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15 以心伝心

          ♡



 目を覚ますと、夜中みたいに真っ暗だった。輝夜は常に微発光状態なので、そのまま灯りもつけずベッドを降りて外に出ようとした。しかしドアが開かない。観音扉の反対側は開いた。廊下の床には、ドアにもたれてアスラン殿下が眠っていた。彼女の気配にも気づかないようだ。


(疲れてるよね。宝探しの旅から帰ってきたら、すぐ里に行って。戻ったと思ったら、あんな…)


 先ほどのスタンガン攻撃を思い出して、彼女は身震いした。ドローンの言うことが本当なら、どんなに抵抗しても連れ戻されて、あの悪魔みたいな男と結婚させられる。家族はもちろん、殿下とも会えなくなる。


 すうすうと眠る殿下の顔を見ているうちに、涙が出てきた。悔しい。もしかしたら、万が一にもだけど、殿下のお嫁さんになれる未来があったのに。輝夜は、逞しい膝の上に乗り、鬣に顔を埋めた。


(お日様の匂い)


 憶えていられるかな。すると、ぎゅうっと抱き締められた。


「なぜ泣いている?」


 殿下は狼藉者に優しく尋ねた。


「迎えが来たから。でも、帰りたくないんです」


「じゃあ、帰らなければ良い」


「…そうですね。まだ、殿下に乗って、空を飛んでませんから」


「俺が獅子になっても、側にいてくれるのか?」


「当たり前じゃないですか。定年退職まで、獅子宮に居座るつもりですよ」


 クックッと、喉を鳴らすように、殿下は笑った。それから、彼女は品評会の様子を伝えた。庭にキラキラと輝く若木は世界樹だと教えたら、凄く驚いていた。どの貴公子も求婚が目的ではなかった、実はモテていなかったと話すと、殿下はまた大笑いした。つられて輝夜も笑う。二人は夜が明けるまで語り合った。



          ♡



 翌日、グランパを探していたら、研究室で来客中だった。輝夜は侍女ゴーレムに頼んで、お茶出しを代わってもらった。ノックしても返事がないから、勝手に入った。客人は不死鳥の羽根の人だった。グランパと2人で盛り上がっている。


「非接触型の雷撃ですね。届く範囲は半径1.5メートル。近づかなきゃ良いのでは?」


「そうだな。お。術式が抽出できた。このままでは読めんな。変換」


「凄え!」


「グランパ」


 輝夜が声をかけると、祖父は振り向いた。


「おお、輝夜。気分はどうだ?」


「もう大丈夫。何してるの?」


 作業台の上にはドローンが置いてあった。彼女は思わず飛び退った。


「心配要らない。動力源は外してある。このアベル・ミュンスターと術式を解析しているところだ」


 グランパに紹介された羽根の人は、直角に腰を曲げた。


「師匠の弟子になりました!以後、よろしくお願いします!」


「よろしく…羽根の話じゃないの?」


「それは、もう合格をもらいました。次の課題はこの飛行偵察機ですよ!」


 アベルは嬉々としてドローンを指差した。


「コレを乗っ取る魔法を作れたら、師匠がエルフの国へ留学させてくれるって!ヒャッホウ!」


 魔法バカだった。お茶に誘っても、もう聞こえないのか、夢中でドローンに向かっている。輝夜とグランパはソファに座って、その様子を眺めた。


「あいつは頭が良い。魔道具作りに向いている。だから、コレの研究を任せることにした」


「ドローンって言うの。あのね…」


 どこから説明しよう。自分でも理解できない部分が多いのに。迷っていたら、グランパに手を取られた。ふと、赤子の時の“以心伝心”を思い出した。


(ママと同じなんだ)


 彼女は目を閉じ、竹の中で目覚めるまでの記憶や、ドローンとの会話を思い浮かべた。しかし、向こうでの冷たい家族関係や、悪魔から受けた陰湿な虐めなど、辛い記憶も湧き出てしまった。


「輝夜。もう良い」


 長い指が、そっと輝夜の涙を拭った。そして、グランパは力強く言ってくれた。


「絶対に帰さない。約束する」



           ♡



 気づくと、アベルは獅子宮に住み着いていて、食事にもちゃっかり混ざっている。殿下は殿下で、通いの弟子ができていた。オットー・ユンカーズという茶髪の大きな騎士である。海蛇の魔石を持ってきた人だ。獅子宮の裏の訓練場で毎日毎日、立ち会いをしている。


「おはよう!輝夜姫。今日も細いですな。朝食は食べましたか?」


 輝夜が冷たいお茶を差し入れに行くと、オットーは陽気に挨拶をした。


「食べましたよ。あのね。私はもう15だから、これ以上大きくはなりません」


「自分は25ですが、日々、成長してますぞ!筋肉が!」


 毎度、同じやり取りをしている。彼女は筋肉バカを無視して、アスラン殿下にアイスティーを差し出した。顔が火照るのを感じる。ドローンの件から2週間が経つ。あの日はどうかしていた。お膝で慰めてもらうなんて。また封印すべき記憶が増えてしまった。


「ありがとう。今日はイシドールとクラウスが来る日じゃなかったか?」


 だが殿下は相変わらず落ち着いている。少し寂しい。


「はい。でも、お茶を飲んで、庭を歩くだけです。グランパが、危ないから獅子宮から出ちゃダメだって」


「そう言えば、姫は雷攻撃を受けたそうですな。どれくらいの強さでしたか?」


 オットーが急に訊いてきた。筋肉と戦闘にしか興味がないのだ。彼女は大雑把に答えた。


「多分、冬にビリッとくる、あれの100倍くらい?」


「なるほど!殿下、再現することは可能ですか? 一つ、撃ってください」


「やめておけ。痛いぞ」


 呆れた顔で殿下は止めたが、筋肉バカが何度も頼むので、渋々魔法を放った。一瞬、騎士の身体は揺れた。しかし、倒れなかった。


「くう〜っ!効きますな〜!ですが、耐えられますぞ。どれ、私も姫の警護に立ちましょう」


「良いですよ。ユンカーズ卿もお忙しいでしょう?」


「ご遠慮なさるな!今日、殿下はお出かけなのです。自分がしっかりとお守りいたす!」


 それとなく断ったつもりだが、オットーは強引に護衛になってしまった。殿下は、頼まれた修復の仕事で、出張だ。輝夜は第二王子との半日デートの支度をしに、自室に戻った。


(あの人、苦手なんだよね…)


 威圧的だし、口数少ないし。でも約束は約束なので、ちゃんとしたドレスを着て待つ。イシドール王子は時間きっかりに獅子宮に現れた。


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