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26 アスランの迷い

          ◆



 色々あったものの、アスランと輝夜は婚約した。ほぼ同時に、イシドールがイライザと、クラウスがジャンヌと婚約した。問題は婚儀の時期だ。1年おきに挙げるとなると、招待される方は大変だろう。趣向を変える必要があり、金もかかる。


「ではいっそのこと、合同で挙げませんか?」


 万事倹約家のイシドールが提案する。式も披露宴も、結婚パレードも1回で済み、国庫の負担も、別々に挙げるよりはるかに少ない。招待客も喜ぶだろう。アスランは構わないと答えた。だがクラウスは難色を示した。


「一生に一度なのに。それじゃあ、花嫁が可哀想です」


「では3年ずつ開けてやるか?」


 イシドールが訊くと、クラウスはもっと反対した。


「それじゃ、僕の番は6年後じゃないですか!そんなに待てない!」


「ほらみろ。合同結婚式が一番、合理的じゃないか」


「…イライザだって嫌かもしれませんよ」


 つまらない事で喧嘩になりそうだったので、それぞれの婚約者達に意見を聞くことにした。



          ◆



 輝夜はリッチマン姉妹と一緒に準備ができると喜んでいた。イライザも経費削減になるからと、賛成。ジャンヌも承知したが、その分、芸術家を沢山招いて、城下で盛大な祭りを開きたいと願った。これにはクラウスも乗り気だったので、運営を彼に任せた。


 三王子の臨時体制はうまく回っていて、弟たちと結婚式の準備をする余裕もあった。


 ある休日。皆で婚礼衣装を選んだ。デザイン画をいくつも見せられたが、今まで服は全て祖母が用意していたから、正直、よく分からない。


「じゃあ、私が決めてあげます!」


 輝夜は嬉々として、アスランの衣装を選んだ。次は花嫁衣装だ。3人の令嬢は大きなテーブルに候補を並べて、ずっと喋っている。男達はそれを眺めながら茶を飲んだ。


 不意に、彼女達の頬が赤くなり、聞こえないほど小さな声で、ヒソヒソと話し始めた。時折、こちらを見る。


「何を話してるんでしょうね? アスラン兄上、魔法で聞き取ってください」


 クラウスは、やや束縛のきらいがある。盗み聞きなどして嫌がられないか。迷っていると、イシドールまで、


「一番安いのにしようとか、言ってませんか?」


 と訊くで、仕方なく音を拾った。


「…懐妊も一緒だと良い、と話している。いとこ同士、仲良く育てようと」


 気まずい空気が流れる。上の弟は咳払いをし、下の弟は汗を拭った。アスランは別の感慨に耽っていた。やがて父親になる。そこまで考えていなかった。


「良い父親になれるかな…」


 思わず漏れた独り言に、イシドールは即答した。


「なれないと思います。実の所、私とクラウスが武芸を放棄したのは、父上を脅かさない為です。自分を超える者は、息子といえども殺す。そんな父親しか知りませんから」


 クラウスも頷いた。


「獅子宮だけじゃありませんよ。ウチも随分、毒味役が殺られました。何とかなりませんか? ジャンヌに見せたくないんですよね」


「そうなのか? お前達は大切にされてるとばっかり…」


 弟達にまで刺客を送っていたのか。それでは後継者がいなくなってしまう。父は何を考えていたのだろう? イシドールは推測を述べた。


「寝首を欠かれるのが心配で仕方なかったんでしょう。お祖父様…先王陛下がそのように育てたのでは? 虐待スレスレの王子教育だったそうですよ」

 

 確か、父には数人の弟がいたはず。全て病死となっているが、実際は違ったのかもしれない。


「その話は、母上達には伏せておけ。俺たちが真似をしなければ良いんだ」


 長兄の言葉に、弟達は頷いた。輝夜が手を振りながら駆けてきた。


「アスラン殿下!決まりました!」


「輝夜ったら。走らないの!」


 イライザ、ジャンヌもデザイン画を手に歩いてくる。アスランは婚約者を受け止めた。彼女は信頼し切った目で彼を見上げた。弟達は幸福な顔をしている。アスランも幸福だと思う。


 だが、どうしても納得がいかない。なぜ、輝夜は獅子の顔が良いのだろう? 魔王から救われた、その恩義を愛情と勘違いしているのではないか? その疑いは、じわじわと広がる一方だった。



          ◆



 婚儀が迫ったある夜。残業をして金牛宮を出ようとした時、アスランは呼び止められた。リッチマン侯爵だった。


「何か?」


「折り入って、お話ししたき儀が」


 侯爵はアスランを小さな部屋に案内した。そこには、黒づくめの男が跪いていた。


「陛下に仕えていた刺客の長です」


 アスランは長に向かって言った。


「要件は? 陛下を見限って俺につこうと言うのか?」


「はい。お許しいただけるなら」


 男は深く頭を下げた。アスランは思った。正直、要らない。暗殺するだけの部下なんて。


「侯爵はどう思う?」 


 困って尋ねたら、古参の大貴族は、驚いたようにアスランを見た。よほどリッチマン侯爵の想定外の事を言っているらしい。


「代々、引き継ぐものですが。諜報も兼ねていますし」


「では、諜報員として雇おう。あと王族の護衛だ。母と祖母、弟、弟と俺の婚約者を守れ」


「はっ」


 ますます深く平伏するが、どうも信用できない。アスランは念入りに命じた。


「保護対象には、イライザとジャンヌ、輝夜の産む子供達も含む。敵も、できるだけ殺すな。まず俺に相談しろ」


「…承知いたしました」


「明日、この時間にまた来てくれ。契約の詳細を詰めよう」


 アスランは平伏する男に手を差し出した。男がじっと動かないので、腕を取って立たせる。


「普通に立って話せ。気味が悪い。下がって良し」


「は…」


 刺客がドアから出ていくと、侯爵に訊いた。


「これで良かったか?」


「なぜ、そのようにお尋ねに? 殿下は国王代理です。誰も逆らえぬ権力をお持ちですが」


「自信がないのさ。何もかもが初めてだからな」


 アスランは若輩者を装った。おそらく、リッチマン家が暗部の元締めだ。上手く付き合わないと。そう思っただけなのだが、侯爵は感心したように言った。


「さすが聖王ヘリオスの再来でいらっしゃる。実に慈悲深い」



          ◆



 瞬間移動で獅子宮に戻り、アスランは輝夜と二人で少し遅い食事をとった。師匠はミュンスターを連れてエルフ国に、次郎丸とローズも亜人の里に帰ったので、今の宮は少し寂しい。だが輝夜は朗らかに言った。


「でも、結婚式の時に、また会えますから。ユンカーズ卿も間に合うと良いんだけど」


 ユンカーズはドラゴン狩りの為に武者修行の旅に出た。無傷で海蛇(シーサーペント)を倒すまで戻らないそうだ。


「別にいなくても良いだろ?」


 アスランはそう思うが、輝夜は絶対に来てほしいと言う。


「戦友ですから」


 ふと、嫉妬心のようなものを感じた。ずっと一緒にいて情が湧いたのでは? ユンカーズの方が彼女に相応しいのではないだろうか。何といっても顔が普通だ。聖王ヘリオスの妻、ローザ妃はどうだったんだろう? 普通の顔を愛したのではないか?


(だが、魔法で化けたら泣かれてしまった…)


 呪われた王子と呼ばれ、荒れ果てた宮に引きこもっていた時の方が、己の姿を気にしていなかった。彼女の好意を疑っていなかった。


「それで、殿下の衣装に、ちょっと変更を加えるんです。私がデッサンを描いてて…」


「うん…」


 楽しげな婚約者の声を、アスランは上の空で聞いていた。


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