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08 グランパとの再会

          ♡



「グランパ!」


 10年ぶりに祖父と再会した。グランパは全然変わらない。輝夜は大変身だろう。よく一目で分かったものだ。


「会いたかったぞ!我が孫よ!」


 ぎゅうぎゅうと痛いくらいに抱きしめられた。喜びの涙を拭き、彼女は祖父を殿下方に紹介した。


「グランパ、こちらは第一王子のアスラン殿下。王城での仕事を紹介してくださったの。そちらが第二王子のイシドール殿下と、第三王子のクラウス殿下よ」


「…ローズから話は聞いている。孫が世話になったようだ。礼を言う」


 グランパはアスラン殿下の右手を握った。ミシミシと音がする。輝夜は慌てて止めた。


「もう!グランパ!力入れ過ぎ!」


「人族にしては、なかなか出来るようだ。輝夜が欲しくば、私を倒してみよ」


 パパを威圧する時みたいに、怖い顔でメンチを切っている。ほとんどヤクザだ。


「違うってば!失礼だから!」


 今度はグランパの手の骨が軋む。二人は額をくっつけんばかりに近づけ、睨み合った。


「良い面構えだ。では手合わせといこう。ーールナニア王よ。何処なら壊して良い?」


 全然気が付かなかったけど、後ろに王様らしき中年の男性がいた。王様は青い顔で言った。


「獅子宮なら…」


「よし。行くぞ輝夜。アスラン王子」


 次の瞬間、輝夜は真っ暗な荒れ庭に立っていた。先ほどまで豪華な金牛宮にいたのに。広い庭では、何かが高速でぶつかっては火花を散らしていた。


「何これ? ワープ?」


「瞬間移動ですよ。輝夜様。お茶をどうぞ」


 彼女の独り言に、グランパの執事長が答えた。いつの間にか、庭に面したベランダにテーブルが出されている。魔法の明かりが、ティーセットを照らしていた。


「お久しぶり!セバスさん!」


「はい。大きくなりましたね。輝夜様」


 金髪碧眼の美形執事は、温かいお茶を淹れてくれた。果物たっぷりのケーキもある。


「凄い!これも魔法?」


「そうですよ。沢山、お召し上がりください」


 輝夜は座ってお茶を楽しみながら、二人の戦いを見物した。よく見えるよう、執事が庭全体を照らしてくれた。パパとグランパの喧嘩を思い出す。あれより、互角に見えた。セバスさんも同意した。


「いやあ。お強い。エルフでも、陛下以外では勝てないでしょうね」


 彼女のいるベランダは、バリヤーみたいなので守られているが、庭と宮殿は、どんどん破壊されていく。アスラン殿下がお住まいなのに。どうして王様は壊して良いなんて言ったんだろう。別の新しい宮殿をくれるつもりだったのかな。


 疑問に思いつつ、15分も見ていたら、飽きた。それに気づいた執事が、彼女に尋ねた。


「輝夜様。では判定を」


「引き分けで」


「陛下!引き分けです!」


 セバスさんは拡声器みたいな道具で、グランパに伝えた。戦い終えた二人は、ベランダに歩いてきた。殿下は全身傷だらけだ。輝夜は駆け寄った。


「大丈夫ですか?」


「ああ。すぐ治る」


 殿下の言う通り、傷は見る間に塞がる。だが、破けた服と壊れた宮殿はどうしようもない。輝夜は祖父に文句を言った。


「何でいきなり喧嘩売るの? 殿下の服も、お住まいも、ダメになっちゃったじゃない!」


 祖父は怪我もしておらず、服は無事だ。孫の抗議に、目をパチパチさせ、


「修復魔法で直せば良いだろう。何? 知らんのか? 仕方がない。よく見ておけ」


 何かの魔法を使ったらしい。ナイター照明の元、荒れ果てた庭は映像を巻き戻すように、その姿を整えた。宮殿も、蔦が消え、大理石とガラスが輝きを取り戻した。じゃあ、中も新しくなったんだ。輝夜は、急いで部屋に入った。


 埃だらけの壊れた家具は一掃され、豪華な居間が復活している。


「きゃーっ!素敵!ありがとう、グランパ!」


 祖父は抱きつく孫の頭を撫でた。そしてアスラン殿下に言った。


「やってみろ。お前の魔力量なら出来るはずだ」


「はい」


 殿下の破けた夜会服も、土埃だらけの鬣も、すっかり元に戻った。グランパは無人の宮を見回した。


「何だ。召使いも居ないではないか」


 孫は勤め先の内情を漏らした。


「意外と財政難みたいなの」


「ではゴーレムを作れ。それも知らない? 人族は遅れとるな」


 また新たな魔法で、大量のゴツゴツした土人形が生まれた。人間大だが、じっとしたまま動かない。


「動かないよ?」


 輝夜が訊くと、セバスさんが説明してくれた。


「周囲の情報を集めているんです。どんな姿が適切なのか、主人を快適にするには何が必要なのか」


 学習を終えた土人形は、あっという間に、メイドや執事、その他専門職の召使い達になった。


「お帰りなさいませ。アスラン殿下」


 彼らは一糸乱れぬ動きで頭を下げた。顔も同じ。身長も揃っている。ちょっと人工的で気味が悪い。


「それは仕方ない。今は私の魔力で動かしているからだ。王子、作り方は分かったな?」


「…はい!ありがとうございます。素晴らしい魔法を教えていただいて」


 殿下は嬉しそうに礼を言った。ゴーレム達はそれぞれの仕事をしに散った。セバスさんが思い出したように進言する。


「陛下。そろそろ、夜会に戻ったほうが良いのでは?」


「面倒だな。どうせ明日から、あのむさ苦しい面々と会議ではないか。王子も出るのだろう?」


「会議ですか? いえ、私は…」


 それを聞いたグランパは顔を顰めた。ケガレ対策の国際会議だっけ。王太后様がそんな話をしていた。


「セバス!ルナニア側に、アスラン王子を追加だ。それと、我々の宿舎をここに変えさせろ。夜は魔法の稽古をつけてやる。嬉しいだろう? 涙を流して感謝しろ」


「昼も夜も拘束して、輝夜様と会わせないおつもりですね。さすが我が君。悪知恵がお働きになる」


 執事は、傲慢な主人を褒め称えた。


「人族の召使いが気持ち悪いだけだ。凝視しおって。妻を連れて来なくて良かった」


「グランマは来てないんだ…。会いたかったな」


 しょんぼりとする孫を励ますように、グランパは抱きしめてくれた。


「すまんな。女子供は攫われやすいんだ」


「ママは? 里にいるじゃない」


「ローズは強い。認識阻害も使える。忌々しいが、あのオーガ野郎が守っている」


「あの、姿がぼんやりする魔法ね。…いけない。もう戻ろうよ」


 夜の9時を知らせる鐘が聞こえたので、輝夜は祖父を急かした。いつの間にかセバスさんは消えている。3人は瞬間移動とやらでまた金牛宮に戻った。


「会議に参加する奴らを紹介する。覚えておけ」


 グランパは殿下と輝夜を連れて会場を回った。人族の、外国の王様ばかりだった。皆、アスラン殿下の姿を見て、目を白黒させていたが、普通に挨拶をすれば、ホッとしたように返してくれる。輝夜も覚えたての挨拶を繰り返した。


「エルフ王女の輝夜だ」


 と、グランパが言いまくるので、そういうことにしておいた。だがこれが、騒動の元になってしまったのである。


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