表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

4/27

04 巣立ちの時

          ♡



 目が覚めると、輝夜はテントの簡易ベッドに寝かされていた。まだ夜中だった。


「起きた? 輝夜ちゃん」


 母が食事の乗ったトレーを持って入ってきた。


「ママ!」


 ひとしきり再会を喜び合った後、母に訊いた。


「ここどこ? ライオンさんは?」


「山の中の陣地よ。あの方はアスラン王子っていうの。驚いたわよ。輝夜ちゃんを背負って現れるんだもの」


 あの人の鬣にしがみついて眠ったまま、ここに運ばれたらしい。じわじわと恥ずかしさが込み上げてきた。とんだご無礼をしてしまった。後で謝らないと。


「仕方ないわ。ケガレが同時に複数箇所に出たんですもの。無事で良かった」


「皆で塩をぶつけたら、溶けて消えたの。でも、巨大黒西瓜の分が残ってなくて」


「え?」


 母も塩の効能を知らなかった。ケガレを倒すには、中心にある核を壊すか、聖水をぶっかけるしかない、というのが今までの常識だったそうだ。


「凄いわ、輝夜ちゃん!早速、試してみましょう。ご飯でも食べて待ってて」


 母はテントを出ていったが、1時間もしないうちに戻ってきた。父とアスラン王子も一緒だった。輝夜は慌てて頭を下げた。


「大変失礼しました!アスラン殿下!」


「いや。それより、確かに塩が有効だった。よく見つけてくれたな。輝夜嬢」


 お咎め無しのようだ。それどころか褒められた。両親も頭を撫でてくれる。嬉しくて、笑みが溢れた。すると、アスラン王子は「塩の手配をしてくる」と言って、急ぎ足で出ていった。親子は暫しの休憩を取った。


「良い人だね。殿下。どこの王子なの?」


 お茶を飲みながら尋ねると、母が教えてくれた。


「人族よ」


「え? 獣人じゃないの?」


「何か事情があるんだろ。よく知らないが、強いぞ。大型ケガレを一撃で真っ二つにしてたからな」


 父は王子を買っていた。オーガは強さが重要なのだ。その後、両親はすぐに戦場に戻った。


 夜が明けて、ケガレ討伐が完了したと発表があった。



           ♡



 勝利の宴の前に、論功行賞が行われ、両親には討伐数に応じた報奨金が与えられた。


「塩の効能の発見は大きかった。輝夜嬢にも褒美を取らす。希望はあるか?」


 と、アスラン王子に訊かれたので、彼女はすかさず頼んだ。


「奉公先を紹介してください!」


 人族のコネを得る、絶好の機会だ。王子なら様々なところに伝手があるに違いない。殿下は頷いた。


「分かった」


 宴の後、一家のテントに紹介状が届けられた。王城内の『茶寮』という部署だ。使いの人が、良ければこのまま、一緒に王都に行かないかと言う。輝夜は了承した。


「えー。里に戻らないの?」


 母は不満げだった。


「だって荷物も無くしちゃったし。支度金くれるって言うから。向こうで買おうかなと思って」


 急な親離れになってしまうが、今回のことで、輝夜は悟った。これ以上、両親の足枷になってはならない。彼女は改めて父母に礼を言った。


「長い間、お世話になりました。竹の中から見つけ、慈しんでいただいた事、生涯忘れません。どうかお元気で…」


 多分、両親の方が長生きする。輝夜を育てた15年など、須臾の間であろう。だからこそ、早く独り立ちをして、立派な姿を見せてあげたかった。


「輝夜…」


「輝夜ちゃん…」


 親子は最後の一夜を、川の字になって眠った。翌朝、輝夜は王子一行に混ざって王都に出発した。



          ♡



 馬車に揺られて三日の後。ルナニア王国の王都に着いた。亜人の里は和風だったが、こちらは西洋風の街並みだ。王城とは、多くの宮殿群の総称だった。王様の住まうのが金牛宮で、隣は王妃様の白羊宮。どれも最大で3階建て。横に広い。アスラン王子は、そのまんま、獅子宮だそうだ。


「ここが茶寮のある双魚宮。住まいは裏手の別棟よ」


 メイド長が輝夜を案内してくれる。茶寮は、王城に出入りする貴族や官僚、外部の商人などがお茶を飲む所だった。要するにティールームだ。元がカフェの店員だったので、接客業には自信がある。


 今は営業時間外なので、店内と厨房、バックヤードなどを見せてもらった。軽食やスイーツを作る料理人に挨拶をしてから、メイドの人達に紹介された。


「今日から入る輝夜さんよ。良く教えてあげてね」


「よろしくお願いします!」


 輝夜は元気よく挨拶した。メイド長は桃色の髪の美人に言った。


「とりあえず、ヴィクトリア。指導してやって」


「はい」


 ヴィクトリア先輩はまず、輝夜をお客様用のトイレに連れていき、


「徹底的に綺麗にしてね。道具? その辺にあるでしょ。それが終わったら、全てのドアノブを磨くの。開店までに終わらせて。接客はまた今度、教えるわ」


 と言って、去った。新人はピンときた。


(教育するつもりないな。これ)


 案の定、掃除を終えてヴィクトリア先輩に指示を仰ぐと、「待機してて」の一言だった。


(じゃあ、勝手に学ばせていただきます)


 客席から見えない衝立の奥で、ひたすらメモを取った。先輩達の言葉遣い、テーブル番号、厨房への依頼の仕方、食器のセットの仕方、下げるタイミング。どうやら身分で通す席が違うようだった。


 1週間ほど観察を続けるうちに、常連の顔と席、好みのメニューは全て覚えた。だが、先輩は相変わらず待機を命じる。暇なので、掃除や厨房の手伝いなどをしていた。



          ♡



 数日経ったある日、急に先輩が接客を命じてきた。


「5卓の注文を訊いてきて」


 既にお席にはご案内済だった。厄介なお客様かな?と思ったが、上品な高齢の貴婦人だった。輝夜は普通に尋ねた。


「ご注文はお決まりでしょうか?」


「お勧めのコーヒーを」


「お好みを伺ってもよろしいですか?」


「ミルクをたっぷり入れて。楽しい気分になるようなのを」


「かしこまりました」


 では無難なカフェオレだね。輝夜はカウンターにオーダーを伝えた。しかし、コーヒー係は青い顔で首を振った。


「あの方は王太后様だ。いつも同じ注文をする。でも、カフェオレじゃダメなんだよ。それで、いつも誰かがクビになるんだ!」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ