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22 離宮防衛

          ▪️



 離宮は王城からさほど遠くない。第二、第三王子と王妃、王太后は、そこの最も奥まった部屋にいた。まだ具合の悪い王は隣室で寝ている。一家はじっと時が過ぎるのを待っていたが、月の出から暫くして、爆音が轟いた。


「何事だ?!」


 クラウスは立ち上がった。


「処女宮が爆破されました。現在、獅子宮で眷属と交戦中です」


 整った顔のゴーレムが答える。いよいよ危なくなったら、エルフ王に救援を求めてくれと、騎士団長が置いていったのだ。


「まいったな。僕の宮じゃないか。どれくらい壊れた?」


 第三王子は嘆息し、被害を訊いた。


「およそ6割です。我が君が後で修復しますので、ご心配はいりません」


「ぜひ頼むよ。…うん?」


 遠くで叫び声のようなのが聞こえた。それは段々と大きくなり、近づいてくる。イシドール兄上が侍従に様子を見に行かせたが、侍従が戻るより先に、ゴーレムが報告した。


「城下の数カ所にケガレ発生。離宮上空にも出現しました」


 この場の指揮官である、兄が尋ねた。


「数は?」


「およそ3万です」


「持ちそうか?」


「推定43分で塩が尽きます。残存騎士数が、50を切る前に救援を呼ぶべきです」


「では55を切ったら教えてくれ」


「承知いたしました」


 ゴーレムと淡々と会話をしている。優秀な士官みたいだ。それに比べ、クラウスは、どうもこういった荒事が苦手だ。剣術も向いていなかったし、騎士団長の授業も右から左に聞き流していた。アスラン兄上が全てやってくれていたから、今まではそれで済んだ。


(もうちょっと頑張っておけば良かったな)


 へなちょこ王子が出しゃばっても役に立つまいと、黙っていたが、急にゴーレムが言った。


「眷属が出現。鉛弾で40名負傷。大扉が突破されました」


 イシドール兄上は立ち上がり、剣を取って命じた。


「救援を要請せよ!」


「承知しました。眷属、あと30秒でこの部屋に到達します」


「何だと?!」


 クラウスは、茶器が壊れるのも構わず、咄嗟に大理石のテーブルを倒した。母と祖母をその陰に入れて、自分も剣を取る。外が俄かに騒がしくなった。


「お逃げください!!」


 護衛が叫ぶ。彼はドアノブと一緒に吹き飛び、魔王の眷属が侵入してきた。何という数。クラウスは息を飲んだ。そのどれもがこちらを見ている。


「王族と確認。武器を捨てろ」


 驚いた。ルナニア語で警告してきた。兄は剣を捨てた。クラウスも倣った。すると、女の声が廊下から聞こえた。


「伏せて!」


 兄弟王子は素直に従った。多数の兵が部屋に乱入、眷属は鉛玉を撃つが、兵は次々に眷属を斬って落とした。


「お立ちください!すぐ次が来ます!」


 女が手を差し出した。その手を握って顔を上げると、リッチマン侯爵家のジャンヌだった。隣ではイライザが兄を助け起こしている。彼女達は兵と揃いの鎧を着け、剣を帯びていた。


「どうして君たちが?」


 立ち上がったクラウスに、兵が鎧を着せた。兜も被せる。横では兄も同様にされていた。


「オリハルコンの鎧兜です。鉛玉を通しません。皆様、早く盾の後ろへ!」


 イライザは慌ただしく言った。その間にも、廊下から眷属が飛び込む。ジャンヌは素晴らしい太刀筋でそれらを斬った。兄が大声で、


「オリハルコンだと?! 馬鹿か、イライザ! 幾らしたんだ?!」


 およそ場にそぐわない事を尋ねた。イライザも戦いながら、


「大したことは。私とジャンヌのお小遣い三年分ですわ。万が一の為にドワーフに発注しておいたんです。離宮近くに待機していて、良うございました!」


 と答えた。問題はそこじゃない。なぜ侯爵令嬢がこんなに強いんだ? 一流の剣士みたいじゃないか。クラウスは、騎士の盾の隙間から、二人の戦いぶりを呆然と見ていた。


「お前とイシドールが、真面目に武術を学ばなかったからです」


 祖母が小さな声で言った。


「何ですって?」


「リッチマン家の役目は、王家の守護。お前達の足りない部分を補うために、厳しい訓練を課されたのよ」


 クラウスは言葉を失った。全然知らなかった。兄も口を引き結び、祖母の言葉を噛み締めている。姉妹が鬱陶しいくらい付きまとうのも、近寄る令嬢達に目を光らせていたのも、そんな理由だったのか。


 二人と兵士達の目覚ましい働きで、何とか眷属を部屋から追い出した。イライザとジャンヌは、外に走りながら指示を出した。


「後はケガレだけだ!お前達はここを死守せよ!」


「バリケードを築け!朝まで絶対に開けるな!」


「はっ!」


 彼女達の背が消える前に、イシドール兄上が叫んだ。


「イライザ!三年、私がドレスを作ってやる!いいな!」


 返事は聞こえなかった。家具でドアが完全に塞がれ、クラウスはようやく肩の力を抜いた。


「格好良い事言っちゃって…。普段と大違いじゃないか」


 ジャンヌに気の利いた言葉を言えなかった。それが悔しかった。守られるだけで、何一つ役にたたなかった事も。


「借りを返すだけだ。お前もジャンヌに作ってやれ。予算は何とかする」


「え? そういう意味だったの?」


 相変わらずズレた兄は、ゴーレムに苛立たしそうに訊いた。


「救援はどうなっている? 向こうの戦況は?」


 ゴーレムは無表情に報告した。


「輝夜姫が負傷しました。あと推定35分で死亡します」


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