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無題、更新予定  作者: 犬君
第1章
5/7

4話.離別(上)

 メルファが生まれてから5年と少しが経過した。

 

数ヶ月前にはメルファの5歳の誕生日が祝われ、マントーのみならず、周辺の友好諸国からもいくらかの貴族が私たちの屋敷へ訪れた。

その中にはファルステルもいて、彼女は宣言通り強くより美しくなっていた。前回と違い大勢の人が来ていたため多くを話すことができなかったが、事実以前とは多少雰囲気も異なっていた。

懲りずに暗がりへ連れ込まれそうになったが、人目に付かぬ様に片手で捻ってやった。まだまだね。


そんなこんなで、我がカリチュア家の子らは大きな病気を患う事も怪我をすることもなく皆順調に成長することが出来た。

 

 メルファも5つになったと言う事で、戦闘訓練にも参加する様になった。

魔法に比べるとあまり肉弾戦に興味は無いらしく、最初の内は様々な武器に触れられると言うことでウキウキで参加していたものの、最近では強くなることそのものには頓着せず程々に済ませている様子だ。

そんなメルファにしっかりしなさいと口では言いつつ、内心ホッとしてしまったのは内緒。


魔法訓練に関しては私から言う事はなく、前にも増して魔法の扱いに長けてきている。

最初の1年ほどの伸びは無いが、詠唱の短縮性、魔力の流動性、発動時間、精密性ともに着実に成長を続けている。

特に詠唱の長短は才能に依存しない本人の努力の指標とも言われ、メルファが毎日サボらず真摯に思考し練習していることが分かる。

 私?私が魔法を唱えるときは相手との距離が離れてるときだから、長くても問題はないから…。短さより精密性を優先してるもん。まぁ精密性を比べてもメルファに優っているわけじゃないけど…。

 

 そんなメルファに今度はクリスも危機感を覚えたのか、魔法に没頭するようになった。

近頃は午後の自由時間も使って魔法の研究を進めている。

この間、庭の噴水のほとりに座り耳の先まで頭を真っ赤に染め上げボソボソと何事か呟いていたので、遂に頭がおかしくなったのかと思い、何をしているのかを尋ねたら、使役している生物を介して魔法を起動させようとしているそうで、中々上手く行かないものなのよと夕方になるまでそれを繰り返していた。

咄嗟に訓戒しようとしたが、根を詰めすぎても良く無いとは思うがそこまで頑張りたくなる気持ちもよく分かるため、本当におかしくなる前に止めるから、と釘を刺す程度に留めておいた。

 

 私はと言うと、クリスに諭された通り魔法は真剣に取り組んでいるが、近接戦闘に持ち込む為の手段としての訓練に限りひたすらにその訓練を行なっていた。

その甲斐あってか近距離の戦闘においてはお兄様かそれ以上に戦えるようになった。

魔法の撃ち合いになってしまったら平凡の域を出ないけど、そうならないように立ち回れば良いし、そうなってしまったら他の人――身近な例で言えばクリスのような人に任せれば良いのだ。そう思って日々励んでいる。


 そのお兄様は近頃近隣諸国の内戦が激化したことを受けてか、お父様に随行して家を出て会議等に出席する事が増えた。

そのため、以前のように一緒に訓練をすることも少なくなってしまった。

もちろん全く無いと言う訳ではないけど、小さい時から毎日続けていた相手なだけに寂しく感じる。

しかし、お兄様は出先でも鍛錬は続けているらしく私も当然気を抜く事などできない。

むしろ見せる間隔が開くため私の成長を分かりやすく披露できるため、やる気も漲ると言うものだ。


 加えて、メルファはお父様とお兄様が帰ってきた時に時たま会議に参加し、これからの家の方針や戦略についての話し合いにも参加するようになった。

これは、以前午後の座学中にメルファが鋭い意見を出したことをきっかけにして、お兄様が会議に連れて行ってから定期的に連れて行くようになった。

魔法も得意な事から分かるように、根本的に頭が切れるのだろう、姉として鼻が高い。その分こと戦闘に於いては負けるわけにはいかない。

 

 そんな弟君は水浴びはお兄様が居るときはお兄様と入り、それ以外は私達と4人で入るが、入浴はメイド達と入りたがる。

5つになっても変わることはなく、それどころか前以上にメルファは見た目も可愛くなっているから、メイド達も喜んで一緒に入浴しているため止める理由もなく、誰も咎めることはないが。

姉弟で一緒の浴槽に浸かるのが恥ずかしいのだろうか?そんな歳でも無いだろうに。

それとも、年上のお姉さんが好みなのだろうか、にしては歳が離れすぎている気もするが。

今より幼い時、母のみならずメイドの乳にも吸いつこうとしていたから、もしかしたら私達の貧相なものより大きなお胸がお好みなのかもしれない。

前に、お兄様とポドフィンがその手の話をしていたのを耳にしてしまったことがあるし、男の人はそう言うものなのかも。

 

 そういえば、ロリスも遂に訓練に参加し始めた。

自分は将来王子様と結婚するから戦うことはないからとゴネ続け、戦うお姫様が好きな殿方も世の中に居ると説得してみたり、そもそも否が応でも戦闘に巻き込まれる事はあるのだから身を守る手段は持っておくべきだと説いてみたりしても全くその気にならなかった。

しかし、クリスとメルファが、特にメルファがロリスと遊ぶ時も練習を続けていることがあり、その様子を近くで見た時急に、ロリスもやりたい!と言い翌日から参加するようになったのだ。

今では嫌々ながらも戦闘訓練にも顔を出し、メルファと一緒に基礎的な訓練を受けている。

 

 そんな風に私達は日々を確かな充実感を覚えながら少しずつ、しかし着実に成長しながら過ごしていた。



 

………


 ある日のこと。

その日もいつもの様に、太陽が地平線の端から上り始める早朝に目を覚まして、窓を開けて日を浴びて目を覚ます。

そして、いつもの様に部屋に入ってくるヨゥチィと挨拶を交わし、のんびりお話をしながら服を脱がせ、着せてもらう。その後いつもの様に食堂へ向かい、皆と顔を合わせ朝食を食べる。

 しかし、この日はいつもと違うことがあった。

底知れぬ違和感、背中がむず痒いような感覚が続きソワソワしてしまう。


「どうかしたのですか?お姉様。何だか落ち着かないようですけど」


 どうやらその様子が外にも出てしまっていたらしい。

心配そうな表情でメルファが訪ねてくる。相変わらずこの子は朝からでも顔がいい。


「大丈夫よ、何でもないわ。何だかそわそわしちゃうだけ」

「別に、タキセルが落ち着かないのは今に始まったことじゃないのよ」

「……、でも何なのかしらね、この感じ前にもあったような気がするような…」


 クリスの発言は無視して続ける。


「前にはどうやって解決を?」


メルファが苦笑いしながら尋ねる。困った顔も可愛い。


「そうねぇ、どうだったかしらね。いつの間にか無くなっていたような、何かスッキリ解決したような…。

あ、このフルーツ甘くて美味しいわね。食べないならクリス、あなたの分ひとつくれない?ロリス、メルファも一緒に食べましょ!」

「あ、ちょっと。人の返事も聞かずに持っていかないで頂戴。別に良いけれど。それにしても貴女、毎日よくもまぁ朝からそんなに食べられるものね」

「んふふ、美味しい。ん?そうね、三食いっぱいよく食べる。これが私の力の源よ!」

「あながち間違っていなさそうなのが馬鹿に出来ないのよね…。貴女別に太っている訳でもないし、そんなにムキムキと言う訳でもないのよね。本当にエネルギーに全て使われているのかしら…」

「わひゃっ!くすぐったいわね!急に触らないでよ」


 クリスにお腹周りを撫で回される。危ない、ご飯を取り落とす所だった。それにしてもこのフルーツ、甘くてそれでいてあっさりしておりお茶に合う。


「喜んでもらえて何よりだよ。それはこの前行った国の名産品なんだ。君たちがそう言って食べてくれると思って幾らか買ってきたんだ」

「流石はお兄様。私たちの事をよく理解されていらっしゃる!次回もお願いしたいわ!」

「ははは、本当にタキセルは食べるのが好きだなぁ、善処させてもらうよ」

「ロリスは、ロリスは食べ物よりロリスに似合う杖が欲しいの!」

「うんうん、分かったよ。良い子にしていたら君たちみんなを満足させられるものを買ってくるから。

食べ終わったなら、早く外に行こうか」


 最後のひとつを味わいながら食べ切り、いつもの訓練用の衣服へと着替え外へ向かった。





 違和感があると言うことで、今日は念入りに準備運動をする。体の不調からくるものではないと思うから、問題はないはずだけど念を入れるに越したことはない。

それに、多くの怪我は治すことができるが治らない場合もあるらしい。膝や足首をつなぐ筋や内臓、目などがその例だ。長らく放置してしまった場合や毒に侵されてしまってもダメらしい。

新しく治癒することがないところは魔法を使っても治すことができないようで、実際に私の屋敷にいるメイド達にも以前に怪我をしたことが原因で肘が不自由で伸び切らない子などがいて、私が治療しようと何回魔法を唱えても治すことができなかった。


 そんな訳で今日はいつもより早めに外に出て演習場の周りを走る。

今年ももうすっかり寒くなってしまい、吐く息は白く何もしていなければすぐに凍えてしまう。

昨夜降り積もった雪をギュムギュムと踏みならしながら進みつつ、肩を回し全身の筋肉をほぐしていく。


最近成長期故か胸が張る日が多く、走ると痛む。訓練中も乳首が擦れ、わざわざ治すのも気恥ずかしく、水浴び中に涙目になりながら染みる体を洗い流している。

体が成長すると出来ることも増えるし力も敏捷性も増すから良いのだが、あまり胸が大きくなりすぎると動作に支障が出そうなので困りものだ。

 

 身体がほんのり汗ばんで来たところで走るのをやめ、羽織っていた服を半分に折りたたみ近くにあったベンチへとかけておく。

普段はこの後クリスと2人組で柔軟運動をしていくのだが、まだ時間があるため足回りや体幹の柔軟をしていた時だった。

胸の筋肉を伸ばそうと両手を空に向けて上げ、上半身を後ろに逸らした。

その瞬間今まであった違和感が急に無くなった。

不思議に思い腕を下ろすと元通りになる。

もう一度両手を掲げたら違和感が消えた。何だこれ。


 色々と試してみたところ、この姿勢を取っている時だけ違和感から解放されることが分かった。

 仕方がないのでその姿勢のまま続けることにした。


「今度は何やってるのよ貴女…」

「こうしてると変な感じがしなくなるのよ。別に良いでしょ、放っておいてよ!」

「あぁ、さっき言っていたことね。なるほど、そうなのねぇ。…えいっ」

「ひゃあっ!…もう、やめてって言ってるでしょ!」

 無防備になっている脇をつぅとなぞられる。


「ごめんさい、目の前にあったからつい…。

それと、汗をかいたら身体が冷える前に拭いたほうがいいわよ」

 クリスが私の汗がついた指を見ながら言う。


「余計なお世話よ!」

 本当にこの子は。さっきまで走ってたんだから当たり前じゃない、嫌なら触らないで欲しいわ。全くもう!

そう思い、背中に水でも落としてやろうと反射的に魔法を打ち込もうとした瞬間、先程とは違う感覚に襲われた。


 「わ、わ、何よこれ」

「?、急に大きな声を出さないで頂戴。今日も朝から元気なのね、本当にどこからそんな活力が生まれてるのかしら」


 そのまま魔力を身体に流し続けると、胸の奥に熱の高まりを感じた。やがてその熱は全身に伝わって行き、

 

 「おぉ、これは…!おぉ、おぉ!」

「何?何なのよ…新手の仕返しかしら」

「違う、違うの。何か来てるの」

「来るって、何がよ?」

「わからないわ、でも何か()()が来てるの。身体の奥から!」


 魔力の操作が効かなくなり、その膨大が抑えきれなくなっていく。

もう、どうにもならない。なるようにしかならないと考え、抑え込むのではなく、その逆――流れに身を任せるように魔力を解放してゆく。


「もう、ダメ。クリス離れて!何か出ちゃう!」

「な、何よ急に。卑猥なこと言わないでくれるかしらっ」

「冗談を言ってる場合じゃないの!」


 掌で顔を覆い恥じらう素振りを見せるクリスをできるだけ遠くへと蹴り飛ばす。

解放していた魔力の奔流はその勢いを増し、身体の外へ外へと行き場を求めて溢れ出そうとする。

 そして限界を超えたその瞬間、身体の中で何かがカチリと嵌ったような感触があった。

同時に、荒れ狂う魔力は凪ぎ身体に纏わりつくように収束していった。


「痛いわね…、結局どうともならなかったじゃないのよ。暴れるのも大概になさい」

「見て分からない?私の周りにあるこの魔力が?」

「…恥ずかしいから、そう言うことは他の人には言わないようにして頂戴ね」


 クリスが冷めた目をして言う。

傍目には分からないのだろうか?

と、いうか一体これはどうしたと言うのだろうか。

そこそこの勢いで魔力が消費されているのが分かる。

体に特に異変はないが、このままこの調子だと困ってしまう。


「どうしよう?このままだと確実に魔力切れになっちゃうわ」

 魔力が底をつくと、吐き気に頭痛、倦怠感がしばらく取れなくなる。あんなものはもうゴリゴリだ。小さい頃は魔力も少なく、調節もできていなかったからよく引き起こしていたものだ。

そういえば、メルファが魔力切れを起こしてるとこ見たことないな。


「私だけじゃ力不足ね。とりあえず、お兄様と先生たちに見てもらってから考えましょう」

「そ、そうね。取り敢えず屋敷に戻りましょう!」


 そう言い、屋敷へ向けて慌てて駆け出したところ、


「え?」

「は?」


 踏み出した筈の地面が後方へ掻き消え、体が宙へと吹き飛んでいった。



 

 

 

 斯して私――タキセル・カリチュアは生まれて初めての固有魔法を会得したのだった。

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