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24 夜空の戦い

          ◆



 庭で戦っていたアスランは、違和感を覚えた。強烈な攻撃は最初の一発だけだった。後は雷撃か鉛玉の連射のみで、一向に魔王が出てこない。輝夜嬢を出すべきか。迷っていると、急に湧き出たドローンがエルフ王に群がった。


「ミュンスター!出来たか?!」


 王は魔法と剣を駆使して戦いながら、弟子に呼びかけた。研究室の窓が開き、ミュンスター卿が手を振る。すると、ドローンは互いに攻撃をし始めた。


「ヒャッホウ!大成功!」


 乗っ取りの魔法らしい。そのまま敵は数を減らし、あと一息と思った時、巨大なドローンが垂直に上昇してきた。


それに気づいたエルフ達が一斉に弓を引く。しかし、指揮官のローズが止めた。


「打つな!輝夜が乗っている!」


 アスランは驚いて屋上に瞬間移動した。輝夜嬢の生命力がほとんど感じられない。死にかけている。


(いつの間に? なぜ誰も気づかなかった?)


「風魔法で押し止めろ!」


 エルフ王の指示で、魔法士たちが慌てて上空に下降気流を生む。巨大ドローンはやや速度を落とした。そこへユンカーズが屋根伝いに駆け登ってきた。アスランは思わず怒鳴った。


「何をしていた!寝ていたのか!」


「申し訳ありません!一服盛られました!」


「馬鹿野郎!」


 殴り飛ばしたい衝動を抑え、上空を見上げる。今なら捕まえられる。もう少し速度を落とせないかーーその時、次郎丸が、大きな竹槍を担いで屋上に跳躍してきた。そのまま走り、槍投げのようにそれを放つ。すかさず、ローズとエルフ王が先端に強化魔法をかけた。


「!!」


 竹槍は羽を2つ、破壊した。巨大ドローンは大きく傾き、明らかに速度が落ちた。


「今だ!行くぞ!」


 アスランは弟子の首根を捕まえると、ドローンの上に瞬間移動した。大きな胴体に取り付き、中を見る。そこには虚な目をした輝夜嬢と、銀髪の男がいた。こいつが魔王か。


「残る羽を落とせ!」


 ユンカーズに命じ、アスランは剣を透明な蓋に叩きつけた。ヒビも入らない。ならばと隙間に刃を差し込み、力を込めた。少しづつ蓋が開く。その間に、弟子が羽を全て斬った。巨大ドローンはようやく墜ち始めた。



          ♡



 操縦席の計器は警報音を鳴らし、真っ赤なランプが点滅する。さすがの御門も青ざめていた。ざまあみろ。このまま奴を道連れに墜落すれば、こっちの勝ちだ。


(ああ。でもグランパやママ、パパが悲しむ)


 ガタンっと機体が揺れ、ハッチの上にアスラン殿下が飛び降りた。剣でこじ開けようとしている。


「99(パー)か。まあいっかな」


 御門は輝夜のうなじから、何かを引っこ抜いた。USBみたいなものを握りしめ、片手でスマホを操作する。すると、大きな月の前にピンクの扉が現れた。なんの冗談かと思っていたら、扉が開き、中から黒西瓜が噴き出してきた。それは雨のように地上に降り注ぐ。


「バグが増えてんな。もう、こっちと行き来は不可能だ。良く見とけよ、お前のせいで滅ぶ世界を」


 奴はリュックみたいなものを背負うと、床下の脱出口を開けた。逃げ出す気だ。輝夜は殿下を見た。金色の目は諦めていない。少しづつハッチが上がっていく。


「じゃあなツッキー。向こうで会おう」


 下降するドローンから御門が飛び降りるのと、ハッチが吹き飛ぶのは同時だった。



          ◆



 魔王が握っている物から、輝夜嬢の濃厚な気配がする。アスランは叫んだ。


「逃すな!左手だ!」


「承知!」


 ユンカーズがケガレを足場にして、黒い翼で飛ぶ魔王を追う。地上の魔法士たちからの風の援護もあり、弟子は奴に追いついた。そのまま左腕を切り飛ばすと、落ちる腕を受け止めた。


 アスランは、輝夜嬢を押さえつけているベルトを切り、抱き上げた。巨大ドローンは飛ぶ力を失い、堕ちている。地上に瞬間移動をしようとしたら、彼女の目が開いた。何かの副作用か、青い。彼女はアスランの顔に触れ、


「追いましょう。彼を逃してはなりません」


 と言った。どうやって? 瞬間移動は足場がなくては出来ない。


「飛んで。あなた」


「輝夜嬢?」


「ローザよ」


 彼女の手から、ヘリオス王の記憶が流れ込んできた。



          ♡



 地上に激突する寸前、輝夜(ローザ)はライオンの背に乗って脱出した。殿下は完全に獅子の姿になり、夜空を急上昇して、扉に逃げ込もうとする御門を追った。


「待て!」


「ぎゃああっ!」


 スピードを上げ、扉の手前で奴の脚に噛みつく。左腕を失った御門は、恐怖に満ちた目で振り返った。やっと短剣の出番が来た。


「さよなら」


 輝夜(ローザ)が御門の背中を刺した。殿下は奴を扉の向こうに放り込む。ピンクのドアはバタンと閉まり、そのまま消えた。


「あなた。降りましょう。ケガレを祓わねば」


(『あなた』って事は、あの肖像画の王様なのかな)


 殿下も自然に答えた。


「ああ。浄化魔法は覚えているか?」


「もちろんです」


 獅子に乗った彼女は、キラキラと光るものを振り撒きながら、王都の空を翔ける。それを浴びたケガレは消滅した。離宮の庭で戦っていたイライザとジャンヌも、城下の騎士たちも、亜人の兵達も、皆が驚きの顔で見上げていた。


 一通り浄化してから、二人は獅子宮の屋上に降り立った。


「輝夜!」


 祖父や両親達が駆け寄る。しかし、彼女の目を見て立ち止まった。輝夜(ローザ)は呼びかけた。


「兄上」


「ローザ?」


「ただいま、戻りました」


 妹は兄を抱きしめた。グランパの涙を見た気がする。覚えているのは、そこまでだった。


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