第25話 怨霊様に憑りつかれた男は三度天使に救われた
「自己紹介だっけか。
じゃぁ、まずは俺からな。
俺はメリンデ。
実家はスヨペランの郊外で農家をしていて、普段はその手伝いをしてんだ。
このロバはハナ子。
いつもはこれよりも小さめの荷車を引いているんだけど、支援物資をできるだけ多く運ばなきゃということで少し大きめの奴を借りてきてる。
あぁ、ついでにこの役立たずは"レベンデ"のクソな。
心外もいいとこなんだけど、家が隣同士だ。
まぁ、幸いなことに隣と言っても農家なんで、街の一区画分ぐらいは離れている。
窓を開けたら隣に手が届きそうなぐらい近かったら、今頃はぜってぇ家出してんぞ。」
荷車を引いているロバの頭をいとおしそうになでて、ロバのハナ子を紹介する狂暴ねぇちゃん。
それがレベンデの話に移った途端に露骨にG様を見るような表情に変わった。
"まぁ、狂暴な小娘にしてみれば家族一員のロバに対して、小僧は家に侵入したG様とおんなじ扱いで、目の端に掛かったら速攻で叩き潰すか、悲鳴を上げて逃げ出す対象なんだな。"
あぁ、これまでのレベンテへの扱い見ていると逃げ出すなんてことはなくて、叩き潰す一択なんじゃねえか。
「なんで俺の紹介がそのロバの後なんだ。
おかしいだろ。
まずは人様を紹介してからロバだろ。」
ロバより後に紹介されたのが気に入らないのか、ロバ以下の扱いだと怒る、レベンテ。
"こいつわかってねぇな。
ロバ以下どころか、G様扱いだってぇのが。"
それを今は言っちゃなんねぇぞ、怨霊様。
漸く自己紹介までたどり着いたのに、また話がややこしくなるから、いつまでたっても出発できないから。
「はん、お前がロバのハナ子より優秀で役に立って言うつもりじゃねぇよな。」
「あたりまえだろ、俺の方が役に立つぞ。
第一、この荷馬車は俺んちのだぞ。
お前んところの荷車は小さすぎて多くの荷物が運べねえからな。
どうだ、感謝しろよ。」
どうやら荷車を提供したのはレベンテの家で、それをかさに着て威張り始めた。
"狂暴な小娘も大概だか、荷車一つ貸し出しことをかさに着るなんてなぁ、小僧の方もちっちゃすぎんだろ。"
「しょうがねぇなぁ。わかったよ。
じゃぁ、こうな。
私はメリンダ。
このロバはハナ子。そして、これは隣の家から借りてきた、荷車。
最後にこいつが荷車に勝手に紛れ込んだGだぁ。」
初めに自分を指さして自己紹介、次にロバと荷車、最後にレベンテの前に右手を延ばして手で追い払うようなしぐさをしながらレベンテをG様と紹介した、狂暴なねぇちゃん。
"あぁ~ぁ、遂に「お前はG様だ」と引導を渡したまったよ。"
これはまた長くなんぞぉ。
いつ出発できるのやら。
「てめぇ、メリンダ。
よくもひとをロバどころか、荷車以下のG様扱いなんてしてくれたなぁ。」
顔を真っ赤にして怒り出した、レベンテ。
「そりゃそうさ。
荷車を貸してくれたのはお前じゃなくて、お前の家だ。
それにここに来る時なんてお前はただ荷車の後ろに座っていただけだもんなぁ。
ただ乗りしたG扱いで十分おつりがくんだろ。」
「しょうがねぇだろ。
そのロバがお前と同じで根性が腐れ果てているから俺の言うことなんて聞きゃしねぇ。
お前しか扱えねぇんだからよ。」
その言葉を聞いたハナ子が後ろ足で砂を蹴って、レベンテの顔に引っ掛けた。
"あっ、もしかしたら本当に小僧よりもハナ子の方がかしけぇんじゃねぇか。"
そっ、そうなの。
「うわぁぁ、ぺっ、ぺっ。この阿保ロバァァァァァァァァ。
人様になんちゅうことをしやがる、」
「ふっ、ふ~ん、ハナ子にはわかってんだよ、お前の能力はしょせんG様程度だっていうのがよぉ。
だから、それに相応しい扱いをしてんだよ、ハナ子はな。
わかったか、G野郎。」
うぐぐぐ、と唸って顔を真っ赤にしてこぶしを固めた、レベンテ。
"こいつ、ここまで言われて反論できねぇのか。
まさか、G様程度の脳力っていう自覚があんのか、この小僧は。"
さすがに、そうは思っていねえんじゃないのか。
はぁ、まずはレベンテの能力がどの程度なのか、本人が納得しないと話が先に進まねぇのか。
いったい、いつになったらスヨペランの街に出発できんだぁ。
"こうなったら、こいつらはほっといて別の案内人を探した方が良いんじゃねぇか。
こうしている間に何台か荷馬車が出発してんぞ。
荷馬車の御者の中にはこいつら、G様仕様の奴らよりもマシな奴がいんだろ。"
怨霊様がついに双子の妹、狂暴ねぇちゃんまでG様認定してしまった。
つまり、狂暴ねぇちゃんがG様仕様ということは、その双子の姉の怨霊様も・・・・・・
"てめぇ、シュウ、どさくさに紛れてなんちゅうことを言い出すんだ、この聡明な水の大精霊の私に向かって。
G様仕様はてめぇと、そこの小僧と狂暴小娘だろうがぁ。"
俺はまだ何も言ってねぇぞ。
"でもそう思ったよなぁ。"
あっ、あぁぁぁ、そんなことはないぞ、多分。
"なんだその態度は。
目が泳ぎまくってんぞ。"
いっ、いやぁ、これはだなぁ。
ほら、怨霊様の言う通り、他に適当な案内人がいないかなぁ、なんて思ったりして探してんだよ。
"てめぇ、適当なことを言い放ちやがって。"
本当だって。
ほらあの荷馬車の御者なんて精悍そうでいいんじゃないか。
"そうかぁ、鼻くそほじってんぞ、きったねぇなぁ。"
しっかし、ろくな御者がいねぇな。
こいつらといい。
俺は相変わらずどっちがG様の脳力かについてぎゃぁぎゃぁ騒いでいる案内人(何もすることなくクビ寸前)に目を向けた。
"ほんとにどっちがG様の脳力だなんて、お前ら両方だっちゅうの。
しっかし、こいつら以外に案内できる奴がいねぇのか、ここには。
あっ、元からG様仕様のシュウにはレベルが丁度良く合って話やすいから、こいつらが案内人の方が都合がいいか。"
やめてくれぇ、こいつらと同じ能力だなんて。そこまで低レベルじゃないと思う、多分。
"多分なのか。"
その時、再び天使が降臨した。
「はいはい、二人ともそのぐらいにして。」
手をパンパンとたたいてこの修羅場に乱入してきた、ペトラさん。
ちなみに二人というのは俺と怨霊様じゃないよね。
「私は看護師のペトラ。
そして、こっちは治療師見習い兼聖戦士見習のシュウ君。
私たちは大公家の依頼でスヨペランで蔓延している謎のはやり病を調査しに来たの。
はやり病で苦しんでいるスヨペランの街の人、その謎の病がスヨペラン以外に広かることを恐れている人、そんな人々のために早く調査を始めたいんだけど。
調査に当たって、街を案内してくれるあなた方がそんな調子じゃ、街に行くことすらがかなわないじゃない。
喧嘩するなら私たちの調査の手助けが終わってからにしてちょうだい。」
顔は柔らかいままだが口調にちょっといら立ちを隠せない、天使様。
「うっ、わかった。
調査に協力するよ。
自己紹介が終わったところで、さっそくスヨペランの街に戻るか。」
漸くこちらの話に戻ってくれた、狂暴ねぇちゃん。
「悪いが荷馬車は支援物資でいっぱいだから、荷物だけ載せて荷馬車の脇を歩いてくれるか、俺も歩きだから。
腹が立つけど、このロバはこの狂暴女の言うことしか聞かねぇから、御者台にも乗れねぇんだ。」
悔しそうにそう言ってきた、レベンテ。
「G様並みの低能は乗せねぇってかぁ。
勝手に荷台に潜り込むんじゃねぇぞ、G野郎。」
「てめぇ。」
"じゃぁ、シュウも乗れねぇ、G様仕様だから。"
うるへぇ。
この狂暴ねぇちゃんもG様仕様じゃねぇか。
当然その双子の姉の・・・・・・
"てめぇ、シュウ、なにを考えてやがる。"
また元の状況に戻ろうとしたときに、三度天使が降臨。
「はいはい、そこまで。
私たちも歩きで構わないので早くスヨペランの街に行きましょう。」
「しゃぁねぇな。
さっ、行くぞぉ。
ハナ子、頼むぞ。」
御者台に乗った狂暴ねぇちゃんがそう言って手綱でピシッとハナ子の背をたたいた。
そして、漸く荷馬車が動き始めた。




