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12 宝の品評会・前篇

          ♡



 殿下が旅立ってから、2ヶ月半以上が経った。グランパが持たせた魔道具で、移動を続けているのは確認できている。しかし、正確な位置や、健康状態などは分からない。そうこうするうちに、弟王子達から、宝が手に入ったと連絡が来た。


「どーすんの?!殿下が帰ってくる前に、持ってきちゃうよ!」


 焦った輝夜は祖父に詰め寄った。


「仕方がない。次の週末に品評会をやるぞ。セバス、王子らに伝えろ」


「承知いたしました」


 セバスさんはちゃっちゃと返事をしたため、ゴーレムを使いに出した。アスラン殿下は間に合うのだろうか。気を揉んでいると、グランパは不思議な模様が描かれたカードを並べ、


「大丈夫だ。必ず、それまでに戻ってくる」


 と、確信を込めて言った。


「そんな占いで分かるの?」


「ギリギリ間に合う、と出ている」



          ♡



 グランパの言う通り、品評会の前夜に、殿下は帰ってきた。だが、ピカピカだった鎧は傷だらけで、(たてがみ)が焦げていた。頭に巻いた布にも血が滲み、まさに満身創痍の状態であった。


「殿下?!」


 駆け寄る輝夜を片手で制し、殿下はグランパに抗議した。


「ドラゴンに呪われるなんて、聞いてませんよ。師匠」


「修復魔法を封じられたか? 手強いと言っただろう。ほら、解呪したぞ」


 グランパが手を振ると、殿下の怪我が治った。鎧も元の綺麗な状態に戻る。ようやく、彼女はその逞しい胸に飛び込んだ。


「お帰りなさい!凄く、凄く心配しました!」


「すまない。ギリギリ過ぎたな」


「違います。怪我をさせちゃって、ごめんなさい…ううっ」


 お日様の香りのする鬣に顔を埋め、ベソベソ泣いた。殿下は石のように固まっていたが、暫くすると、そっと髪を撫でてくれた。


「大丈夫だよ。ほら、もう治った」


「それで? 宝は揃ったのか?」


 空気の読めない師匠が訊く。殿下は幾つかの包みを取り出し、ゴーレム達に渡した。グランパはそれをテーブルに広げ、一つ一つ確認した。


「よし。全て本物だ」


 覚えているのはここまでだ。輝夜は泣き疲れて、そのまま寝てしまったのだ。やっと獅子宮に主人が帰ってきた。それだけで安心して、ぐっすりと眠れた。



          ♡


 

 翌日の午後、獅子宮の庭で品評会が開かれた。事前に申し込んで来たのは、5人。いずれも王子か高位貴族の令息だ。審査員席にはグランパが、貴賓席には王太后様、輝夜が座る。暇な貴族達が見学したいと言って詰めかけたので、急遽、庭園に観客席が設けられた。ゴーレムの召使い達が、酒やジュースを給仕している。


「紳士淑女の皆様!只今より、“至高の宝品評会”を開催いたします!ご参加くださったのは、この5名の貴公子です!どうぞ、大きな拍手でお迎えください!」


 セバスさんのアナウンスに、盛大な拍手が起こる。その中を、イシドール王子、クラウス王子他、3名の若い男性が入場した。5人はそれぞれの名札が置かれた席に座り、従者がその横に布を掛けたワゴンを止めた。


「審査されるのはエルフ王・ガブリエル陛下です。なお、本物と判定された方は、輝夜姫への求婚の権利を得ます。具体的には1日デート権です。では、最初の挑戦者をご紹介しましょう!アベル・ミュンスター卿です!」


 青灰色の髪に青い目をした、痩せた男が席を立ち、従者を連れて、審査員席の前まで歩いてきた。


「ミュンスター侯爵家の異端児、宮廷魔法士のホープです!では見せていただきましょう!」


 従者が布を取る。そこには、赤い大きな羽根があった。グランパはそれを受け取った。


「これが『不死鳥の羽根』ですよ。どんな高温でも燃えない。試してください」


 魔法士は自信満々に言った。ゴーレム達が火のついた篝火を運んでくる。グランパは、そこに羽根を無造作に放り込んだ。


「おおっ!」


 観衆は驚きの声を上げた。燃えない。赤い羽根は炎の中で形を保ったままだった。本物か。しかし、グランパは冷静に言った。


「まだだ。不死鳥は1万5千度でも耐えられる。温度を上げていくぞ」


 炎は色をオレンジから黄色、白を経て青白く変化していくが、白の手前で、羽根は燃えてしまった。


「耐熱魔法が施してあったな。発想は良いが、技術が甘い。50点」


「はいっ!」


 学校のテストか。アベルという青年はキラキラした目でグランパに訊ねた。


「再提出したら、見ていただけますか?」


「よかろう。持ってこい」


「ヒャッホウ!」


 やっぱり先生と生徒だった。彼は片腕を突き上げ、大喜びで席に戻った。初っ端からおかしい。同じことを思った貴族の一人が、手を挙げて発言した。


「魔法の技術を競う場ではないですよね? それとも、『不死鳥の羽根』は実在しないのですか?」


「ある。これがそうだ」


 グランパは魔法の収納から、赤い羽根を取り出した。偽物よりひと回り大きく、煌めきが違う。それを青白い炎に焚べても、燃えなかった。人々は驚嘆した。アベル・ミュンスターは真っ赤な顔で「凄え!」と叫んでいる。


(こいつ。グランパに師事したくて来たな)


 輝夜は呆れて顔を顰めた。まあでも、偽物で良かった。


「ミュンスター卿、失格!さあ、お次はオットー・ユンカーズ卿です!ユンカーズ伯爵家の嫡子にて、時期騎士団長とも言われる剣の達人!お題は『ドラゴンの魔石』!どうぞ!」


 茶色い髪の良い体格をした青年が、脚を引きずって出てきた。そういえば、入場の時から、一人、杖をついていた。怪我をしているようだ。


「私は、東の海に船を漕ぎ出し、巨大な海竜と戦った。これはその時に負った怪我である」


 騎士は大きな声で苦難の旅を語った。本当に旅に出たらしい。


(そんなに私と結婚したかったのかな)


 胸が痛んだ。アスラン殿下だけでなく、他の男性まで危険に晒してしまった…。


「ついに私は海竜の首を切り落とし、魔石を手に入れたのである。ご覧あれ!」


 ユンカーズ卿が布を取り、人の頭程もある、青い球を見せた。本物っぽい。人々はざわめいた。だがグランパは、


「それはドラゴンではない。海蛇(シーサーペント)の魔石だ」


 と言い切った。そして、直径1メートルはある巨大な球を出した。ダイヤモンドのように煌めいている。


「これがドラゴンの魔石だ。幼体でもこの半分はある。だが、卿の努力に敬意を示そう」


 グランパがパチリと指を鳴らした途端、ユンカーズ卿はシャッキリと背を伸ばした。


「おおっ!怪我が治った!ありがとうございます!ちなみに、そのドラゴンを倒したのは、陛下ですか? 違う? ではその方をご紹介していただくことは?」


「良いが。会ってどうする?」


「もちろん、弟子入りいたします。次こそ、ドラゴンを倒す!!」


 騎士は白い歯を見せて、両の拳を打ち合わせた。弾む足取りで席に戻る。一度も、輝夜の方を見なかった。その場にいた全員が気づいた。『あ。この人、筋肉バカだ』と。


「ユンカーズ卿、惜しかった!さて三番目はこの方!海運王ストーン侯爵家より、自称『海の貴公子』マノロ・ストーン卿です!お持ちくださったのは、伝説の『人魚の涙』!どうぞ!」


 頭頂部がやや薄い、ぽっちゃりとした青年が立ち上がった。ゆっくりとした動作が優雅である。彼は審査員席に一礼してから宝を披露した。


「これがストーン家に伝わる『人魚の涙』です。100年前に人魚を救った先祖が、感謝の印として贈られたと言われています」


 マノロは大きなバロック真珠を見せた。グランパは手にとって、色々な角度から見た。一目で違うと言わない。今度こそ、本物だろうか。人々が息を詰めて見守る中、ゴーレム達が巨大な水槽を運んできた。底面の縦横は2メートルほどだが、高さが6メートル以上あり、中は水で満たされている。


「これを持って飛び込んでみろ。本物だったら、息ができる」


 グランパは真珠を彼の手に握らせ、パチリと指を鳴らした。たちまち彼の体は宙に浮き、水槽の上まで上がった。


「え? え?」


 ドボンっ。水槽に落とされて、そのまま沈んでいく。そしてガボガボともがき、溺れてしまった。


「偽物だ」


 一瞬でマノロは外に移動した。ゴーレムに介抱され、水を吐いたが、そのまま担架で運ばれていった。


「残念!ストーン卿失格です!ちなみに、これが本物の『人魚の涙』です。よく見ていてください」


 セバスさんが輝く珠を皆に見せ、水槽に飛び込んだ。何分経っても笑顔で手など振っている。若い令嬢は頬を染めて「セバス様ー!頑張ってー!」などと応援していた。


「さあ、ここまで3人連続失敗!次はいよいよ、本命の2殿下です!」


 水槽から出てきたセバスさんは、魔法で服を乾かしてから司会に戻った。輝夜も気を引き締めた。あの二人なら、本物を持ってきたに違いない。品評会は山場を迎えた。


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