表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

27/27

27 終話・ずっとあなたが好きでした

お読みくださり、ありがとうございました!

          ♡



 最近のアスラン殿下は変だ。大泣き事件を、まだ怒ってるとか。いやいや。殿下に限ってそんな事は。


(ないと思うんだけど…。でも式の話、全然聞いてくれないし)


 輝夜は衣装のデザイン画を描いていたが、夕食の時のすれ違いが気になって、筆が進まない。


(まさか他に女が?!あり得る!人気急上昇だし!)


 もうダメだ。婚約破棄だ。泣いて縋ろうか。最悪、側妃でも良いか。あ、グランパが激怒するなーー彼女は鉛筆を置いて、ベッドに潜り込んだ。明日、イライザ達に相談しよう。そうしよう。


 朝が来れば、良い事がある。太陽のような殿下だって、曇る時もあるよね。明日は晴れてほしい…そう願いながら眠りに落ちた。



          ◆



 アスランは湯浴みを済ませ、爪を切っていた。嫌な雰囲気の夕食を思い出しては後悔した。全てアスランが悪い。いい歳をして、情けない。


(もう寝てしまったかな)


 ベランダから輝夜の部屋の方を見ると、灯りが消えている。婚約者とはいえ、こんな時間に訪れるのは非常識だ。しかし、我慢ができずに、彼女の寝室に瞬間移動してしまった。


 暗闇の中、ぼんやりと輝夜の肌が光っている。エルフ王が色々試したが、結局、この光は消せなかったのだ。


 その白い頬に涙が流れた。アスランは思わず、彼女の頭に手を置き、読心の魔法を発動した。



          ◆



 また暗闇に少女がいた。ズタズタに切られた絵を、細い透明な帯で貼り合わせている。唇を噛み締め、目には涙を浮かべている。アスランは(たま)らず声をかけた。


「おいで。直してやる」


 すると、黒い瞳がこちらを向いた。


「アスラン!」


 驚いた。ここは記憶の中だ。言葉が交わせるはずがない。しかも二人が出会う、ずっと前だ。なぜアスランの名前を知っている? 


 少女は駆け寄ってきて、貼り合わせた絵の裏面を差し出した。


「ごめんなさい。破かれちゃった」


「大丈夫だよ。どれ」


 修復の魔法で、あっという間に破れ目は消えた。アスランは何気なく表面に返した。


「!?」


 あまりの衝撃に、全身が震えた。獅子の頭が描かれていたのだ。絵の下に白い紙が付けられ、『私の大好きな人ーーアスラン』と書かれている。文字は読めなくとも、意味ははっきりと分かった。


(どうして…)


「ありがとう!ありがとう、アスラン!」


 少女は喜んだ。しかし、彼が膝をつき、小さな体を抱きしめると、鬣に顔を埋めて泣きじゃくった。


「アスラン!早く迎えに来て。ここは嫌。そっちに行きたいよ!」


 それは自ら命を断つという意味か。張り裂けそうな痛みを(こら)え、言いきかせた。


「ダメだ。大人になるまで、耐えてくれ。必ず、会える」


「本当?」


「約束するよ。大人になったら、結婚しよう。輝夜」


 少女はぴたりと泣き止んだ。小さな小指を差し出してくる。意図が分からず戸惑っていたら、彼女はアスランの手を取って小指同士を絡めた。


「ゆびきりげんまん…待ってて。アスラン」


「待ってるよ。俺の花嫁」


 少女は儚い笑顔を残して消えた。輝夜が目覚めようとしている。アスランは魔法を打ち切った。



          ◆



 元の暗い寝室に戻る。机の上に数枚のデザイン画が置いてあった。アスランはそれを手に取った。あの絵のまま、獅子頭がやたらと凛々しく描かれ、こちらは花婿衣装を着ている。


 今のは本当に輝夜の記憶か。それにしては、少女の体温が生々しく手に残っている。もしや、時を超えて、小さな彼女と会ったのではないだろうか?


「殿下?」


 目覚めた輝夜がアスランに気づいた。彼はハッとした。不法侵入だ。痴漢だ。


「ごめん。勝手に入って。怖い夢を見ていたようだから」


 慌てて言い訳をして、去ろうとした。だが彼女は素早くベッドから下りると、抱きついてきた。可哀想に、まだ夢の中にいるのだろう。アスランは優しく黒髪を撫でた。


「大丈夫。夢だよ。さあ、もう一度お休み」


 青い瞳が不思議そうに見上げる。


「夜這いじゃないんですか?」


「え?」


「違うの?」


 微妙な間の後、輝夜はまた鬣に顔を埋めた。何度促しても、頑として顔を上げなかった。



          ♡



 恥ずかしい。『大丈夫。そんな事で嫌いにならない』と10回以上言ってもらって、ようやく輝夜は顔を上げた。


「すみません…」


「俺が悪い。夕食の時も、ぼんやりして、ごめん」


 ベッドに並んで座り、殿下は謝った。だが、まだ新しい女の影が拭えない。輝夜は直球で尋ねた。


「婚約、止めたいんですか? 他に好きな人がいるんですか?」


「まさか!どうしてそんな」


「だって、全然嬉しそうじゃないんですもの。きっと美人でメ…」


 メリハリボディのセクシー令嬢が、と言いかけた彼女の唇を、チクチクする口が奪った。頭がぼうっとする。輝夜は目を閉じて鬣をグイっと引き寄せた。


「ちょ、ちょっと待て!」


 殿下の焦ったような声で目を開けると、全身獅子形になっていた。あれ? キスすると変身するんだっけ? 輝夜は目をパチパチさせた。


「乗って。夜風に当たろう」


 殿下は床に伏せ、夜のデートに誘ってくれた。彼女は大喜びでライオンの背中に乗った。



          ◆



 変化は魔王戦以来だった。あの時は夢中で、楽しむ余裕など無かったが、今夜は違う。アスランは隣の処女宮の上を飛んだ。


「あ。クラウス殿下とジャンヌがいます!」


 輝夜の声で下を見ると、庭で楽人に音楽を奏でさせ、寄り添う二人がいた。良い雰囲気だ。アスランは庭の上空を一周した。輝夜はキラキラと光る粒子を撒いた。


 ジャンヌがこちらに気づいて手を振った。クラウスは物凄く驚いている。そういえば、初めて変化を見せた。


「お休み!また明日ね!」


 更に隣の天蠍宮に行く。こちらでは、イシドールとイライザが剣の訓練をしていた。光を降らせたら、やはり弟は目を見開いていた。二人への挨拶が済むと、アスランはいよいよ速く、高く舞い上がった。


「きゃーっ!楽しいーっ!」


 婚約者は大喜びだ。アスランはそのまま東の海まで駆けた。月明かりの中、海蛇(シーサーペント)が暴れている。近づいてよく見ると、揺れる船の上でユンカーズが海蛇の首を締めていた。


「ユンカーズ卿!大丈夫?」


「おおっ!輝夜姫!師匠!ご無沙汰しております!全く問題ありません!」


 弟子はガッチリと魔物を固めたまま、歯を見せた。


「結婚式、来てねーっ!」


「喜んで!」


 取り込み中なので、すぐ離れた。アスランは、こっそり、船の壊れた所を直しておいた。次に進路を変え、亜人の里に向かった。


 輝夜の故郷では、収穫を祝う祭りが行われていた。里の広場に篝火が焚かれて、多くの人が飲んだり踊ったりしている。その中に次郎丸とローズもいた。


「パパーっ!ママーっ!」


「あら!輝夜!アスラン殿下!」


 地上に下りると、里人は何だ何だと集まってきた。次郎丸が娘を抱き下ろし、アスランが元の姿に戻ると、歓迎してくれた。


「おお!ようこそアスラン殿下!どうぞ一献!」


 亜人は獅子頭を恐れないので、次々に酌をされた。輝夜は存分に両親に甘えた。


「じゃあね!また式の時に!」


「ええ!元気で!」


 半刻ほど祭りを楽しみ、再び空に駆け登る。次はエルフの国だ。



          ♡



 変身した殿下は凄い。あっという間にグランパの城まで来てしまった。庭園に下りようとしたら、後ろから声をかけられた。


「おお。輝夜!アスラン!」


 振り向くと、グランパが翼の生えた馬に乗っていた。輝夜はびっくりした。


「何それ?!」


「ペガサスだ。最近、捕まえた。やはり飛ぶ手段が欲しくてな」


 並走しながら、グランパは説明した。魔王が空に逃げた時、追えなかったのが痛恨だったらしい。


「結構早いぞ!競争するか?」


 ペガサスはグンと前に出た。輝夜は殿下に頼んだ。


「うん!殿下、お願い!」


「ええっ?」


 戸惑いながらも、殿下は速度を上げて、夜空の追いかけっこが始まった。30分ばかり経った頃、ペガサスが根を上げた。


「もう無理です。我が君。私の負けです」


 喋るんだ。輝夜は驚いたが、知能の高い幻獣は言葉を操るらしい。勝負がついたので、城に戻って休憩した。そこで10年ぶりに祖母と会った。


「いらっしゃい!輝夜!」


「グランマ!」


「大きくなって。もうお嫁に行くのね」


 グランマは相変わらず綺麗だ。孫を抱きしめ、お茶を振舞ってくれた。殿下も変化を解いて、ぐったりとソファに腰を下ろした。魔力を使い過ぎたそうだ。それを聞いたセバスさんが留学中のミュンスターを呼んだ。


「これ!魔力回復薬です。今、薬系にハマってて」


 魔法バカは、緑色の液体が入った瓶を差し出した。見るからに怪しい。でも朝までに戻らないと、大騒ぎになる。殿下は一気飲みした。髭がブワッと逆立った。


「不味い!もう一本!」


「ヒャッホウ!何本でもどうぞ!」


 試しに一口舐めさせてもらったら、激マズだった。よくこんなの2本も飲めるなあ。輝夜はミュンスターに味の改良を頼んでから、グランパ達に別れを告げた。


「また式の時にな」


「今度は私も伺うわ」


 二人はベランダに出て、見送ってくれた。魔力を回復した殿下は、一気にルナニアを目指した。



          ◆



 鬣を握る力が弱くなってきた。輝夜は眠ってしまったらしい。魔法でしっかりと固定しているが、起こさないよう、アスランは速度を落とした。


(今夜はあちこち行き過ぎたな。でも楽しそうで良かった)


 獅子宮の屋上に下りた頃、夜が明けた。アスランはそっと恋人を起こした。


「着いたよ。輝夜」


「…ふわぁ。もう? あ!綺麗!」


 変化を解いて、二人で美しい夜明けを眺める。今日も晴れだ。


「なあ。どうして、俺の名前や顔を知っていたんだ?」


 アスランが尋ねると、輝夜はきょとんとしていた。読心の魔法で記憶を見たと話したら、


「ああ!子供の頃、大好きだった英雄(ヒーロー)です。毎晩、ライオンの背に乗って駆ける夢を見ました。彼を描いた絵が金賞になって。でも、御門に破かれちゃってーー」


 彼女は、はっと顔を上げた。


「直してくれたの、殿下ですよね?」


 アスランは彼女を抱き寄せた。


「待たせて、ごめん」


「私の方こそ。…ずっとあなたが好きでした」


 朝日が昇る。輝夜は目を閉じ、口付けを待っている。彼は不意に思い出した。


「ごめん。今、口の中が、非常に不味いんだ…」


 彼女は吹き出した。折角の機会を失ったのは惜しいが、笑い転げる姿も、悪くなかった。



          ▪️



 それからも二人は度々、夜空のデートを楽しんだ。いつしか、天翔る獅子と乙女を見た者には、幸福が訪れると言われるようになった。


(『獅子王アスランと輝夜姫の物語』より)


(終)


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
ハッピーエンドを確信しつつもハラハラしながら一気読みさせていただきました。 姫がお迎えに抵抗したり、ライオン王子がライオン王子のまま(なんなら100%ライオンになっても)愛されるエンドでとてもよかった…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ