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第5話 見捨てられた者は怨霊様と出会う 前編 よりによってここで出会とは

"お~い。

そこの君、聞こえてる? "


身を翻して、山の頂に背を向けて帰ろうと思った俺に話しかける者がいる。

誰だ。

こんなところで俺に話しかけるのは。

少女のような若い女の人の声のように聞こえた。

でもなんだか声に張りがない。

山菜採りに来た村の女の子か。

こんなに森の奥に入り込んで、帰り道が分からなくなって困っているのだろうか。


取り敢えず人の言葉を話すので魔物の類ではなさそうだ。

アラクネと言う下半身が蜘蛛で上半身が人型の美女という魔物もいるとの噂はあるが、こんなところにその魔物が出たという話は聞いたことがない。


俺はその声が聞こえてきた後ろの方を振り気向いた。


「んっ? 」


誰もいない。

もしかして、これは空耳か。

山菜と糖柑の樹を探すためにかなり周りには注意していたけど誰もいなかったよな。

うんっ、やっぱり空耳だ。

こんな森の奥まで来たのに収穫が何も無くて帰るという心の重みを誰と分かち合いたくてそんな声が聞こえたんだな。


俺は一人で納得するともう一度森の出口の方に向き直って、歩を進めようとした。


"ちょっとぉ、何を無視してくれてんの。

私の声が聞こえているんでしょうに、プンスカ "


えっ。

やっぱり女の子の声が聞こえる。

間違いない。

それも俺が空耳だと思って帰ろうとしたことに怒っているよ。


俺はもう一度後ろを振り返った。

今度こそは声の主を見つけようと目を凝らして周囲や森の奥を見つめる。


げっ、やっぱり誰もいない。

森の奥の方まで目を凝らしてみても誰も見つけられない。

声は確かに聞こえた、それも俺のすぐ後ろでだ。

でも誰もいないよな。

木の陰に隠れて声を掛けてきたようにも聞こえなかったし。


・・・・・・


姿は見えず、声だけが聞こえる。


・・・・・


そういえば村の長老に聞いたことがある。

長老が小さい頃に当時の長老に聞いたという話。


それは今日のように春風が香り、心が浮き出すような日だったとか。

両親に頼まれて一人で山菜を取りに来た少女。

夢中になって山菜を探すうちに森の奥へ奥へといつの間にか入り込んでしまった。

ふと気が付くと周りは深い木々に囲まれ、見回しても同じような景色ばかり。

何処にいるのか迷ってしまった。

遠くから聞こえるオオカミたちの雄叫びにさらにパニックになったその少女は今採ったばかりの山菜の入った籠を放り投げて逃げ出した。

必死になって走ったが、闇雲に走ったため森から抜けることができない。

走っても走っても森から抜け出ることも見覚えのある景色に出会うこともかなわなかった。

辺りは暗くなり、とうとう疲れて座り込むしかなかった少女。

それを待っていた狼たち。

狼たちは付かず離れず少女が動けなくなるのを待っていたのだ。

弱いものが狩られる、強いものの糧になるのは自然の摂理。

座り込んだ少女が二度と立ち上がることは無かった。

少女が少女だという姿を二度と晒すことは無かった。


その肉は狼たちの糧に、骨は大地の糧に。

そして、残った魂は無念の思いと共に森を永久に彷徨ことになった。

少女の魂の無念の思いはやがて怨念の塊となり森の奥を徘徊する。

森の奥に入ってきた者を迷わすために。

森の奥で迷ったものを自分と同じ目に会わせるために。


その体を乗っ取るために。


うぎゃぁぁぁぁぁぁぁ、でたぁぁぁぁぁぁ。

少女の怨念だぁぁぁ。

忘れてたぁぁぁぁ。

森の奥に入ってはいけない最大の理由をだぁぁぁぁぁぁ。


この森で一番危険なのは魔物じゃなかったぁぁぁぁぁぁ。

怨念の心を持ってすり寄ってくる少女の成れの果てだぁぁぁぁ。


俺はとんでもなく重要なことを今更思い出し、膝が震えるのが分かった。

俺は少女の声に恐怖し、両腕で体を抱えて震え出す。

乾ききっていない湿った服が山の冷気を吸って体が冷えたのではない。

この世の物でないものに触れた、心を掴まれた恐怖でどうしようもなく震えるのだ。

もうだめだ、少女の怨念に食いつくされる。


神様はスキルの贈り物ではなく、少女の癒されることのない怨念を俺に押し付けるというのか。

スキルすらも与える価値のない見捨てられた者の俺には、これがふさわしいと。


いやだぁぁぁぁ、魔法が使えなくてもスキルが使えなくても、社会の片隅で何とかひっそりと人として生きていける。

でも、怨念をもらったら・・・・・・、ゾンビになるしかないじゃないかぁ。


見捨てられた者は人として生きることが許されないのかぁ。

恨んでやる、恨んでやる、恨んで・・・・


おれは生まれて来て初めて心底恨んだ。

見捨てられた者であることがはっきりしたあの日でさえも神様を恨むことは無かった。

ただ、あきらめただけだ。

恨んでやる、恨んでやる、恨んで・・・・


俺は恨み言を頭で繰り返したが、実際にできる事と言えば体が震えて力の入らない膝を地面に着けることしかなかった。


"えっとぉ、一人盛り上がっているところを悪いんだけど。

ちょっとだけ私の話も聞いてほしいんだけどなぁ。"


そう話し掛ける姿のない怨念が固まった少女。

話を聞かないという選択肢は有りなのか。

あるわけないよな。


俺は震えた声で答える。


「話を聞いたら、俺の魂を汚さないし、俺の体を乗っ取らないのか。」


"う~んっ、場合によるわねぇ。

でも、まぁ、少なくとも体を乗っ取ることは無いわね。"


と言うことはだ。

魂を汚して、ゾンビとしてこの森を徘徊させるこというのか。


「何でも言うことを聞きます。

ゾンビにだけにはしないでください。

どうしてもというのなら、そのまま地獄に送ってもらっても良いので。

魂を汚したまま肉体だけ放置はなしの方向でお願いします。」


"そんなことはしないわよ。

君がゾンビになっても、地獄に行ってもらっても何も解決しないから。"


えっ。

っと、言うことは魂も体もすっかり消し去ってしまうと言うことか。


まぁ、それだったらまだ良いかな。

もうこれ以上は苦しむ必要はなくなるんだし。


"ちょっとう、やけに諦めがいいじゃない。

君はそれで良くても、私が困るの、消えてもらっちゃぁ。

もう、こっちが消えそうなんだから。"


「えっ、怨念が消えそうなの。

誰かに浄化されそうなんだ。

それはそれで良いんじゃないのか。

この森を永久に彷徨う必要が無くなるんだし。

漸く人生に前向きになってきたと言うことだよね。」


"良くはないわよ。

本当に消えそうなんだから。

だから、ちょっと話を聞いてよ。

手伝ってよ。"


消えかかっている怨念を再燃させる手伝いをするのか。

浄化する手伝いだったら良いけど。

怨念を再燃って、恨みを増大させることだよな。

村の誰かを森に引き摺り込んで、バサッと・・・・・・

うっ、誰かを犠牲にして俺だけ生き延びるなんてことなんて出来ないよ。


"もう、誰がこんな神聖な森で人の命を奪う手伝いを頼むのよ。

まったく。

ちゃんと話をきいて、そして、手伝って。"


神聖な森って・・・・・、怨念が渦巻く森が聖なる森と言い張るんですか。

邪悪な森の間違いじゃぁ・・・・・・・


"もう、良いから黙って。

私の指示を聞きなさい。

そして、言われた通りするのよ。

いいわね。

そうしたら、私もお返しにあなたの頼みを聞いてあげるから。"


怨念の手伝いって・・・・・・・

それに怨念が願いをかなえてくれるって・・・・・・・

うんっ、これは絶対に闇の儀式を手伝えっていうことだな。

そして、叶えてくれる願いって・・・・・・・

そっかぁ、リッチになって闇属性魔法が使えるようになるってことだな。


でも、魔法が使えるようになるのかぁ。

それは何か魅力的な提案だな。

っと言うことは闇の儀式の手伝いって、やっぱり魂を怨霊に捧げるってことかぁ。


魔法を取るか、怨霊となることを拒んできれいな心のままで天国に行くか。

どちらを取るか。


"闇の儀式なんてやらないから。

君の魂なんていらないから。

手を貸してくれたら、私も君の望みをかなえてあげるだけだって。"


まぁ、怨霊の手伝いだなんて、どうせドロドロしたろくでもない話だとは思うけど、一応はその願いを聞いてみますか。

うまくいったら気が変って、あっさり成仏してくれるかもしれないし。


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