第6話 見捨てられた者は怨霊様と出会う 後編 結局は黒ミサ → 怨霊誕生です
"はぁ~、やっと話を聞いてくれる気になったわね。
もう、200年も待ったわよ。"
「えっ、少女さんは200年間も怨霊となって、この森を徘徊してきたんですか。
随分と頑張りましたね。
俺なんてこの半年で・・・・・」
"ちょっとぉ、何を落ち込んでいるの。
膝を抱えてちゃぁ、私の手伝いなんてできないわよ。
シャキッとしなさい、シャキッと。
まだ若いんでしょ。"
200年前から延々と徘徊し続けた怨霊様と比較すれば確かに若いけど。
それに疲れたから膝を抱えているわけじゃないし。
"しっかりしてよ。
力がいるんだから。"
「力仕事ですか。
やっぱり村から生贄をかっさらって来るという荒行ですか。
俺には無理ですね。
逆襲されて俺が生贄にされちゃいますよ。
それに村の人たちを生贄にする手伝いなんてしたくないし。」
"生贄なんていらないから。
奉仕してくれればいいから
とにかく力を貸して。"
「奉仕ですか。
そうするとやっぱり怨霊さんを祭り上げる黒ミサの手伝いですね。
良いでしょう、乗り掛かった舟です、手伝いましよう。
そうするとやっぱり、生贄は必須ですよね、黒ミサのためには。」
"だからぁ、私は怨霊じゃないから。
黒ミサなんてされても元気になんないから。
生贄なんて捧げられても扱いに困るから。"
「まっ、そう言うことにしておきましょう、怨霊様。」
俺がいなくなったらゆっくりとご堪能ください、黒い祭壇の生贄を。
くくくくくっ。
"もう、その頭から私が怨霊だというのを追い出しなさい。
話が進まないじゃない。
とにかく力を貸してくれるならこっちに来て。"
「こっちったってねぇ、怨霊様。
こっちって、どっち?
姿が見えないんだけど。」
"もう、いちいち、めんどくさい、どんくさい奴ねぇ。
まぁ、200年ぶりに捕まえた奴だから我慢してやるけどね。
早くこっち来て。"
200年ぶりに捕まえた奴って、やっぱりさんざん黒ミサを手伝わせて、最後には俺も生贄にするつもりだな。
「俺の願いを聞いてくれるというけど、それは黒ミサの最後に生贄になるときに素っ裸にしてクビチョンが良いか、パンツをはいたままで心臓を一突きが良いかという程度の願いを聞いてやるっていうぐらいなんだよね。」
"手伝った後にそうしてほしいのなら、そうするけど。
君の願いというのは手伝った後で首チョンで良いのかなぁ。"
えっ、本気なんですか、それって。
やっぱり、最後は生贄に、200年ぶりの黒ミサの生贄にするつもりだったんだぁ。
"まぁ、それが君の希望ならばかなえられる範囲かな。
私の手伝をしてくれたら、そんな願いをかなえるなんてことは余裕よ。"
「手伝うのやめようか。」ボソ
"ちょっとぉ、こらぁぁぁ。
あっさり心変わりしないで。
さっき手伝うって約束したよね。
約束を破ったら・・・・・・"
「破ったら? 」
"怨霊となって、憑りついてやるぅぅぅぅ。"
あっ、本性を現した。
やはり怨霊様でしたか。
"だから、怨霊ちゃうわぁ。
もう、しょうがないわね。
手伝いの報酬の先渡しをするわね。
もう、欲張りなんだからぁ。"
報酬の先渡し・・・・・。
「それって、もらったら絶対に逃げられない。
黒ミサの生贄確定となっちゃうの。
断ることは・・・・・・」
"断るのぉ。
君は絶対この報酬が欲しいはずよ。"
「いやぁ、生贄になる権利とか、首チョンになる権利とか、怨霊の仲間になる権利とかもらっても。
怨霊になって黒魔法が使えるようになってもなぁ。
今一だよなぁ。」
"断るのぉ、怒。
ねぇ、今更、断らないわよね。怒"
怨霊様が激おこです。
これはどちらにせよ、怨霊の仲間入りが決定かぁ。
それだったら、怨霊様の願いを聞き届けて、少しでも黒さが薄い怨霊にしてもらいますか。
"ふ~っ、漸く決心が着いたようね。
手伝い宜しく。
そうだ、まずは報酬の前渡しね。
森の斜面の上の方を見てくれるかな。
ずっと奥に黄色いものが見えるでしょ。"
森のさらに奥に引き摺り込んで、黒ミサですか。
黄色いものは黒魔法の魔法陣を形作るためのろうそくの炎と言ったところか。
"じゃないわよ。
君がここに探しに来たものよ。"
俺が探しに来たもの。
山菜かぁ。
黄色い山菜なんてあったか・・・・・・。
あっ、それを食わして俺に幻覚を見せて・・・・・・・。
生贄、首チョン、怨霊誕生、わぁパチパチパチ、コースですか。
"んっもう、そんなに怨霊になりたいの。
君の願いはあの黄色の実をゲットすることだと思ったけどなぁ。"
俺が探しに来た黄色の実・・・・・・、あっ、糖柑かぁ。
「もしかして、あれの黄色の実は糖柑だというのか・・・・・」
"そうよ。
君が私の願いをかなえてくれたら、あの糖柑は君のものよ"
「っと、見せかけて黄色い怪しい薬玉、幻覚剤かなんか。
近づいたらパタンと倒れ、黒ミサの生贄、首チョン、怨霊誕生、わぁパチパチパチ、コースですね。」
"君はどうしても怨霊になりたいんだ。
わかったわ。
ご褒美に怨霊にしてあげるから、とにかくあの黄色い実が生っている樹の下に行って。
そして、私の言う通りにして。
わかったわね、怒"
あっ、ますます怨霊様を怒らしてしまった。
もう、わぁぁぁぁパチパチコースしか俺には残されていないのか。
いや待て、ここでゴネたり、もたもたしていると今すぐパチパチコースにの付けられてしまう。
とにかく言うことを聞くふりをして、一発逆転を狙うべきだな。
"そうそう、やっとわかったようじゃない。
君は四の五の考えずに私の手伝いをしてくれればいいの。
はい、あそこに行った、行った。
それぇぇぇぇぇ、走れぇぇぇ。
死ぬまではしれぇぇぇぇ。"
「怨霊さん、走って死んだら手伝いが出来なくなると思うんだけど。」
"そうだった。
じゃぁ、死ぬ一歩手前まで走れぇぇぇぇ。"
「そして、弱ったところで、黒ミサの生贄から始まるわぁぁぁパチパチコースに。
何か走る気力が無くなったんですけど。
まぁ、元からあまり気は進みませんでしたけど。」
"どうでもいいから急げってんだよ、怒、怒。"
やっべぇ~っ、怨霊様がマジで激おこだ。
俺は今すぐわぁぁぁパチパチコースに乗せられることを回避するために、あの似非糖柑の見える方向に走った。
緩やかな上りとはいえども坂を走って上るのはかなりしんどい。
その上、道ではなく、表面は乾いているが下はしっとりと濡れている枯れた下草の上を走るのだから蹴った足の踏ん張りがきかず、思うように前に進まない。
さらに森の奥にある糖柑がやけにはっきりと見える。
怪しい。
俺と糖柑の樹の間には森の木や木の葉があるはずなのに、糖柑とその生っている木だけがやたらとはっきりと浮かんだように見えるのだ。
あれは絶対、普通の糖柑じゃねぇ。
"君、良いところに気が付いたわね。
そう、あれはあるはずのないもの。
でもあそこにあるものなのよ。"
「はっ、はっ、怨霊様のおっしゃっている意味が分かんないんですけど。」
俺は慣れない地面を全力で走って、息が絶え絶えの中でそう口走った。
まぁ、着けばわかるわよ。
急げェ。
怨霊様の生暖かい励ましもあって、漸く俺は糖柑が生っている木のたもとにたどり着いた。
あんっ、でっ、黒ミサの祭壇は何処だぁ?
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