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第三十四話:王の告白、そして新たな戦場

 

「ロムグール王よ、貴殿は、何かを隠しているのではないか!?」


 東方諸侯のオルテガ公爵が投じた一石は、会議の空気を一変させた。


 帝国の将軍ヴァレンティンがここぞとばかりに追い打ちをかけ、大広間はロムグール王国への疑念と不信感で満たされる。


 全ての視線が、刃のように俺、アレクシオス・フォン・ロムグールに突き刺さった。


(……やられた。オルテガ公、切れ者とは聞いていたが、まさかここまでとは。この問いは、俺の、そしてロムグールの誠実さを試す、完璧な踏み絵だ)


 一瞬、思考が停止しそうになる。ここで下手に誤魔化せば、築き上げた信頼は砂上の楼閣のように崩れ去る。


 かといって、確証のないまま全てを話せば、いたずらに混乱を招くだけだ。俺は、脳内をフル回転させ、円卓に座る権力者たちの内心を探った。


 オルテガ公爵の瞳の奥にあるのは、純粋な疑念と、小国が故の生存本能からくる恐怖。


 ヴァレンティン将軍のそれは、好機を得たという野心と侮蔑。


 商業同盟のボルグは、新たなリスクに対する冷静な計算。


 そしてセレスティナは、俺を信じようとする強い意志と、わずかな不安。


(……ここで必要なのは、小手先の嘘ではない。彼らが納得し、そして、我々と共に次へ進むための、揺るぎない『真実』の一部だ)


 俺は、ゆっくりと息を吐き、静かに立ち上がった。そして、俺に疑念を向けたオルテガ公爵を、真っ直ぐに見据えた。


「オルテガ公。貴殿の疑問は、もっともだ。そして、その問いこそが、この会議で我々が共有すべき、最も重要な核心でもある」


 俺のその言葉に、大広間は再び静まり返る。


「結論から言おう。王都での魔術テロは、魔族がエルヴァン要塞を物理的に突破して引き起こしたものではない。我々は、そう結論付けている」


「な……! では、一体どうやって!」

 ヴァレンティン将軍が、思わずといった体で叫ぶ。


「敵は、魔族だけではないのだ」


 俺は、そこで一度言葉を切った。そして、隣に控えるフィンに目配せする。


 フィンは心得たとばかりに、一枚の羊皮紙を取り出し、その内容を淡々と、しかし明瞭に読み上げ始めた。


 フィンは、ゲルツ騎士団長一派の不正蓄財の調査過程で発見した、不審な金の流れについて語り始めた。


 その金の終着点の一つが、正体不明の闇商人ギルド『黒曜石ギルド』であること。


 そして、そのギルドが、魔術的な呪詛に用いられる特殊な触媒を取引していた痕跡があることを。


「オルテガ公。貴殿の問いへの、これが我々の答えだ。魔王軍は、我々人間の中に協力者を作り、あるいは既存の闇組織を利用して、大陸の内部から我々を崩壊させようとしている。エルヴァン要塞という物理的な『壁』ではなく、我々の社会の『綻び』を突いて、侵入してきたのだ」


 それは、衝撃的な告白だった。魔王という外敵だけでなく、人間の中に「裏切り者」がいる可能性。


 その事実は、各国の代表たちに、魔王の脅威とはまた別の、陰湿で、そして根深い恐怖を植え付けた。


「馬鹿な! 証拠もなき妄想だ!」ヴァレンティン将軍が、即座に否定する。


「それは、貴国が自らの失態を糊塗するための、卑劣な陰謀論に過ぎん! そのような正体不明のギルドが、帝国の目と鼻の先で暗躍できるはずがなかろう!」


 だが、その言葉を遮ったのは、商業同盟の代表ボルグだった。


 彼は、会議の冒頭で名乗って以来、鋭い目で議論の推移を見守っていたが、ここで初めて重々しく口を開いた。

「……そのギルドの名、確かに聞き覚えがある。大陸の裏社会で、ここ数年急速に力をつけてきた、謎の多い組織だ。表立った活動はしていないが、武器や禁制品の密売に関わっているという黒い噂は、我々の耳にも届いている。もし、その背後に魔王軍がいるというのなら……これは、我々の交易路にとっても、看過できぬ脅威だ」


 ボルグの実利的な観点からの証言は、ヴァレンティン将軍の否定を打ち消すには十分すぎるほどの重みを持っていた。


 将軍は「ぐぬぬ…」と唸り、それ以上言葉を続けられない。


 オルテガ公爵は、新たな情報に混乱しながらも、俺の誠実な対応に、その表情から敵意を和らげ、深く考え込んでいる。


「だからこそ、なのです」

 セレスティナが、再び立ち上がり、その清らかな声で皆に語りかけた。


「わたくしはシルヴァラント公国公女、セレスティナ。敵が内部にまで及んでいるというのなら、今我々に必要なのは、互いを疑い合うことではありません。真に信頼できる者同士が、これまで以上に固く手を取り合い、共に真実を究明し、共に戦うことです。アレクシオス陛下は、その危険な真実を、我々に包み隠さず示してくださいました。この誠意に、我々はどう応えるべきでしょうか?」

 彼女の言葉は、疑心暗鬼に陥りかけていた諸侯たちの心を、強く揺さぶった。


 混沌とした空気を、俺は断ち切るように、最後の一手を打つ。


「オルテガ公の疑問、そしてボルグ殿の情報、セレスティナ公女の言葉、全てに感謝する。この状況を踏まえ、私はここに新たな提案をしたい。まずは、この場にいる『有志』による、魔王軍及び黒曜石ギルドに関する『共同調査委員会』の設立を提唱する。互いの持つ情報を共有し、敵の正体を暴き、そして、連合軍が取るべき具体的な戦略を練るための、信頼できる者たちだけの円卓だ」


 それは、事実上、非協力的な帝国を排除し、ロムグール、シルヴァラント、そして商業同盟を中心とした、新たな協力体制の構築を宣言するに等しかった。


 ヴァレンティン将軍は、それに反論しようとするが、もはや彼に同調する者はいない。


 彼は、自らが作り出した「権威」という名の鎧を、俺に内側から破壊され、孤立していた。


 会議の主導権は、完全に俺の手に渡った。


 砂漠の王国の使者は、その豊かな髭を撫でながら、満足げに頷いている。


 そして、それまで一切の表情を変えなかったヤシマの使節団長が、初めて俺に向かって、小さく頷いてみせた。


 絶体絶命の窮地から、俺は、真実の一部を武器とすることで、逆に大陸の国々をまとめ上げるための、新たな、そしてより強固な土台を築き上げたのだ。


 俺の王としての器量が、良くも悪くも、大陸の権力者たちに強烈に印象付けられた瞬間だった。



 本日もお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

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