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大正生まれのマドンナへ

作者: 真夏の雪男

こんなにも貴方が痩せてしまっていたなんて

肉をまったく感じさせない落窪んだ頬

幾筋も細く長い皺が刻まれた額

薄い唇は軽くすぼめられ周りにびっしり皺がついている

こんなにも小さかっただろうか

まばらなに白髪がついた頭部は片手で持てそうなくらい軽そうだ


でも心配しないで

私は知っている

16歳の貴方が希少な花のように抜きん出て愛らしく

その横顔は端正に美しく

周囲の男性たちからどのような眼差しが注がれていたのかを

私は知っている

その唇から繰り出される言葉にどれだけの人が癒され、そして惑わされたのかを


若き日の恋物語を貴方は語ってくれた

待ち合わせた国鉄の駅の待合室で

遠くからお互いに顔を見合せただけで

一言も交わさず別れてきた日の事を


その情景はけして様々な色に彩られてはいないけど

夕陽が差し込んだ駅舎はいつまでも

貴方のまぶたに鮮やかな実感をともなって

残っていたことでしょう


さようなら、彼の世があろうとなかろうと

三世に会おうが会うまいが

私は今、ただその静に圧倒されて

貴方の枕元にぬかずいている


「色は匂えど散りぬるを、我が世誰そ常ならむ」

いろは坂で貴方が教えてくれた歌が

何度も何度も頭に響いている


さようなら、今この時に

絶えず流れていくこの時の川に

立ち止まって動かない貴方を

そっと置いて行きます


いずれ確実に私自身にも重なる

永遠のこの世の無常を抱いて






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