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プロローグ ~社畜死、女神、スキル説明、そしていきなり勇者召喚の絶望~

 



「……はぁ……はぁ……あと、何件だ……?」


 蛍光灯が明滅する、殺風景なオフィス。時刻は、とうの昔に終電もなくなった深夜三時。俺、相馬譲そうまゆずる、三十路手前の社畜は、栄養ドリンクの空き缶が林立するデスクで、終わりの見えないエクセルと格闘していた。


(企画部の無茶振り資料、今日中にあと50ページ……営業部のクレーム対応報告書、始発までには……ああ、経理部からは昨日の経費精算の件で催促メールが30件……俺は総務部のはずなんだがなぁ……)


 もはや、自分がどの部署の仕事をしているのか、自分でもよく分からない。それが、超絶一流ブラック商社と名高い、我が社の日常だった。入社以来、その便利屋スキル――もとい、押し付けられた仕事を断れないお人好しスキル――を見込まれ、あらゆる部署のヘルプ(という名の丸投げ)に駆り出され続けた結果がこれだ。同期はとっくに愛想を尽かして転職するか、心を病んで休職している。


「……相馬君、まだいたのかね? いやー、助かるよ。君だけが頼りだ」


 背後から、ぬるりとした声。振り返れば、定時でとっくに帰ったはずの田中部長が、なぜかビール片手にニコニコと立っていた。その手には、新たな資料の束。


「ああ、これ、明日朝イチで役員会議にかけるやつなんだけど、ちょっとデータが古くてね。最新版に差し替えと、あと、グラフとかもうちょい見栄え良くしといてくれる? 明日の朝七時には欲しいかなー」


「……は、い……(七時って、あと四時間もねぇじゃねえか! しかも俺、もう三徹目なんですけど!?)」


 口から出かかった悲鳴を、飲み込む。ここで「無理です」と言えないのが、俺の社畜たる所以であった。陰では「勇者様(笑)」とか「ワンオペの最終防衛線(物理)」とか言われているらしいが、全然嬉しくない。


「頼んだよー。じゃ、お先ー」


 田中部長は、悪びれもなく資料の山を俺のデスクにドンと置き、ご機嫌な鼻歌混じりに去っていく。その背中に、心のなかで最大級の中指を立てながら、俺は新たな絶望と向き合った。


(もうだめだ……眠い……視界が霞んできた……エナドリ、もう一本……)


 朦朧とする意識の中、自販機で買った 栄養ドリンクのプルタブに手をかける。だが、その瞬間、今まで感じたことのないほどの強烈な胸の痛みが俺を襲った。


「ぐっ……う……ぁ……?」


 息が、できない。視界が急速に暗転していく。デスクに突っ伏し、床に散らばるエナジードリンクの空き缶が、やけにリアルに見えた。


(ああ……俺、ここで……死ぬのか……? やっと……休める……のか……な……?)


 薄れゆく意識の片隅で、そんな安堵にも似た感情が湧き上がってきたのが、我ながら社畜の極みだな、と思った。過労死。うん、まあ、ある意味、名誉の戦死みたいなもんだろ、現代社会においては。合掌。


 そして、俺の意識は完全に途切れた。


「そうよ。あなたは、お亡くなりになったの。お疲れ様、と言っていいのかしらねぇ」


 ふわりと、どこからともなく鈴を転がすような、しかしどこか間延びしたような声が降ってきた。声のした方向に視線を向けると、そこには筆舌に尽くしがたい絶世の美女が、ほんのりと光をまといながら立っていた。


 絹のような銀髪は腰まで流れ、大きな瑠璃色の瞳は慈愛に満ちているようで、どこか全てを見透かしているようでもある。服装は、古代ギリシャの女神が着ていそうな、シンプルな白い貫頭衣。シンプルイズベストを地で行くその姿は、神々しいとしか言いようがない。


「……どちら様で?」


 我ながら、死んだ直後にしては冷静な問いかけだと思う。もっとこう、取り乱したり、泣き叫んだりするもんだろうか、普通。まあ、もう疲れたしな、生きることに。先ほどの激務の日々を思えば、この何もない空間の方がよっぽど天国だ。


「わたくし? わたくしは、そうねぇ、分かりやすく言うと、女神、ってところかしら。あなたの魂があまりにも優秀で、ピッカピカに輝いていたものだから、ついついお迎えに来ちゃったわけ」


 女神様は、にっこりと微笑む。その笑顔は確かに美しいのだが、どこか胡散臭さを感じるのは、俺の心が汚れちまっているからだろうか。


「優秀、ですか。俺が? あの会社で、ただひたすら働き潰されただけの俺が?」


「そうよぉ。だって、あれだけの業務量を、ほぼワンオペで捌ききってたんでしょう? 普通の人間なら、とっくの昔に魂が擦り切れて、再起不能リタイアよ。あなたのそのタフネスと問題解決能力、そして何よりもその社畜根性! まさに勇者の器よ!」


「勇者……」


 女神様の言葉に、俺は眉をひそめる。勇者、ねぇ。その言葉、前世でも陰で言われてたな。「あいつマジ勇者だわー(褒めてない)」「また勇者様が無茶な案件解決してるよ(ドン引き)」みたいな感じで。つまり、便利な雑用係ってことだろ、それ。もう聞きたくない単語だ。


「そう! 勇者よ! 実はね、わたくしが管理している世界の一つが、今、魔王とかいう、ちょっとアレな存在に脅かされていて、大変なことになっているのよ。そこで、あなたにその世界を救う勇者として、転生してほしいの!」


 女神様は、ぱんっ!と柏手を打ち、満面の笑みでそう告げた。まるで、素晴らしいプレゼントを思いついた子供のような、無邪気な笑顔で。


 だが、俺の答えは決まっていた。


「……いえ、結構です」


 きっぱりと、即答で断る。


「へ? ……え? えっ、ちょっと待って。今、なんて?」


 女神様は、一瞬、何を言われたのか理解できなかった、という顔で固まった。その瑠璃色の瞳が、ぱちくりと瞬く。


「ですから、お断りします、と申し上げました。もう疲れました。勇者とか、世界を救うとか、そういうのは、もうお腹いっぱいです。安らかに眠らせてください。なんなら、無に還してくれても構いません」


「えええええ!? なんで!? 勇者よ!? 選ばれし者なのよ!? チート能力とかも付け放題よ!? ハーレムだって夢じゃないわよ!?」


 女神様は、信じられない、といった様子でわめき散らす。その剣幕は、さっきまでの神々しさとは程遠い、駄々をこねる子供のようだ。


「チート能力もハーレムも興味ありません。俺はただ、安らかに眠りたい。それだけです。ブラック企業で身を粉にして働いた社畜の、ささやかな願いですら、聞き入れてはもらえないのでしょうか、女神様?」


 俺は、心の底からそう言った。もう、何もしたくない。誰かのために頑張るのも、責任を負うのも、うんざりだ。


「うぐっ……そ、それは……でも、でもねぇ! あなたほどの優秀な魂、そうそう見つからないのよ! 今回の勇者召喚、絶対に失敗できないの! 世界の危機なのよぉ!」


 女神様は、今にも泣き出しそうな顔で訴えかけてくる。その姿は、確かに庇護欲をそそられるものがあるが、俺の決意は変わらない。


「でしたら、他の方を当たってください。俺よりもっと、やる気に満ち溢れた魂が、どこかにいるでしょう。例えば、こう、中二病をこじらせた感じの、正義感の強い若者とか」


「それがいたら苦労しないわよぉ! 最近の魂は、みーんな省エネ志向で、異世界転生とか、面倒くさがって誰もやりたがらないんだから! あなたみたいな『大当たり』、何万年に一度の逸材なのにぃ!」


 どうやら、女神様の世界も人材不足らしい。どこの世界も、大変なんだな、と他人事のように思う。


 しばらく、女神様はうーうーと唸っていたが、やがて、何かを思いついたように顔を上げた。その瞳には、先ほどまでの涙はどこへやら、悪巧みを思いついた子供のような、キラリとした光が宿っていた。


「……分かったわ。そこまで言うなら、勇者は諦めましょう」


「おや、話が分かるじゃないですか、女神様」


 意外なほどあっさりと引き下がった女神様に、俺は少し拍子抜けする。


「ただし!」


 しかし、やはりそう甘くはなかった。


「勇者がダメなら、国王として転生してもらうわ!」


「……は?」


 今度は俺が固まる番だった。国王? 何を言っているんだ、この女神は。


「いやいやいや、意味が分かりません。勇者を断った人間に、なぜ国王を?」


「だって、あなたほどの魂を、このまま無に還すなんて、あまりにもったいないじゃない! それに、国王なら、直接戦う必要もないでしょう? あなたの得意な問題解決能力や人心掌握術で、国を運営していけばいいのよ。ほら、あなたの前世での経験が、そのまま活かせるじゃない!」


 女神様は、したり顔でそう言う。確かに、前世では中間管理職のような立場で、上司と部下の板挟みになりながら、あらゆる部署の問題解決に奔走させられていた。渉外、経理、人事、果てはクレーム処理まで。総務部所属だったはずなのに、いつの間にか「何でも屋の相馬」と呼ばれていたくらいだ。その経験が、国王として活かせる、と言われれば、そうかもしれないが……。


「ですが、俺はもう働きたくないんですが……」


「大丈夫、大丈夫! 国王なんて、最初は大変かもしれないけど、軌道に乗れば、あとは優秀な部下に任せて、悠々自適な生活が送れるわよ! 美味しいものを食べて、綺麗な景色を眺めて、可愛い女の子たちに囲まれて……ほら、悪くないでしょう?」


 女神様の言葉は、悪魔の囁きのようだ。いや、実際に女神様なのだが。


「……それでも、やはりお断りしたいのですが」


「だーめ! これはもう決定事項よ! あなたの魂のエネルギー量は膨大で、転生させるだけでも結構ギリギリなの。もう他の魂を探す余裕なんてないのよ!」


 そう言うと、女神様は俺の返事を待たずに、何やら呪文のようなものを唱え始めた。足元に、複雑な魔法陣のようなものが浮かび上がり、眩い光を放ち始める。


「ちょっ、ま、待ってください! 強引すぎませんか!? 人権侵害ですよ、それ!」


「あら、死んだあなたに人権なんてあるのかしら? それに、これはチャンスなのよ? ブラック企業で死んだあなたが、イケメン国王様として、第二の人生をスタートできるビッグチャンス!」


「イケメン国王とか、そういう問題じゃなくてですね……!」


 俺の抵抗も虚しく、魔法陣の光はますます強くなり、俺の意識は急速に遠のいていく。


「ああ、そうだわ! せっかく国王様になるんだから、ちょっとした餞別せんべつスキルを授けてあげるわね!」


 魔法陣の光の中で、女神様が思い出したように言った。


「スキル、ですか?」


「ええ。あなたの優秀な魂に相応しい、地味だけど超便利なやつを二つほどね。まず一つ目! 【絶対分析】!」


 女神様は、まるで通販番組の司会者のように、芝居がかった口調でスキル名を叫んだ。


「絶対、分析……?」


「そう! これさえあれば、ありとあらゆるものの情報と、それに対する最適な対処法が一瞬で分かっちゃうの! 人間のステータスはもちろん、物や状況、果ては空気の読めない上司の攻略法まで、バッチリよ!」


「……それは、確かに便利そうですけど。なんか、前世でも似たようなことやらされてたような……」


「気のせいよ、気のせい。そして二つ目! 【人心掌握(ただし下心が見えると効果半減)】!」


「人心掌握……って、またなんかきな臭いスキルですね。しかもカッコ書きで不穏なことが書いてあるんですが」


「あら、失礼しちゃうわね! これはね、あなたが誠実な態度で相手に接すれば、相手の警戒心を解き、信頼を得やすくなるっていう、とっても平和的なスキルなのよ。国王様には必須でしょ? ただし!」


 女神様は、人差し指を立てて、いたずらっぽく笑う。


「その名の通り、あなたが下心……例えば、可愛い女の子を侍らせたいなーとか、そういうよこしまな気持ちを抱いた瞬間に、効果が半減しちゃうどころか、相手に『うわっ、この人、下心見え見えなんですけど』ってドン引きされちゃうから、気をつけてね?」


「……それ、デメリットの方が大きくないですか?」


「あら、そうかしら? あなたの誠実さが試されるってことよ。清く正しい国王様を目指しなさいなっていう、わたくしからの愛の鞭よ、愛の鞭」


 女神様は、うふふと楽しそうだ。どう考えても、面白がっているとしか思えない。


「あ、そうだ。一つ、条件を飲んであげるわ」


 薄れゆく意識の中で、女神様の声が聞こえた。


「勇者がダメなら国王、それはもう覆せないけど、あなたの代わりに、別の魂を勇者として召喚してあげる。これでどう?」


「……別の、勇者を……?」


「そう。……(ふふっ、あなたの魂で転生エネルギーのキャパシティは、もうほとんど使い切っちゃってるから……残りの容量は、本当に、ごく僅かねぇ。まあ、ゴミカスみたいなエネルギー量の魂しか呼べないかもしれないけど、そこはご愛嬌ってことで。どうせ、この子が何とかするでしょうし)」


 女神は最後に何かボソボソと呟いていたようだが、強まる光と喧騒にかき消され、俺の耳には届かなかった。ただ、その口元が、やけに楽しそうに歪んでいたのが、妙に印象に残っている。


 その言葉を最後に、俺の意識は完全にブラックアウトした。



「―――陛下、アレクシオス陛下! まもなく、勇者様がご光臨なされますぞ!」


(……ん? なんだ……? 誰の声だ……? さっきまで会社のデスクにいたはずじゃ……)


 意識が混濁する中、やけに張りのある老人の声が鼓膜を揺らす。重いまぶたをこじ開けると、目に飛び込んできたのは、高い天井と、きらびやかな装飾。そして、視線を下に転じれば、自分が座っているのが、どう見ても普通の椅子ではないことに気づく。やたらと豪華で、威圧感のある……玉座、とでも言うべきものだ。


(玉座……? 俺が……? なんでこんなところに……? あの後、どうなったんだ……?)


 混乱する頭で周囲を見回す。そこは、石造りのだだっ広いホールのような場所だった。正面には巨大な魔法陣のようなものが淡い光を放っており、その周囲ではローブをまとった集団が何やら厳かに詠唱を続けている。そして、俺の座る玉座の前には、多くの貴族らしき人々が緊張した面持ちで魔法陣を見つめていた。


「アレクシオス……? そうか、俺は、アレクシオス・フォン・ロムグールとして転生したんだったか……」


 女神とのやり取りが、断片的に蘇る。過労死した俺が、女神に無理やり国王として転生させられたこと。そして、俺の代わりに勇者が召喚されるという、あのふざけた条件。


(ってことは、まさか、今、まさにその勇者召喚の儀式の真っ最中なのか!? いきなりすぎるだろ! 心の準備というものをさせろよ、普通!)


 状況が飲み込めない。まるで、悪夢の続きを見ているようだ。いや、過労死からの異世界転生って時点で、既に現実離れしすぎているのだが。


「神聖なる魔法陣よ! 我らが祈りに応え、救世の光を顕現させたまえ!」


 神官長らしき老人が、杖を高く掲げ、朗々と叫ぶ。その声に応えるかのように、足元の魔法陣の輝きが急速に増していく。


(おいおい、待ってくれ! ちょっとタイム! まだ頭が追い付いてないんだが!?)


 俺の内心の叫びなどお構いなしに、儀式はクライマックスへと突き進んでいく。魔術師たちの詠唱は最高潮に達し、魔法陣から放たれる光は、もはや直視できないほど眩い。


 ゴオオオオォォォッ!


 強烈な光の奔流が、部屋全体を包み込んだ。まるで世界が白一色に塗りつぶされたかのような感覚。数秒か、あるいは数十秒か。時間の感覚すら曖昧になるほどの圧倒的な光。


 やがて、その光がゆっくりと収束し始めると、魔法陣の中央に、うっすらと人影が見えてきた。


 貴族たちから、期待と安堵の混じったどよめきが起こる。


「おお……!」「ついに……勇者様が……!」


 そして、光が完全に晴れた時――魔法陣の中央には、一人の少年が呆然とした表情で立っていた。現代日本の高校生といった風体の、どこにでもいそうな少年だ。着慣れないのか、制服らしきものを少しだらしなく着崩し、寝癖のついた髪を手で押さえている。


「……ここ、どこだよ? え、何、この状況。ドッキリ?」


 少年は、キョロキョロと周囲を見回し、不安と不機嫌さをないまぜにしたような表情でそう呟いた。その場違いな第一声に、水を打ったように静まり返る広間。


 俺は、無意識のうちに、女神から授かったスキルを思い出していた。


(【絶対分析】……これで、あいつの情報が分かるはずだ……頼む、せめて、まともなやつであってくれ……! あの女神のことだ、何か裏があるに決まってる……!)


 女神の最後の独り言が脳裏をよぎり、嫌な予感は拭えない。だが、今は祈るしかない。この国の、そして俺の運命を左右するかもしれない勇者の能力を。


 俺は、目の前の少年に意識を集中し、【絶対分析】を発動させた。


 刹那、脳内に直接、膨大な情報が流れ込んでくる。


【名前】田中たなか いつき

【称号】自称:イトゥキ・ザ・ブレイブハート

【職業】勇者(仮)

【ステータス】

 ** HP:15/15 (村人A平均:30)**

 ** MP:5/5 (村人A平均:10)**

 ** 筋力:3 (かろうじて剣は持てるが、振ると腰を痛めるレベル)**

 ** 耐久力:2 (ちょっと徹夜すると風邪をひくレベル)**

 ** 素早さ:8 (逃げ足だけはそこそこ)**

 ** 知力:4 (九九が怪しいレベル)**

 ** 幸運:1 (人生ハードモード確定)**

【スキル】

 ** ・口先介入(低確率で相手をイラつかせる)**

 ** ・責任転嫁(高確率で自分の非を認めない)**

 ** ・現実逃避(ピンチになると眠くなる)**

【総合評価】マジで役に立たない


「…………」


 俺は、息を呑んだ。いや、呼吸が止まったのかもしれない。目の前に表示された(ように感じた)情報に、血の気が引いていくのが分かった。


(マジで……役に立たない……だと……!? しかも、なんだこのマイナス方向に振り切れたスキル群は……! これが……これが俺の代わりに召喚された勇者……!?)


 女神の野郎……! あの時の独り言は、そういう意味だったのか! 本当に、正真正銘の、一点の曇りもない、ゴミカスみたいな勇者を送り込んできやがったあああああああっっ!!


 俺の絶望は、しかし、声にはならない。ただ、玉座の上で、静かに顔面蒼白になることしかできなかった。


 召喚された勇者、田中樹は、そんな俺の心境など露知らず、ようやく状況を飲み込めてきたのか、ふんぞり返って不遜な態度で言い放った。


「へえ、俺が勇者ねぇ。まあ、薄々気づいてたけどね。俺ってば、やっぱ特別な存在だったわけだ。で? 魔王倒せばいいんだろ? 速攻で片付けて、元の世界に帰らせてもらうから。あ、でも、それなりの報酬は期待してるぜ? あと、可愛い女の子とか、美味いメシとかもよろしくな!」


 その自信過剰な物言いと、どこまでも厚かましい要求。


 俺は、こめかみに青筋が浮かぶのを感じながら、固く目を閉じた。


(終わった……この国、終わったかもしれん……いや、俺の胃が先に終わる……)


 元社畜の若き国王アレクシオスと、マジで役に立たない(と断言された)勇者・田中樹。彼らの異世界での物語は、まさに絶望の淵から始まろうとしていた。



新作投稿開始です。


 本日もお付き合いいただき、誠にありがとうございます。

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