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第7話 見捨てられた者は怨霊様の事情を知る

目印にして歩いて来た糖柑の樹の下を見ると何やら古びた石が。

風化が進んでいるのではっきりとなんだかわからないが何か祠のようなものだろうか。

おぉぉっ、そうか。

少女の怨霊を鎮めるために誰かが建てた祠か。

祠を立ててここで祈祷していたのか。

そして、熱心な祈祷も虚しくその人が怨霊にのっとられ、祈祷はいつの間にか黒ミサに。

長い間に祠がある事も忘れられこんな状態に。

恐るべし怨霊様。



"だから、怨霊ちゃうわぁ。"


さらに俺は自分の周りを見回した。

自分が立っている祠の前は少し窪んだ広場となっていた。

しかし、その広場には生気が感じられず、茶色の窪地が広がっている。

種蒔き前の畑のように。


誰も手入れをしたような跡がないのに、俺が立っている窪地は木々どころか下草も生えておらず、どこからか飛んできた枯葉で覆われて茶色い湖のような風にも見えた。

恐らく怨念様の強い邪悪な霊力で抜いても抜いても生えてくるあのたくましい雑草すらも育つことが許されなかったのであろう。

と言うことは、この窪地はまさに黒ミサの舞台で間違いないな。


つまりだ、あの祠の前に祭壇を作って、生贄を捧げることが怨霊様のお願いごと。

そして、黒ミサの開催を強制された俺もかつて祠を作って鎮魂していた者と同様に怨念様の霊力に当てられ、操られ、持ってきたナイフで自分の首をシュパッと。

おれの首から流れ出るその血でこの窪地を染めることで黒ミサのクライマックスとするんだぁぁぁぁ。


"だからぁ、黒ミサも生贄もいらないって。

ただ・・・・・・"


えっ、黒ミサも生贄もなくて、いきなり俺の首をチョンですか。


"だから違うって。

良いから私の願いをこれから言うからその通りにして。

余計なことは考えないで。

話が進まなくなるから。"


「わかりました。

いいだろう、こんなところで黒ミサ以外に何を俺にさせようとしているのか聞いてやろうじゃないか。」


"黒ミサじゃないといったら、なんかいきなり上から目線になったわね。

まぁ、良いわ。

この泉の真ん中に大きな石があるでしょ。"


俺は自分が立っている窪地をぐるっと見回した。

泉?

水なんてないよ。


"それは今からよ。"


げぇぇぇぇ、まさか生贄と俺の首チョンで血の池を作くらせるつもりですか。

要らない要らないと口では言いつつ、どんだけの生贄を要求するんですか、怨霊様は。


"だから、生贄も君の首もチョンなんてしないから。

血の池なんていらないから。

汚らわしい。"


汚らわしいって、怨霊様がいまさら何を言って・・・・・・


"だから、怨霊ちゃうわぁ、怒。"


「えっと、さっきからずっと喉の奥に引っかかっていたんですが、怨霊様は何方ですか。

あっ、はずいなら良いです。

怨霊様でも別に俺は困りませんから。」


"だからぁぁ、怨霊ちゃう・・・・・、もういいわ。

私は水の大精霊よ。

どうよ、凄いでしょ。

精霊の中の精霊と言われる大精霊なのよ。

初めて会ったでしょ。"


「えっ、精霊だってぇ、しかも大精霊ときましたね。

それはぁ、つまりぃ・・・・・・。

怨霊の仲間とか親戚、兄妹みたいなもんという認識で良いんですよね。

一字違いだし。

しかも大怨霊ときたもんだ。

流石、200年も祟ってきた怨霊は違いますね。

確かに感動しました。

凄いです。」


"全然違うから。

私、祟らないから。

怨霊なんて禍々しいものじゃないから。

見てよ、この透き通るような清らかな乙女の精霊。"


見てよって、言われても・・・・・。

全く姿が見えない。

まぁ、あえてその汚れた姿なんて見たくないけど、ボソ。


"なんだってぇぇぇ。

よくもこの清らかな乙女を汚れた姿と言ったなぁ、怒怒"


あっ、いや、その

あぁ、そういえばあくどい怨霊は初めは無害な清らかなフリをしてすり寄って来て、信用して油断したところでサクッと憑りつかれるって、となりのばっちゃが言ってたな。


"だれよ、そのとなりのばっちゃって。

水の大精霊をあくどい怨霊の親戚呼ばわりするのは。

ちょっと連れて来て。

20年ぐらいのお説教が必要ね。"


「連れてくるのは良いけど、俺んちの隣は教会で、ばっちゃはそこのシスターを長い間勤めている方だけど。

本当に呼んじゃっても良いの。

悪霊退散、怨霊成仏とか言って、老い先短いのに妙に張り切っちゃうかもしれないよ。

怨霊様、浄化されちゃって、消滅するかもよ。」


"ふふん、ど田舎の教会のシスターごときに私、この水の大精霊をどうのこうのすることなんてできないわよ。"


ちなみに隣のばっちゃを20年も拘束しつつ、お説教なんてできないから。

お説教の途中で逝っちゃうから。

下手すりゃそれがもとで怨霊になっちゃうから。


「あっ、なるほどそういうことか。

やっぱり仲間が欲しかったんだ、怨霊様は。

黒ミサで説教を吐いて、怨霊を増やす。

それが目的ですね。

やっと理解しました。」


"黒ミサしか浮かばないそのかぼちゃ頭をどっかに捨てて来い、このすっとこどっこい。"


う~ん、そうなるとやはり首チョンが目的ですかね、怨霊様としては。


"生贄の話もどっかに捨てて来い。"


だから黒ミサと生贄を外してしまったら俺は何を手伝えばいいんですか、怨霊様。

もう思いつかないんだけど。


"だから怨霊じゃなくて、大精霊だと何度言ったら・・・・・

そこの認識をまず改めないと私の手伝いなんてできないわよ。"


いやぁ、これまでの経緯から怨霊様で決まりかと。


"もういい、今度こそあきらめた。

かぼちゃ頭に理解できるはずがなかった。

用件だけを言うから黙って何も考えずにその通りにしろよ、このすっとこどっい。"


人にものを頼むのにその上から目線は・・・・。

まぁ、怨霊様だから仕方ないか。

逆らって、憑りつかれたら大変だしね。

でっ、ここで何をすればいいんですかね。

こんな何にもないところで。

やっぱり黒・・・・・・


"お前はそれ以上、考えんでいい。

もうかぼちゃ頭の中をきれいさっぱりくりぬいて言われたことだけを丁寧にこなしな。

余計なことはしないでいい。

かぼちゃ頭は私の言付けたことを黙って、黙々とやれば良いからな。

わかったな、黒とか怨とか絶対に心に宿すなよ。

ふぅっ、これで漸く私のターンってことね。

いいこと、この泉の真ん中に大きな石があるわよね。

その石を退けてほしいの。

それが私の願いよ。"


「だからぁ、泉ってどこよ。」


"何をいら立ってんの。

さっきからイライラしているのはわ・た・しの方。

これこれ以上、つべこべ言うと蛙に変身させるわよ。"


あぁ、ついに本性を新たしたな、この魔女めぇ。

と言うことはだ。

森を彷徨っていた少女というのがもともとは魔女で、それが怨霊となった・・・・


あっ,最悪じゃねぇか、魔女の怨霊・・・・・


"怨霊ちゃうわぁ。

私は水の大精霊。

水を司る者。

私の命の源、力の源である霊泉が大きな石で塞がれたから、大精霊としての力を失ったの。そして、霊水で溢れていたこの泉も次第に土や葉っぱが溜まってこんな荒れた窪地になり果てたの。

わかったか。

その石をどかしてくれれば霊泉も復活するし、私の力も復活して私の姿を具現化できるの。

そうすればお前も私の清楚で高貴な水の大精霊の姿を拝むことが出来て、納得するはずよ。

私が水の大精霊だということを。

わかったら、さっさと石をどかしな。"


「なるほど、そう言うことでしたか。

命の源である霊泉を塞がれてどうしようか彷徨う内に大精霊としての力を失い、霊泉を塞がれた恨みが積もり積もってちんけな怨霊様になり果てたのですね。

この辺で見かけた少女というのがちんけな怨霊になり果てる前のくたびれた精霊様と言うことなのですね。」


"まぁ、ねぇ。大体のところは合ってるかなぁ。

・・・・・・・

・・・・・・・

いや、ちょっと待てヤァ。

誰が「くたびれた」精霊じゃぁ。

それにいつの間にか「ちんけな」怨霊に代わっているんだけど。"


「まぁまぁ、漸く俺にもちんけな怨霊様、自称くたびれた精霊様の事情が呑み込めました。

褒めて下さい。」


"お前、人類一の弩阿呆だろ。

村のそう言われているんだろ。

かぼちゃ頭の役立たずだから見捨てられて、村から追い出されて、こんなところに捨てられたんだろ。"


・・・・・・


・・・・・見捨てられた・・・・・


・・・・・・


俺はちんけな怨霊様の言葉になぜか目から汗が出てきた。


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