1話.決別、誕生
考えてから投稿しようとすると、億劫になってしまうため後々タイトルや小説紹介は少しずつ更新していく予定です。すみません。
底冷えのする様な冬の日の夜の事だった。
ベルクリン大陸北東部に位置する国マントー、その首都クォンティにて新しい命が生まれた。
夜の静けさを破るような産声はその存在の矮小さを否定するかの様であり、
彼の者が居る階のみならず屋敷の隅々へと誕生の事実を伝播させた。
素朴ではあるが上質な服に身を包む男はもう5人目の子供になると言うのに顔を酷く歪ませ、
涙をとめどなく流し、生まれた子を胸に抱き、子を産んだ女に口付けをした。
そして、その声を聞き茶色の髪の少女が階下の部屋のドアを開き放ち、勢いのまま廊下を駆け抜け、顔一面に笑みを浮かべ音の発生元へと転がる様に走って行った。
――――――
その日は廊下が賑やかだったから、いつもよりちょっと早く目が覚めた。
数日前からお母様がもしかしたらと話していたため、私もすぐに察しがついた。
妹1人に姉1人、歳の離れた兄1人、次は弟かしらねと、以前は細身であったお腹が傍目から見ても分かるほどに大きく膨らんだお母様と折に触れては話していたからか、我知らず意識して過ごしていた。
ついさっきまで見ていた夢に出た子は男の子だったなぁ、
私も期待しちゃっているのかな、とぼんやりと考え
脳が覚醒するや否やベッドから跳ね起き、寝巻きも着替えぬまま部屋の反対側へと走ってゆき外の様子を確認するべくドアを開けた。
「うわっ!…おはようございます、タキセルお嬢様。今日はお一人で起きられたのですね、関心関心!」
ドアを開けると目の前に小さい頃より見慣れたデザインの服を来た私のメイド――ヨゥチィが驚いた顔をして立っていた。
手には私の着替えを持っており、丁度私を起こしに来たところであった様だ。
「そうよ!私ももう7つになったんだからそれくらいの事はできるわ!」
それに、また一つお姉さんになるんだからね、と私は鼻高々に言った。
「ですが、ドアを開けるときは静かにお開けくださいと何度も申し上げておりますが、分かって下さらないのですね?」
「うっ…、でもそれは、みんなソワソワしてたし気になってたから仕方ないじゃない…」
「もし部屋の前に私ではなくクリスお嬢様やロリスお嬢様がいたらどうするおつもりなんです?
私はタキセルお嬢様が今日も元気にお開けになるかもと考えていたから避けられましたが、他のお嬢様方なら突き飛ばされていたかも知れませんよ?」
ヨゥチィの柔和な顔の目が少し吊り上がり、心なしか私の服を持つ手に力がこもる。
いつもはニコニコとして他のメイドにも可愛がられているのに、私と話す時はいつも可愛くない顔をする。
まぁ決まって私が悪いのだけれど。
「そうだけど、クリスだったらきっと大丈夫よ、体だけは丈夫だもの、この前だって一緒に木に登っていた時に落っこちたけどニコニコしてへっちゃらそうにしていたわ」
「私はそういう事が言いたいのではなく……ってまた家の木に登ったのですね?
いつも止めなさいと言っていますのに、私の家の娘たちは心が優しく元気だがどうも淑やかさが足りていない、と旦那様が日がな不満を……」
そう言って、ヨゥチィは手に持っていた服を胸に抱え腕を組む様な姿勢になった。
まずい、彼女はもうすっかりお説教モードになってしまった様だ。
また墓穴を掘ってしまったみたいだ。彼女はこうなると長い、何とか話題を変えないと。
「それはそうと、もしかして、お母様に何かあったの?みんな慌てていて私、心配よ!」
上目遣いにヨゥチィにそう訴える。今日は上手くいくかな?
「またそうやって話を変えようとして……。まぁ良いです、この話はまた後でしましょう」
「じゃあ私はこれで!今日の朝食は何かしら?今日はこの前食べた白くてふかふかのものが食べたいわ!楽しみね!」
何やかんやいってヨゥチィは私に甘い。朝起きたての私を本気になって詰めようとはしないようだ。
後になって、ぷりぷり叱ってくることもたまにあるけれど。
「ちょっとお待ちなさい、そんな格好ではしたないです。お食事の場にはバーグマン様やブラスティン様もおりますし執事の者もいるのですから着替えてから行きますよ」
そう言い、ヨゥチィは私の手を引き部屋に引き戻すのだった。
いつもの様にヨゥチィに着ていた服を脱がせてもらい、先程から手にしていた服を着せてもらった後、お母様の話を聞きながら食卓へ向かった。
「おはよう、タキセル。今日も朝からヨゥチィに絞られたのかな?」
食堂に行くと、当然と言うべきか、お母様が居なかった。お父様、お兄様、クリス、ロリスはいつも通り、いつもの場所に座ってはいたけれど。
「いいえ、今日は私、1人で起きられたのよ!
お母様も今大変なのだから、そんなことする筈ないでしょ、お兄様。あんまり私をみくびらないで下さらない?」
「そうかい、それは失礼しました。でも、あまり調子に乗らないように」
淑女らしいポーズをとりながら冗談めかして言うとお兄様は肩を竦め、含み笑いをしながらそう返してきた。
少し斜め横を見ながら言っていたから、そちらの方を見るとヨゥチィが変な顔をしていた。バレてたようね。
「タキセルも聞いていると思うが、今朝カーラルが破水した。話によると今夜か明日くらいが出産予定日とのことだ」
お父様がいつに無く真剣な顔でそう言った。お父様がこんなに真面目な様子で話をするのは3年前にロリスが生まれた時と2年前オゾガズブに出兵した時以来か。
とにかく、いつも私達が粗相をして困った様相で叱る時とは全く雰囲気が異なっていた。
「そう言うわけで、私は今日カーラルと一緒にいるつもりだ。分かってはいると思うが、騒ぎを起こしたりしない様に。私も今日はあまり余裕がないから、本気で怒らせる様な事はしないでくれよ?」
「それは無理な話よ、お父様。タキセルが1日中大人しく良い子に出来るなんて到底思えないわ。」
このクソ生意気な声はクリスだ。金色の髪をロールに垂らした、可愛らしい顔つきでいつも通りおめかしをして悪意を込めた声色を発しこちらをニヨニヨと見ている。
実に腹立たしい。他に人がいなければ、真っ直ぐ走っていき、右ストレートをその整った顔面にお見舞いしてあげたいところだ。
「昨日もこの子、立派なお姉さんになるって朝から張り切っていたのに昼過ぎには調理場に忍び込んで、仕込み途中のお肉をコソコソ食べていたのよ」
「なっ、あなた見ていたの?卑怯よ、またどうせそこらの鳥かなんかの目を使って見てたんでしょ!
動物の目を使って人の生活を覗き見るなんて変態のすることよ、恥を知りなさい!
それに、クリスもこの間果物をいくつか盗み取って持ち帰っていたじゃない、私、見ていたのよ!」
クリスはいつもお得意の使役の魔法を使って私の邪魔をする。魔法全般は彼女の方が私の上を行くため、私を揶揄ったりしては上手い具合に煙に巻かれる。
フィジカルは私が遙か上のため、捕まえさえすれば目にモノを見せてご覧に入れられるのだけれど。
「変態、ですって。失礼ね、変態と言えば、あなただってこの間、屋敷の裏手で…」
「2人とも、やめなさい。タキセルはもちろんそうだが、クリスも人に言える立場にはないだろう?
2人はしばらく喧嘩しないで、仲良くしていなさい」
お父様に叱られてしまった。いつもはもっと優しく諭してくれるのに。今日は本当に怒らせてはダメなようだ。
でも、これもクリスが意地悪するせいだ。
私のせいにされがちだけれど、いつだってきっかけは彼女が私にちょっかいをかけることからなのは、みんな知らないだろう。立ち回りが上手なところも拍車をかけ、私の頭に血を上らせる。
「とにかく、2人とも今日は大人しくしててね。トラブルを作って父さんを困らせない様に」
「皆、怒ってるの?」
お兄様に諭され、本当に今日は静かにしていようと心に誓っていると、妹のロリスが心配そうに周りを見ていた。
「そんなことないさ。みんな新しく生まれる子が楽しみでワクワクしてるだけだよ」
「ロリスはね、弟が欲しいの!妹でもきっと楽しいだろうけど、弟の方がもっと良いと思うの!」
「そうだね、私は女の子でも男の子でも無事に生まれてくれさえすればどちらでも嬉しいよ。さぁ、タキセルもら席へ座って、朝ごはんを食べようか。今日はこの間タキセルとロリスが美味しいと言っていた、パンを乳と卵で煮たスープだよ」
私は急いで席につき、朝食を残らず平らげた。当然余っていた分も全てだ。
それからいつも通り、魔法や武術の訓練を受けた後、
今日はベルクリン大陸に関する歴史についての話を聞いた。
武術の指導を受けるのは言うまでも無く好きだ。無手での戦闘から剣やら槍やら斧やら一通りの武具を用いた戦闘法についでは勿論の事、
それらを用いられた時の対応策についても教わる。
私はまだ幼いから基礎体力をつけたり、正しい振り方などを教わって実践してみる程度だけど、お兄様は先生にいつも打ちのめされている。
それでもずっと続けていて、お兄様は本当に努力家だと思う。
ちなみにクリスは弱くはないのだが、体力がてんでないから訓練を始めてすぐにヘロヘロになって地面に倒れ伏してしまう。本当にだらしない。
魔法に関しては、呪文を覚えたりするのも得意じゃないし、距離をとって戦うのも好きじゃない。
だから専ら身体強化の魔法や戦闘を想定して、相手との距離を詰めるのに必要な魔法を練習している。
基本的には遮蔽を作り出したり、煙幕や目眩しを生じさせたり、私から生まれる音を小さくする魔法などだ。
お兄様は基本的な魔力操作が上手で、大規模なものよりは基本的で詠唱の短い魔法の練習を繰り返している。
自分が魔法を使うときは対少人数であるだろうから、見栄えがして多数に向けて使えるが魔力消費の激しいものより、小回りが効くものをとっさに扱える様にした方がいいから、だそうだ。
お兄様はいつもよく考えて訓練をしている。
私は考えながら動くのは苦手だから、いつもお兄様や先生に指示を仰いで修練を積んでいる。今日行ったのもお兄様からのアドバイスを元にしたものだ。
クリスは悔しいことに魔法に関する才能は私より優れているから、お兄様と一緒に訓練を受けたり、生意気にも彼女固有の魔法――使役魔法を扱えるため、そちらの強化を行うための訓練を受けたりもしている。
しかし、時たま私のところにわざわざ来て、私ができないでいる魔法を私よりずっと上手に繰り出し、
「こうよ。なんでこんな初歩的なことも分からないのかしら?」
などと嫌味を言いに来る。今日も、聞いてもいないのにそれらの作用理論についてクドクドと偉そうに教鞭を垂れて来た。悔しかったので丸焦げにしてやろうかと思ったけど、今朝お父様に注意を受けたこともあったので、頭の上から水をかけてあげるだけで済ませた。
固有魔法と言えば、お兄様も使えるものがあるそうだけど、
「僕のは練習する必要がないからね」
と言うので、一度も見せてくれたことがない。私も固有魔法が使える様になったらお兄様も教えてくれるのかな。
訓練が終わった後はいつもクリスと水浴びをしてから昼ごはんを食べる。
訓練の後に2人で行水をするのは昔からの習慣だ。文句を言いそうなものだけど、意外にも
「1人ずつ入る理由がないわ。貴女が出るまで昼ご飯を待つなんて嫌よ。
それに、汗に濡れたまま待つのもまっぴらごめんよ。わざわざ時間をかけて2人別々に入って、お兄様たちをお待たせするのも申し訳ないわ」
と言い、大人しく私と2人で水を浴びている。加えて、訓練の時に負った傷の内下着の下にあったものなど、治し損ねてしまったものを
「目の前で生傷を付けてうろつかれると目障りよ」
などと言い、それらの傷を治療することもある。私としてもお兄様方を待たせたくはないし、お昼ご飯を早く食べられるに越したことはないから賛成だけれど、
これに乗じて何かしないかと目を光らせているため気疲れしてしまう。
お昼ごはんはロリスがお母様、お父様と食べたいと言ったため、お兄様・クリスの3人で食べた。
元々、昼食に関しては私達3人は毎日食べるけどお父様たちは食べないことも多いけど。
ご飯を食べた後はいつも通り、勉強の時間だ。上に立ち民を導く可能性がある者にとって勉学は義務であるとお父様が日がな言うので、私たちもそれに従い学問に勤しんでいる。
以前は静かに座って、ただ話を聞いたりするだけの勉強が好きでは無く、一応その時間は従順に席に座していたものの、話は何も聞いておらず終わり次第外に飛び出していた。
しかし、クリスに講義の内容について確認された時に何も答えられないでいると
「最近やったばかりの事を答えられないなんて、おバカね。頭も使わずただ聞いているだけの勉強に何の価値もないわ。
そんな事をするくらいなら、そこに生えてる木についてる葉っぱの数を調べる方がよほど有意義よ」
と授業の度に鼻で笑うので、いい加減我慢ならなくなりある程度真面目に受けることとなった。
最近ははベルクリン大陸の沿革と現在のマントーの置かれている状況について教わっている。
ここらへんに説明したい内容、マントーの状況について書いておきたい。
「あーー!つっかれた〜!今日も頑張った、頑張った!」
庭に出ていき、お腹から心から声を絞り出す。授業も首尾よく進み、自由時間を迎えた。
体の凝りを解しながら歩いていると、ベンチにクリスがゆったりと腰掛けているのを見かけた。
普段はメイドの手伝いをしてみたりお話をしたり、クリスと盤上ゲームや軽い模擬戦の様な事をするが、今日はメイド達は忙しそうにしているし、喧嘩は御法度と言われているため、庭にいる人達を横目に1人で散歩をすることにした。
その後も特に問題を起こす事なく過ごし、昼と同じ様に晩御飯を食べた。そこで、お兄様から陣痛が始まったと言う旨の話を聞いた。今夜から明朝までに生まれる予定との事だ。
「ねぇ、聞いていたでしょ、ついに生まれるのよ!」
「落ち着きなさい。私達に出来ることは迷惑をかけない事ぐらいよ。興奮していないで今日は早く寝ることね」
部屋に向かう道程で見慣れた金髪が居たので声をかけると、すげのない返事が返ってきた。
「何よ、良い子ぶっちゃって。つまらないのね、新しく弟が生まれるっていうのに嬉しく無いの?薄情ね」
「不躾ね。勿論気分は高揚しているわ、貴女ほどではないけれど。
覚えていないかもしれないけど、私はロリスが生まれた時に一度経験しているもの。
あと、まだ生まれる子が男の子とは決まっていないわ、気をつけなさい。女の子だとしてもどうこう言わないように」
「分かってるわよ、そんなこと!弟だったら一層嬉しいってだけよ、妹だったとしても嬉しいに決まってるじゃない!もういいわ、おやすみなさい!」
相変わらずいちいちうるさい事を言う。わくわくしていた気持ちもやや萎え、そっぽを向いてクリスを追い抜かし自室へズンズン進んで行く。
「クリスお嬢様も新しく生まれてくるお子様を気にして仰ったのだと思います。あまり…」
「分かってるわ。言われたことは尤もだし、私もそのことに怒ってるわけじゃない。
私がそんな事を分かってないと思って子供扱いしてることに怒ってるのよ!」
益々頭に血が上り、そのまま階段を登り自室へと駆け込む。
「もう、何よ。みんな私のことを軽く見て。
お兄様も今朝だって私がドジをしたと決めつけて!お父様だって、あんなに念押ししなくても私、良い子に出来るのに!クリスも私と1つしか違わないのに大人振って見下して!」
喚いてるうちに、熱くなって涙が溢れてくる。口では子供扱いするなと言っているのに、子供らしい行動・言動をしていることに気がつき、そんな自分が嫌で悔しくて涙が止まらなくなる。
「お嬢様、それは…」
「うるさい!ヨゥチィだって、さっき私を子供だと思って決めつけた!」
「お嬢様、皆様はお嬢様を…」
「うるさい!うるさい!言い訳なんて聞きたくない!私だってもう大人になったんだから!ポドフィンだって最近大人らしくなってきたって言ってたもん!」
「お嬢様!」
珍しくヨゥチィが大きな声を出し、こちらへ近づいて来て、手を上げた。叩かれると思い、ヨゥチィを睨み手を上げようとすると、その手を取りヨゥチィは私の隣へと座った。
「少し、落ち着きましょう。私と一緒に深呼吸して」
私の涙を拭き、鼻をかませてくれる。ハンカチはヨゥチィの匂いがした。小さい頃から嗅ぎなれた匂い。
ゆっくりと深呼吸をして呼吸を落ち着かせると心も落ち着いていき、涙も収まっていた。
「お嬢様はまだ7歳なんです。7歳はまだまだ子供です。子供なんですから、子供らしいのは当たり前です」
「でも、お兄様は私くらいの時にはもっと立派だったと聞いたわ!
私だってお兄様みたいに強くて、格好良くて、ヨゥチィみたいに落ち着いた大人の女の人になりたい」
「お褒め頂き恐悦です。ですが、ブラスティン様はブラスティン様、私は私です。比べたって仕方ありません。一足跳びに成長することなんて出来ないのですから、タキセルお嬢様は今できる事をして一歩ずつ大人になっていきましょう」
「でも、私どうすれば良いか分からないわ」
「私がいつもお伝えしているではありませんか。日々心がけることで、自然とそれらしい振る舞いな身につくものですよ」
ヨゥチィが「普段まるで聞いていないのですね」と苦笑する。その顔に申し訳ない気持ちになる。
だけど、それが難しいから苦労しているのだ。どうしたら良いものか。
「私はこれからもお嬢様が何か誤ったことをしたらお伝えします。お嬢様が大人になるお手伝いをさせて下さい」
気づけば、ヨゥチィの目にも涙が浮かんでいた。
「当たり前よ、これからもよろしくね!ヨゥチィ!」
ヨゥチィの胸に飛び込むと、先程より強く彼女の匂いが感じられた。
「お嬢様、大人は急に人に抱きついて匂いを嗅いだりはしないものですよ」
「いいのよ、私まだ子供だから!」
その後、自分はメイドの身分であるからダメだと断ろうとするヨゥチィを口説き落として、2人で一緒に寝た。
これで自分を子供と認められない子供な自分とおさらばだ。そう思うと妙に心が軽くなった気がした。
…………
明け方、館中に響き渡る泣き声に目を覚ました。音の出所は分かっていたので、ヨゥチィの胸の中から抜け出しお母様の部屋の前まで駆けて行った。その勢いのまま扉を開け放とうと手をかける――――前に立ち止まり、深呼吸し息を整えた。そしてノックしてから扉をゆっくりと開け、
「おはよう、タキセル。今日はやけに落ち着いているのね」
「そうかしら?お母様、私はいつも通りよ。おはようございますお父様、お母様。そして、私達の可愛い赤ちゃん」
出来るだけ優雅に挨拶をしたのだった。