表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

7/27

07 夜会

          ♡



 ある日、輝夜は王太后様に呼び出された。出張ラテアートかと思い、支度をしていったが、違った。今夜開かれる夜会で、アスラン殿下のパートナーを勤めて欲しいと言われたのだ。


「ええ? でも踊れませんよ。私」


 戸惑う輝夜に、王太后様は説明した。


「舞踏会じゃないわ。最近、ケガレが多いでしょ? 人種を越えて協力すべきだと、大きな会議が開かれる予定なの。それに出席する各国の要人を歓迎する夜会よ」


 なぜか、そのまま大きな浴場に連れて行かれる。まだ一言も引き受けるとは言っていないのだが、断れない雰囲気だった。


「ときに貴女、エルフ語はできる?」


「できます」


「良かった。じゃあ、後はよろしくね」


 王太后様は、エステ長(?)の女性に輝夜を預けると、出ていった。その後、5人がかりで頭の先からつま先までを磨かれ、全てが終わった頃には日が暮れていた。



          ◆



 今夜は夜会だ。アスラン王子は、嫌々、宝瓶宮に行った。用意された夜会用の服に着替えて、祖母の元に行くと、ドレスを着た輝夜嬢がいた。彼は丸い目をますます丸くした。化粧をしているので、いつもより大人びている。というか、絶世の美人になっている。


「もしや、パートナーとは…」


 恐る恐る尋ねたら、祖母は満足そうな顔で頷いた。


「とりあえず、挨拶の仕方だけ教えました。なるべく側にいなさい。思ったより、虫が寄りそうですから」


「王太后様ったら。酷いです。だから髪に生花を編み込むのは、やめましょうって言ったのに」


 輝夜嬢は頬を膨らませて抗議した。いや、そういう意味じゃないだろ。


「アスラン殿下。ご迷惑かけると思いますが、よろしくお願いします」


 白鳥のような首が、彼に向かって下げられる。断ろうと思っていた固い決意は、あっけなく崩れ去った。アスランは無言で手を差し出した。彼女は何の迷いもなく華奢な手を乗せる。二人は馬車で夜会が行われる金牛宮に向かった。夢を見ている心地だった。



          ♡



 夜会の会場は豪華なドレスで満ち溢れていた。その中を、殿下の腕に縋りながら歩く。裾を踏まないよう、細心の注意が要る。輝夜達は大広間の上座らしい位置に案内された。そこには、キラキラした衣装を着た2人の青年と、その連れ風の美人らがいた。


「お久しぶりです。イシドール殿下、クラウス殿下」


 と、アスラン殿下が頭を下げて言ったので、王子だと分かった。


「陛下の護衛として参りました。何卒、ご容赦を」


 容赦? 何を? さっぱり意味がわからなかったが、貴族の隠語だと思い、輝夜も腰を落とす礼を取った。王子らは彼女を穴の開くほど見つめ、令嬢らは睨んだ。


「その令嬢は?」


 イシドール殿下と呼ばれた黒髪の青年が、厳しい声で尋ねた。


「王太后様が預かっている郷士の娘です。茶寮で行儀見習いをしております」


 アスラン王子は淡々と答えた。ただの奉公が盛りに盛られている。すると、それを聞いた令嬢Aが訊いてきた。


「平民なのね。お似合いですわ。お名前は? お父上の名は?」


「輝夜です。父は次郎丸です。貴女方は?」


 武士の名乗り合いみたい。輝夜は、礼儀として相手の名も尋ねた。


「財務大臣リッチマン侯爵の娘、イライザですわ」


「同じく財務大臣リッチマン侯爵の娘、ジャンヌよ」


 よく似た美人姉妹は自慢げに自己紹介をした。『お似合い』だと言ってくれたから、いい人かも。輝夜はニッコリと笑って言った。


「こちらでは、父親の職業から名乗るんですね。知りませんでした。ありがとうございます。勉強になりました」


「ぷっ!」


 クラウス殿下が吹き出した。イライザ・ジャンヌ姉妹は扇を握りしめ、怒りの形相で「ごめんあそばせ!」と言って、どこかにいってしまった。輝夜は混乱した。


(あれ? 王子達のパートナーじゃないの?)


「気にしなくていい。勝手についてきただけだから。私はイシドール。第二王子だ」


 神経質そうな、黒髪男子が言った。


「本当、迷惑なんだ。僕はクラウス。第三王子だよ。よろしくね」


 こちらはプラチナブロンドの優男だ。輝夜も正式な自己紹介をしてみた。


「竹取のオーガ、次郎丸の娘、輝夜です」


「輝夜嬢。名前だけで良い」


 アスラン殿下がそっと訂正する。


「え? どっちなんですか? そういえば、殿下は何番目なんですか?」


「第一、王子だ」


 殿下は言いにくそうに仰った。何か事情があるらしい。ついでに気になっていた事も訊いた。


「ちなみに、おいくつなんですか?」


「…35」


「へえっ!お若く見えますね!」


 クラウス王子が、また吹き出した。口を押さえて笑いを堪えている。イシドール王子は眉間にシワを寄せて、渋い顔をしている。何か間違えたらしい。貴族の会話は難しいな…と思っていたら、ラッパの音が鳴り響いた。いよいよ、王様と貴賓達の登場だ。輝夜は大扉に注目した。



          ◆



 予め、アスランの宮廷での地位を教えておくべきだった。弟に敬語を使う第一王子に、疑問を持っただろう。しかし、リッチマン姉妹の嫌味もどこ吹く風、飄々とやり返す態度に、アスランも吹き出しそうだった。


 『お若く見える』ーー獅子頭のどこに歳を感じるのか。悩んでいたその時、出御の合図に、皆が姿勢を正した。アスランも軽く頭を下げた。最初の貴賓は、エルフ王だ。


「エルフ国・国王、ガブリエル陛下!」


 ハッと、輝夜嬢が身を固くしたのを感じた。彼女を見ると、大きな目を見開いて、エルフの王を見つめている。


「…」


 抜群の美しさを誇る亜人。その王は老いを知らず、豊かな金の長髪に、サファイヤの如き瞳を持つ。優美な衣装を纏い、真紅の絨毯を堂々と歩く姿を、この場にいる全ての女性が凝視している。それほどの美貌だ。彼女が惹かれても、不思議ではない。


(やはり…)


 失望に似た痛みが走る。


「!」


 エルフの王が、ぴたりと足を止めた。じっと輝夜嬢を見つめる。アスランは思わず目を逸らした。彼女は、美貌の王に見そめられたのだ。痛みはますます強くなった。しかし、


「輝夜!!」


「グランパ!!」


 と言って、二人は抱き合った。『え? グランパ? どういうこと?』その場にいた全員が、同じ疑問を持ったのだった。


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ