あぁ これはこの国が出来る始まりの章のような物じゃないか」


  建国の章

 まだ、この大陸が混沌としていた時代だった。私達は同じ虹の瞳と黄金の髪を持つ者たち八人で定住できる場所を探していた、大陸を横断する山脈ピルクールの山頂ウグラグを目印に進んで行った。そこに一個の洞窟があった。

 洞窟の入り口は大きな割れ目で奥まで広がってるであろう事はハッキリわかった。

 冬になれば雪に覆われる土地ではあるがそれ以外は目の前の森である程度の食料は確保出来そうだった。

 他に洞窟はないか、水が確保できればまともな生活が出来るようになるだろう

 まともな生活が出来るまでに数年を要した。

 そしてこの地をコーライズと名付け記録に残す事とした。

 順調に生活が送れるようになった頃この先の事を考え始めた。


「この先の事を考えて各々《おのおの》が伴侶を得るべきではないか?」

 そんな一言からこの場を出て伴侶を求めて散らばって行った。

 私は五年後に伴侶と一緒にみんなの所に戻った、婚姻を結び子供を授かっている仲間もいた。

 子供もまた一人二人と増えていきだんだん村のようになっていった。一人を除いては。

 その後二、三年は穏やかに過ぎていったが、問題が起きた。

 

 最後まで伴侶のいなかった彼女が妊娠したのだ、誰の子供なんだと!!騒然となった、彼女は相手が誰なのか

なかなか言わなかったが......この村?で一番の魔力持ちであるスノークが子供の父親だと言った。

 スノークは既に婚姻を結んでいる相手がおりしかも奥さんとは非常に仲が良かったためまさかと思った。

 これは、皆んながそう思っただろう。


 元々印持ち同士が婚姻を結ぶのではなく印の無い者と婚姻を結ぶ事によって血が濃くなり過ぎるのを防ごうとした、濃すぎれば病弱な子供になったり大人まで育たないといった事があったので近親を防ぐ事でそれを避けようとした。


 何故!何が起こっているのか理解出来ないでいたのはスノーク本人だった。妻であるリリアーヌも一番信頼していた人の裏切りは受け入れられなかった。


「俺はコイツとそんな事はしていない!!」


 温和なスノークからまさかの発言に皆一応に驚いていた。

 まるで果物のようだ、蜂が花粉を運んできて受粉したように......不可解だった。


「彼が好きだった、どうしても諦められなかったの」


 彼女は元々スノークの幼馴染だった、小さい頃から彼に好意を持っていて将来は彼と結婚できると思っていた。

 そんな彼女を彼は妹のように思っていたが恋愛感情はなかった、ましてや親近を防ぐため印持ちでは無い人を選ぶためにここにいる者以外を伴侶にとしたのに......

 ここに皆んなで拠点を作り生活し始めたのは十四、五歳のころ、それから五年後に彼が伴侶を連れて帰って来た時は絶望感で何もする気も起きなかった。いつか時間が解決するのではと......自分も思っていた。

 でも、気持ちは雪のように積もっていき気持ちが溶ける事なく心を埋め尽くしていった。

 そんなある日妻であるリリアーヌが里帰りする事となった。彼女にとって絶好とないチャンスとなった。

 幼馴染が集まっての食事会をする事になった。

 楽しい時間が過ぎた、お酒も入りほろ酔い気分でこれから皆んなで創っていくこの国の名前をどうするかなど有意義な話もでき皆んな満足で帰っていった。


「スノークお水持ってきたわ」

「ああすまない」

 水を飲んだスノークに......

「うぅ はぁはぁ」

「どうしたのスノーク?」

 身体が熱い、どうなっているんだ

 スノークの水には媚薬が入っていた。


「スノーク、我慢しないでリリアーヌも今はいないは」

 耳元で囁かれた吐息は熱く彼を誘うものだった。


 そうだ、スノークは彼女に嵌め《は》られたのだ!

 何事も無かったかのよう彼女は部屋を後にした。



 

 



 

 


 




 




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