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朔と美園

フローライト第八十九話

新学期が始まったある日、朔が学校を休んだ。美園はどうしたんだろうと家に帰宅してからラインをしてみた。


<大丈夫?体調悪いの?>


するといつもはすぐに既読がつくのに、今日はなかなかつかない。美園はだんだん気になってきて電話をかけてみた。すると電話にはすぐ出た。


「もしもし?」


「あ、朔?どうしたの?」


「どうしたのって?」


「今日、学校休んだでしょ?体調悪いの?」


「いや・・・絵を描いてたら朝になってて・・・」


「えー・・・そうなの?」


「うん・・・」


「で、休んだの?」


「うん、そう」


「今は何してたの?さっきラインしたんだよ」


そこで「えっ?」と朔が焦った声を出した。


「ごめん、気がつかなかった」


「いいよ。絵でも描いてたの?」


「そう・・・上手くいかない・・・」


「そうなんだ」


「美園のイメージが、描くほどバラバラになる・・・」


「そうなの?どういう風に?」


「つかみたいのにつかめないんだ・・・どうしたらいいんだろう・・・」


朔が悲しい声を出した。


「そういう時は一旦やめて、休んだ方がいいよ」


「そうかな・・・」


「そう。私も曲が作れない時とかね、休んだよ。まったく他の関係ないことをしたりするんだよ」


「・・・美園としたくて・・・そのことばっかりになっちゃってる・・・」


「そうなんだ・・・それはきついね」


「うん・・・」


「利成さんにでも話してみる?」


そう言うと朔が「えっ?!」と思いっきり驚いた声を出した。


「利成さんは男だし、そういうのわかってるんじゃないかな?」


「んー・・・」


「嫌?」


「嫌じゃないよ」


「じゃあ、そうしよう」


 


金曜日の夜、利成のところに朔を連れて行った。明希が笑顔で出迎えてくれる。


「朔君、こんばんは。おひさしぶりだね」


「はい、お久しぶりです」と朔が頭を下げている。


「利成は仕事部屋だよ。最近ずっとこもってるんだよね」と明希が言った。


二人で階段を上って利成の仕事部屋のドアを叩いた。


「利成さん」と美園が声をかけると「どうぞ」と利成がパソコンを見ながら答えた。


朔と二人でいつものソファに並んで座ると、すぐにドアがノックされて明希がコーヒーを三人分持ってきてくれた。


「ごゆっくり」と明希が笑顔で言って部屋から出て行くと、利成がこっちを向いた。


「何かあった?」と利成が言う。美園は朔が話があるからとだけ言っておいた。


「その・・・」と朔が言いにくそうにしている。


「朔が絵がなかなか描けないっていうか、何て言うの?」と美園は朔の方を見た。


「描けないっていうか・・・」と朔も考えている。


そんな朔を見ながら利成がコーヒーを一口飲んだ。


「描けないっていうか・・・その・・・別なことで頭がいっぱいで・・・」と戸惑っている感じで朔が言う。


「別なこととは?」と利成が聞く。


「その・・・」


「私とセックスがしたくて、そのことで頭がいっぱいなんだって」と美園がじれったくなって言った。


利成が少し驚いた風に美園を見た。


「美園は朔君とセックスをしたってこと?」


「そうだよ」と美園は普通に答えた。


朔が赤くなってうつむいている。利成は朔の方を見てから言った。


「なるほどね、それで絵が手につかないと・・・」


「はい・・・」と朔が小さな声で言った。


「それはまあ、深刻だね」と利成が表情も変えずにコーヒーにまた口をつけた。


「どうしたらいい?」と美園は利成に聞いた。


「そうだね・・・俺ならとことんやるけど・・・」


「何を?」


「セックスをだよ」


利成は平然と美園の顔を見る。


(あーやっぱり、こういうところが好きなんだよね)と美園は思う。こういう話題に変に笑ったり、茶化したり、ましてや咲良のように怒ったりがない利成のことが美園は好きなのだ。


「それじゃあ、私がもたないよ」と美園が言うと、「そうだね」と利成が今日来て初めて笑顔を見せた。


「朔君はどうしたい?」と利成が聞く。


「その・・・」と朔がチラッと美園の顔を見る。


「何よ?思ってることちゃんと遠慮なく言って」と美園は言った。


「したいです・・・」と朔が言うと利成が吹き出した。


「アハハ・・・そうだよね」と笑っている。


「だからーそれをどうするかって話しでしょ?私はやりまくるは無理だからね」と美園が言った。


「そうそう、そうだよね」と利成がまた笑った。


朔が困った顔で黙っている。


「そうだねぇ・・・」と利成が考えるような顔をした。


(利成さん、また楽しそうな顔を・・・)


真面目に考えるような顔をしているが、絶対楽しんでいるエネルギーを美園は感じた。


「美園はどう思う?」とこっちに振ってくる。


「したいならしてもいいけど・・・すればするほどしたくなるならしない方がいいかな?」


そう言ったら朔が焦った顔で美園を見た。


「うん、そういうのもあるかな?でも、美園。朔君、焦ってるようだよ?美園がもうしてくれないんじゃないかって」


美園が朔の方を見ると、朔がまた赤くなってうつむいた。利成がまた楽しそうな顔で朔を見ている。


「・・・俺がどうしたか教えようか?」と利成が言った。


朔がハッとしたような顔で利成を見る。


「さっきも言った通り、やりまくったんだよ」


「ちょっと、利成さん。利成さんはそれができたけど、朔は無理だよ」と美園は言った。


「何で?」と面白そうに利成が聞いてくる。


「まず、今のところ私しかいないんだから、その相手は私ということになるでしょ?私一人で朔の性欲を受け止めるの無理ってことと、実質する場所がない」


「場所?」


「そう。咲良がうるさいからうちは無理だし、朔の家も親がいるし・・・ホテルという手もあるけど、毎回はね」


「そうか、咲良はどううるさいの?」


「ビッチだって。晴翔さんと別れてすぐにまた違う人と自分の部屋で堂々とするなんて信じられなーい」


美園は咲良の口真似をした。


「アハハ・・・そうなんだ。晴翔ともしたの?」


「うん」と答えたら朔に顔を見られた。


「そうか・・・どうだった?」


「んー・・・どうなんだろう・・・」


「まあ、それは関係ないか」と利成が言ってからチラッと朔の方を見た。


(あーまたわざと?朔が気にしたのを見て・・・)


美園は奏空が利成のことを”タチ悪い”と言ったことを思い出す。


「例え場所があったとしても、確かに難しいね」と利成がまた考えるような顔をした。


「利成さんは一人の人とやりまくったの?」と美園は聞いた。それは利成には複数の女性がいたことを知っててわざとだ。


「一人の人ではないね」


「じゃあ、何人くらい?」


「んー・・・数えてないよ」


「数えきれないくらいだね」


「そうだね」と平然とまたコーヒーを飲んでいる。


朔が驚いた顔で利成を見ていたので「利成さんは生涯やり続ける男だよ」と美園は色んな意味をこめて言った。


すると利成がいきなり吹き出して、コーヒーにむせたらしく咳込んだ。


「あ、ごめん。大丈夫?」と美園も平然と言った。


「いや・・・美園は誰よりいい女に育ったね」と心底面白そうに利成が言った。


「そう?」


「うん」


「利成さんの娘だからね」と美園が言うと、今度は「えっ?」と朔が思いっきり驚いた顔をした。


「あ、そうだ。朔は知らなかったんだ」と美園は言ってから続けた。


「私は、咲良と利成さんの間にできた子なんだよ」


「えっ?どういうこと?」と理解できないでいる朔。


「つまり、咲良が利成さんとやっちゃったんだよ。それなのに人にはやるなって注意するんだから、心底バカだよ」と美園が言うと、まったくついて来れてない様子の朔が首を傾げた。


「美園、咲良の悪口はやめなよ」と利成まで奏空みたいなことを言う。


「もう!利成さんまで。奏空もそうだし、そんなに咲良がいいのかな?」


「咲良は今世のキーパーソンなんだよ」


「へぇ・・・咲良がね」


「まあ、それは置いて置こうか。朔君がまったく話についてこれてないからね」と利成が朔の方を見た。


朔はまだ解せないと言った風に首を傾げていた。


「さあ、どうしようか?」と利成が言う。完全に遊んでいる顔だ。


朔が困ったように顔を伏せた。


「まあ、そのまま描くしかないんじゃない?」と利成が言う。


「そのまま?」と朔が顔を上げた。


「そう、そのまま」


「・・・・・・」


「美園のイメージの抽象画だよね?そのまま描けばいいんじゃない?」


「そのまま・・・」と朔が考えている。


 


その日の帰り道、朔が「何とかやってみる」と言った。そして次の日から三日連続で朔が学校を休んだ。


(何やってるんだろ?)


一日目に休んだ時にラインをすると<明日は行くよ>とだけ返信が来た。けれど次の日もその次の日も来なかったのだ。美園はまた絵を描くのに集中してるのだろうと、ラインや電話はしていなかった。それでも三日もとなるとさすがに気になってくる。


明日は土日だから休みでいいだろうけど、あまりにのめり込み過ぎて学校のことを忘れたら困るだろう。


(親はどうしてるんだろう・・・)


朔の母親のことを思った。特に何か印象的というわけでもない、少なくとも咲良よりはずっとまともな母親のように見えた。父親については会ったこともなく、朔も何も言ったことはなかった。


土曜日まで待ってみたが、しびれを切らして美園は朔に電話をしてみた。


「もしもし?」と朔が電話に出る。


「朔?どうしたの?学校来ないでずっとやってるの?」


「うん、月曜日は行くよ」


「ほんと?」


「うん、親に注意されたから」


「そうでしょ?どうなったの?絵の方は」


「描けてるよ」


「どんな感じ?」


「んー・・・どんな感じ・・・」と朔が考えている。


「利成さんのアドバイスが効いた感じ?」


「うん・・・」


「そう?良かった」


「美園のおかげだよ。ありがとう」


「いいよ、そんなの。それより少し見に行ってもいい?」


「ダメ」といきなり朔が言う。


「何でよ?」


「・・・したくなっちゃう」


「すればいいじゃん」


「ダメだよ、しちゃったら壊れちゃう」


「何が?」


「絵・・・」


「意味わかんない」


「したい思いも全部そのままで描いてる」


「・・・・・・」


「だからしたら消えちゃう」


「ふうん・・・」


「出来たら教えるから」


「そう。わかった」


「うん」


通話を切ってからベッドの上に寝転び「あーあ、退屈」と美園は声を出して言った。


(朔といると退屈じゃなかったのに・・・)


─── したら消えちゃう・・・。


(意味わかんなーい)


 


その日の夜、奏空が帰宅してから聞いてみた。


「ねえ、したら消えちゃうって何だろう?」


いきなり言うと、「何の話し?」と奏空が言う。


「朔が今絵を描いてるんだけど、私とセックスしたら描けなくなるっていうの」


「どういう意味?」と奏空が首を傾げた。


「最初は性欲が邪魔で描けないって言ってたんだけど、利成さんに「そんまんま全部描けば?」ってアドバイス受けたら、今度はしたら消えちゃうから描けない、そのまんまを描いてるっていうんだよね」


「・・・つまり、朔君が絵を描いてるんだけど、最初は性欲で頭がいっぱいで描けないどうしようってなって、利成さんに相談したら、そういうのも全部描けばって言われてそのまんまを描いている、そしたら今度は美園としたら描けなくなるって言われたってこと?」


「そうそう、その通り」


「じゃあ、その通りじゃないの?」


「だから意味わかんないの」


「性欲もそのまんま描いたらって言われて、全部そのまんま描いてたら逆に上手くいって、むしろ今はその性欲がキャンバスにのっていい感じだから、性欲をそのまま維持したいとか?」


「おおーそれならわかる。ナイスだよ。奏空」と美園は嬉しくなった。


「何言ってんだか」と頭をポンと叩かれる。


それから「咲良に聞かれたらたいへ・・・」と奏空が言いかけたらいきなりリビングのドアが開いた。入浴してた咲良が濡れた髪にパジャマ姿でリビングに入ってきた。


「私に聞かれたら大変なことって?」と聞かれる。


奏空が気まずそうに「え?まあ・・・別に」とスマホを見始めた。


「ふうん・・・お二人は仲が良いこと」と言って咲良がキッチンの方に行った。奏空がその後姿を見て、さっきから笑いをこらえていた美園を横から小突いた。


「部屋戻ってな」と小声で言われる。


(へいへい)と立ち上がってリビングから出て、少しドアの前で中の様子をうかがってたら、「咲良、咲良が一番なんだからすねないで」と言う奏空の声が聞こえてきた。


(やれやれ・・・)とバカバカしくなって美園は部屋に戻った。


それからスマホを見てみたら、ラインが来ているのに気づいた。朔かなと思って開くと晴翔からだった。


<元気?>


美園はどうしようかと思ったが、朔が絵に夢中で時間を持て余していたので、<元気だよ>と返事をした。


<今は何してる?>


<何も>


<電話してもいい?>


<いいよ>


するとすぐ電話がかかってきた。


「もしもし?美園ちゃん。久しぶり」


「久しぶり」と美園も言った。やっぱりドキドキと少しときめく。


「元気だった?学校行ってる?」


「行ってるよ。晴翔さんは?」


「俺?俺は仕事行ってるよ」と晴翔が笑った。


「そうじゃなくて彼女とうまくいきそう?」


「彼女は別れたって教えたでしょ」


「でもより戻すって言ってたよね?」


「だからそれも戻らなかったって教えたでしょ?」


「そうだね。でも、戻したいでしょ?もう少し頑張ったらどうかな?」


「もういいよ」と晴翔が少し沈んだ声を出した。


「・・・・・・」


「それより美園ちゃんは?彼氏できた?」


「できたよ」


「え?そうなんだ。学校の子?」


「そう」


「そっか・・・ちょっと寂しいな」と晴翔が言う。


「私晴翔さんが好きだから、あのお正月の時行かなかったんだよ」


「お正月?あ、あの時?」


「そう。誘ってくれて嬉しかったんだけど・・・行ったらまた同じことになっちゃうと思って」


「同じことって?」


「元カノとまた戻る時がくるよ。その時私、晴翔さんのこと嫌いになっちゃう。それが嫌だったの」


「そうか・・・」


「子供の頃からずっと好きだったんだもん。嫌いになったら辛くなる」


「・・・そうか、でも、もう元カノと戻ることはないよ」


「そうかな?晴翔さんはまだ未練あるでしょ?戻れる可能性はゼロじゃないよ」


「んー・・・どうだろうね」


少しの間沈黙になる。美園はやっぱり晴翔が好きだなと思う反面、朔に惹かれている自分もいた。それに晴翔はやっぱり元カノに未練がありそうだ。前よりも冷静に相手のエネルギーを感じられるようになった美園にはわかった。


「俺、美園ちゃんがほんと好きなんだよ?」


「うん、ありがとう。私も晴翔さんが好きだよ。でも、晴翔さんは奏空みたく、みんなに光を届ける役目なんだよ。そのことに気がついてくれたら、元カノも戻って来るよ」


「光?」


「そう、奏空がアイドルになったのは、たくさんの人に光を届けたいからだって・・・。晴翔さんもその役目があるんだよ。元カノはきっとそのことがわからなくて今は離れちゃってるだけだよ」


「そうか・・・奏空が大昔、そんなこと言ってたかな・・・」


晴翔が考えているかのように少し沈黙した。


「私がもう少し大人になったらまた会ってね。でももしかしたらその時は晴翔さんの結婚式かな・・・」


「美園ちゃん・・・」と晴翔が少し黙ってからまた言った。


「美園ちゃんも、奏空と同じだね・・・すごく不思議で面白い・・・そしてすごく愛を感じるよ」


「愛?」


「うん、その光って言うかな?愛っていうか・・・」


「そう?私は光じゃなくて闇なんだけどね」と美園は笑った。


「彼氏と仲良くね」と晴翔は言って電話を切った。もし、晴翔のところに戻れば、朔を振ることになる。そうすれば朔は、奏空が前に言った通り”寂しさに弄ばれる”だろう。


それに今は朔が不思議で面白かった。


(弄んでるわけじゃないよね?)と自分に聞いてみる。


(あーわかんないかも・・・?)


美園はもう一度ラインを開いた。朔からのラインはない。


(もう!放っておくならやっぱり晴翔さんのところに行っちゃうから)とスマホをベッドから床に落とした。するといきなりスマホが鳴った。見ると朔からだった。


「もしもし?」と美園は身体をベッドの上に起こした。


「美園?」


「うん」


「会いたい・・・」


「私も会いたい」


「会おう」


「いつ?」


「明日」


「いいよ。そっちに行く?」


「うん、来て」


「わかった」


 


次の日朔の家に行くと、絵がほとんどできあがっていた。


「すごーい・・・」


今度のはかなり大きめなキャンバスに描かれていた。


「まさか、寝てないの?」


朔の眠そうな目を見て美園は言った。


「うん・・・まあ・・・」


「どのくらい?」


「五日くらい・・・一日、一、二時間うとうとしただけ・・・」


「もう、死んじゃうよ?」


「死なないよ・・・」と朔が抱きついてきた。それから「今日は親もいないし・・・大丈夫」と言う。


「でもしたら描けなくなっちゃうんでしょ?」


「ううん・・・もう、それも限界」と朔が口づけてきた。


美園もそれを受け止めて、そのまま二人はベッドの上に倒れこんだ。「美園」と名前を呼ばれながら、口の周りを舐め回される。朔の不器用な感じが美園は好きだった。


また執拗に太ももから足の付け根の辺りまで撫で上げられたあと、舌を這わせてくる朔。美園はじれったくなって自分から下着を取った。朔もズボンと下着を脱いで美園にまた口づけてくる。


しっかり反応している下半身をこすりつけてくるだけで、なかなか入れてくれないので「早く、入れて」とじれったさに耐えられなくなって美園は言った。


「ん・・・」と今度は朔が耳を舐めてくる。


「あ・・・」と声がでてしまう。


「美園・・・俺の名前呼んで」と朔が言う。どうやら初めての時に、美園が晴翔の名前を呼んでしまったことに朔はこだわっているらしかった。


「・・・朔・・・」と美園は呼んだ。


「もう一回」


「朔・・・」


「もう一回・・・」


「朔・・・もう、いいでしょ?許してよ」


「ん・・・」と朔が美園の中に入ってきた。


思いっきり激しくぶつかるようなセックスは、不器用だけれど美園は好きだった。それは優しくされるよりリアルを感じられるからだった。朔がブラジャーを押し上げ乳首を吸い上げてくる。


「あっ・・・」と美園は大きな声が出てしまった。


「美園・・・」と朔が何度も名前を呼びながら身体の奥を突いてくる。射精した時は、美園の服にまたかかってしまった。


「はぁ、はぁ」と息を整えながら朔がティッシュペーパーに手を伸ばしている。


「・・・やっぱりゴムがあった方がいいかも・・・」と美園は言った。


「ん・・・そうかな・・・」と朔が汚れたティッシュペーパーをゴミ箱に捨てた。


「そうだよ」


「じゃあ、今度はそうしよう」


「うん・・・」


 


二月に入ってようやく朔が絵が完成したと報告してきた。一か月くらいかかって、しかも寝ずに描いた今回の絵はかなりな大作になった。ただ今までとは違う抽象画なので、それをどれだけ評価してくれるのかは疑問だった。


大きめのキャンバスだったので、奏空が車で明希の店まで運んでくれると言った。朔の家に取りに行くと、朔の母親が驚いてかなり恐縮して頭を下げていた。


「あの子のわけわかんない絵を売ってくれるんですか?」と朔の母は解せないような顔をしていた。


店では明希が待っていてその絵を見て「わーすごいね。今までで一番だね」と感動していた。


その絵は一見ハチャメチャに見えながら、まるでそれすらも計算されているかのような不思議な感覚と、性的なものもかなり溢れていた。そしてやはり利成の絵のように、その絵の奥には深い影があった。


「売れるだろうか・・・」と朔が言った。


「売れるよ」と明希は言ったが、奏空は「この絵は理解して買うものじゃないね」と言った。


「どういう意味?」と美園は聞いた。


「インスピレーションってことだよ」


「・・・・・・」


奏空のいうことはよくわからなかったが、ただその絵から感じるエネルギーがものすごかったので、何となく美園にもその感覚はわかった。


絵を明希の店に預けて表に出ると「朔君、これから何も用事ないならうちにおいでよ」と奏空が言った。


「あ、はい・・・」と朔が言う。


マンションに着いたのは夜の六時だった。「ただいま」と奏空が咲良に抱きついているのを、朔が少し驚いた顔で見ていた。


「あれ?」と咲良が朔に気が付く。朔は「こんばんは」と頭を下げた。


「こんばんは。絵が完成したんだってね。おめでとう」と咲良が笑顔で言った。


「はい、ありがとうございます」と朔がドギマギしたように頭を下げていた。


「朔君もご飯食べて行きなよ」と咲良が言って、奏空も勧めるので朔は「すみません」と身を縮ませていた。


四人で食卓を囲んで、いつものように咲良がたわいもない話を奏空にしていたのを聞いていた。朔がご飯の茶碗を空にしたのに気づいた咲良が「お茶碗かして」と言い、おかわりとも何とも言ってもないのにご飯をまたよそって持って来た。朔が「ありがとうございます」と言って受けとっている。


「絵はどんな絵なの?」と咲良が急に朔に聞いた。


「あ、その・・・抽象画で・・・」


朔が言いにくそうに言っている。


「そうなんだ、利成みたいなやつ?」と咲良が美園の方を見た。


「そうだよ」と美園はぶっきらぼうに答えた。


「へぇ・・・今度明希さんの店に見に行こう」と咲良が言ったので、朔が少し嬉しそうな顔をした。


「朔君はいつ頃から絵を描いてたの?」と咲良が続けて言う。


「えーと・・・子供の頃から・・・」


「そうなんだ。油絵?」


「子供の頃は水彩で・・・。中学生くらいから油絵を描きました」


「へぇ・・・。独学なの?」


「はい」


「すごいね」と咲良が感心したように言う。


「絵を描くくらいしかやることなかったから・・・」と朔が言った。


「そっか~わかるよ。私もね、田舎にいた時はほんと何もやることもやりたいこともなくてね。だからたまたま見た演劇のオーディション受けたの。そしたら落ちて・・・何だか悔しくなってまた受けた」と咲良が笑った。咲良のそんな話は美園は初めてだった。


「それでどうしたんですか?」と朔が聞く。


「それでね、結局全部落ちたんだけど、その中にいた芸能事務所の社長さんがうちにおいでっていってくれて・・・それで高校出たらこっちにきたのよ」


「そうなんですか」


「うん。だから大丈夫。朔君は絵が描けるんだもの。私なんて演技も容姿も何もかも中途半端で、結局女優も売れなくなってやめたのよ」


「やめてどうしたんですか?」


「やめた頃、奏空と知り合ったんだよ」


「そうなんですか」と朔が奏空の方を見た。


「それですぐ結婚?」と美園が口を挟んだ。


「違うよ。私は結婚する気なんてなかったからね」


「じゃあ、何で結婚したのよ?」


「奏空がしつこかったんだよ。ね?」と咲良が奏空に同意を求めた。


今まで黙っていた奏空が「まあ、そうだね」と言った。


「ふうん・・・でも、その時奏空は高校生だったんでしょ?」


そう言うと朔が「えっ?!」と大きな声を出した。奏空がそんな朔を見て笑顔になる。


「そうなんだよ、朔君」と奏空が笑った。


「おまけにもうアイドルやってたし」と美園が続けると、朔がまた奏空の方を見る。


「そうだよ、アイドルはもう決まってたからね」


「アイドルで高校生の奏空が、田舎に帰るなってしつこかったんだよ」


咲良が立ち上がって食べ終わった食器をキッチンに持って行った。


「そうなんだよ。で、面倒だから俺んちに咲良を呼んだの」


「えっ?うちって・・・」と朔が聞く。


「うちって今の利成さんのところだよ」と美園が教えた。


「そうなんだ」と朔が美園の顔を見た。


「俺と咲良のことが週刊誌に載っちゃったから、面倒でうちに咲良を呼んじゃったんだよ」


「しかも、それ、利成さんのせいにしたんでしょ?」と美園が言う。


「そうだね。利成さんと咲良がってことにしちゃったね。アイドルやり始めたばかりだったから、俺が身動き取れなくて・・・あの時はやっぱりやめようかと思ったよ」


「アイドルを?」と美園が聞いた。


「そうだよ」


「咲良をやめれば良かったのに・・・」と美園が小さい声で言うと、お茶を入れた咲良がキッチンから戻ってきた。


「何か言った?」と言いながら、お茶の入った湯呑を朔の前に置いた。朔が「すみません」と頭を下げている。


「言っとくけど」と咲良が座りながら言った。


「奏空の話じゃ、親は子供の方が選んで生まれて来るらしいよ。ということは、美園がここにいるのは美園が選んだってことだよね?」


「そうだね。ああ、大失敗」と美園は言った。


「は?」と咲良が言うと「あー朔君?アニメも作れるんだって?」と奏空が慌てて話題を変えた。


「はい・・・」と朔が美園と咲良の顔を見比べながら言った。


「どんな感じのなの?」


「んー・・・適当です・・・」


「何よ、それ」と美園は朔の顔を見た。


「えーと・・・」と朔が困っている。


「今度見せてよ」と奏空が笑顔で言う。


「私の曲に合わせて作ってくれてるんだよね?」と美園は朔に言った。


「うん」と朔がうなずく。


「じゃあ、それ出来たら見せて」と奏空が言った。


「はい」と朔が答える。すると急に奏空が「あっ!」と言う。


「何?」と咲良が聞く。


「あれ、言うの忘れてた。美園、今度演奏会やるって」


「演奏会?」


「そう、ピアノで。利成さんと俺と美園で」


「は?聞いてない」


「だから今言った」


「何でそんなのやるの?」


「麻美さんの誕生日なんだよ。もう八十五歳だって。それで元気なうちに一度やりたいって」


「麻美さんと?」


「そう。麻美さんも一部だけ参加して。後、美園が歌って欲しいって」


「は?何で私。プロが二人もいるじゃない」


「英語で歌って欲しいんだってよ」


「英語なら奏空もできるじゃん」


「そうだけど、いいじゃん」


「もう・・・面倒・・・」


美園が不貞腐れていると朔が「美園、英語での歌、うまかったよ」と言った。英語の歌はユーチューブにいくつかアップしていた。


「そうだ、朔君もおいでよ。内輪でってことだけど、きっとまた麻美さんのことだから話が大きくなるよ」


「え?俺も?」と朔が驚いて言う。


「うん」と奏空が笑顔で言う。


「ねえ・・・それって練習ってやつ必要だよね?」と美園は言った。


「そうだね」と奏空が言う。


「面倒だな・・・」


「美園、最近何もやってないから退屈なんだよ。いい機会だからやってみな」


奏空はそう言ってお茶を一口飲んだ。


「美園、やって」と朔がいきなり言う。


「んー・・・」と美園が言うと「朔君も美園の歌聴きたいでしょ?」と奏空が言った。


「はい」と朔がはりきっている。


「美園、あんたの歌だっていけてるよ」と咲良まで言う。


「はぁ・・・わかった」と美園が答えると、奏空が「よし、決まり」と言った。


 


食事が終り朔と二人で美園の部屋に行った。美園はベッドにどさっと座ってから身体を横たえた。


「あー・・・演奏会なんて・・・」と美園が言うと「楽しみだ」と朔が嬉しそうに言う。


「あー朔は聴くだけだからね」


「うん・・・」


「まあ、いいわ」と美園は起き上がった。


「アニメ、見せて」


「まだできてない」


「そうなの?じゃあ、途中まででいいから見せて」


「できてから見せるよ」


「えー・・・ケチ」とまたベッドに身体を横たえた。


朔がちかづいてきて美園の足に手を伸ばした。そしてそれから撫でてくる。


「朔って不思議だね」と美園は言った。


「不思議?」


「うん、一緒にいると退屈じゃないんだよ」


「退屈なの?」


「そう・・・退屈。生きることが」


「生きることが?」


「うん・・・」


朔が唇を近づけてきて美園の唇を覆った。ひとしきり口づけてから朔が言う。


「俺は、美園がいるから幸せになった・・・」


「私がいるから?じゃあ、いなくなったら不幸になるよ?」


「いなくなるの?」と不安そうに朔が聞いてくる。


「ならないけど・・・朔は?いなくならない?」


「ならない」と朔が口づけてから美園の身体を上から包むように抱きしめてきた。


「幸せは条件がつくもんじゃないからね」と美園は朔の背中を抱きしめた。


「うん・・・でも、美園がいないと・・・」


「いないと?」


「いないと・・・死ぬよ・・・」


「そうなの?それは困ったね」と美園は言った。


すると朔が身体を離して上から美園の顔を見つめてきた。


「困る?俺がいると」


「そうじゃないよ。私がいないと死ぬんじゃ困るって話し」


「・・・美園がいないと・・・」


「うん・・・」


「・・・・・・」


朔が辛そうな顔をした。


「ごめん、大丈夫。一緒にいるよ」と美園が言うと、朔がホッとしたような顔をした。それから朔の手がまた美園の足を撫でてきた。


「あの朔の絵、結局いくらにしたの?」


今回は値段をまだ聞いてなかった。


「二万って言ったら、三万にしたらって明希さんに言われた」


「そう。じゃあ、二万から三万の間ってことだね」


「うん」


「売れたらいくら朔に入るの?」


「今回は一割引いた分は俺にくれるって・・・」


「そう。じゃあ、この先は?」


「この先はまだ決まってないよ。売れたらだから・・・」


「売れるよ」


美園が言うと「売れたらいいけど・・・」と朔が自信なさそうに言った。


「私、朔の絵好きだよ」


美園は朔の顔を見つめた。


「ほんとに?」と朔が嬉しそうに言う。


「うん」


「嬉しい」と朔が笑顔で言ってから口づけてくる。


朔の絵は激しくて静かだ・・・気がついているのだろうか・・・。どこか利成に似た絵を描くってことを・・・。そしてそれはけして利成の真似をしているわけではないってことを・・・・・・。

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