第21話 見捨てられた者は新しい友と約束をした
「よし、シュウ。
今日の魔法の修行はこの辺でいいだろ。
私との契約が終わり、その確認でお前も魔法、ヒールが使えるようになったしな。
このままもう家に帰れ。」
日は大分傾き、空は赤く染まってしまっていた。
「しずくさん、今日はありがとう。」
「こちらこそな。
あの石の封印を解いてくれて助かったよ。」
しずくさんはニコニコと目を細めて俺の前をぷかぷか浮いている。
そんなしずくさんを見ていると先ほどの沈みかけた気持ちは軽くなり、村へ通じる道を歩く足も軽くなってきた。
「でもなぁ、しずくさんの力をもってすればあんな石ぐらい自分の水魔法をぶつけて簡単にどかせられたんじゃないの。
子供の俺の力でも押せたぐらいだから。」
「そうもいかないんだよ。」
「何か特殊な呪いでも掛っていたの。」
「まぁ、そんなところだな。
ざっくり言うと私の水属性魔法が効かない呪いのようなものかな。」
えっ、水の大精霊でも手も足も出ない呪いの石を手で直接触った俺は大丈文なのか。
「それはまったく問題ないはずだ。
水属性魔法が通らない、水の精霊が触れられないってお呪いだから。」
「そっかぁ。
俺の様なだだの村人が手で触る分には問題なかったのか。
しっかし、水の大精霊の力の源である霊泉を止めるなんて酷い奴もいたもんだよな。
しずくさんはもう少しで本当に大精霊の力を失って消えるとこだったんだろ。
いったい誰がそんなひどいことをしたんだ。」
俺の疑問を聞いたしずくさんの口元がなぜか引きつっている。
「どうしたの。
その悪さした奴に何か思うことがあるの。」
しずくさんは顔を引きつらせたまま答える。
「別にそうじゃないんだけど。」
「でも、しずくさんが消滅しかかったんだよね。
それに水の大精霊が手を出せないほどの呪いの結界を作るなんて。
いったい誰なんだ、あの石を置いたのは。」
何故か顔をさらに引きつらせるしずくさん。
そんなに怖いのか、そいつのことが。
大精霊をビビらす存在って、それこそ大魔王か。
「いや、大魔王なんかじゃないぞ。」
「じゃぁ、いったい誰があんなひどいことを。」
「まぁ、あれは友達とふざけている内にちょっと口げんかになって、それで怒った相手がプイとなってあの結界の石をあの場所にぶん投げて行ったんだ。」
「えっ、友達と口げんかの果てに消滅させられそうになったのか。
やっぱ相手は大魔王か。」
しずくさんは引きつった笑いを浮かべた。
「だから、大魔王じゃないって。
第一、友達に魔王なんていないからな。
大魔王なんかじゃなくて、あれは友達の土の大精霊の仕業というか。」
「土の大精霊、あの結界石は土の大精霊が置いて行ったのか。」
「まぁ、口げんかの末に・・・・・・」
もしやうっすいとか貧祖とか言われたのか。
「あ゛っ。シュウ。
ほっぺでヒーリングの復讐練習をすっかぁ。」
あっ、目がマジだ。
土の大精霊に・・・・ヒンソ・・・・って言われたんだ。
「でも、言われたのはしずくさんだよね。
なんで石の結界で力の源である霊泉を塞がれちゃったの。」
再び、引きつった顔をする一部が貧乏なしずくさん。
「あぁ、あいつのことをチビだの、チンチクリンだのと反論したらな。
怒って、結界の石を投げてきたんだ。
それがたまたま霊泉の湧き出るところを塞いでな。
土の大精霊が作った結界の石はさすがに私では動かせなくてな。
周りにいた水や土の精霊たちでも無理で。」
「まさか200年前に口げんかをして、喧嘩別れしたままなのか。
その原因がヒンソだのチビだのと言う、わけのわからない理由でかぁ。」
俺は呆れて開いた口がふさがらなかった。
何をしているんだ、この世の大精霊たちは。
「てめぇ、シュウ。
水の大精霊という可憐で高貴な私が何で貧相何て言われなきゃなんないんだ。
いわれのないことにはちゃんと抗議するのは当然だろ。」
それに対して相手にチビだの、チンチクリンだのと言い返したと。
それに怒った土の大精霊さんは結界の石をぶん投げて、その落ちた場所が霊泉の吹き出し口だったという訳か。
それの上でまだ仲直りしていないので結界の石を退けてもらえずに困っていたと。
はぁ、幼児並みのケンカを200年も続けているのか。
この人たち、大精霊たちは。
見掛けだけでなくお頭も・・・・ヒンソ・・・・・
「あ゛んっ、何か言ったかシュウ。
紅葉をつけて欲しいか、ほっぺに。
宿題にピーリングの復習を出してほしいのかぁ。」
この調子で口喧嘩していたわけね。
「それで友達の土の大精霊さんとは200年間そのまま喧嘩しっぱなしなのか。
仲直りできていないのか。」
はぁ~っ、と一つため息をつく水の大精霊さん。
「多分だけど、あいつ忘れているんじゃねぇのかな。
結界の石をぶん投げたこと。」
えっ。
「怒って帰ったけど、いまだに怒っているということは無いと思うんだよな。
何時もは次の日にはけろっと忘れている奴だしな。」
でも、200年間も顔を出していないんだよね。
「まぁ、友達と言っても大精霊仲間じゃ、数百年間も顔を見ていないなんてざらだしな。
200年ぐらい会わないなんてのはよくある事だぞ。」
そうなんだ。
精霊の時間の感覚ってそんなもんなんだ。
「だから、お前と契約してその一生に付き合うなんていってもなぁ、私たち精霊にとっては大したことじゃないんだよ。
言い方は悪いが契約したお前のこれからの生き方を楽しませてもらうような感覚だな。
ということだ、宜しくな。」
俺との契約に大きな負担を感じていないならいいけど。
それにしても、幾ら時間の流れの感覚が違うといってもねぇ、200年間も放置されていたなんてな。
たまたま今日、俺と出会わなかったらしずくさんは本当にそのまま消えてなくなるところだったんだな。
「だからお前に感謝をしている。
どれだけ感謝しているかの印としてだな、大精霊の私と契約を交わして名付けの儀式もしたわけだ。
いやぁ、精霊としての力の源を止められてマジで消滅するところだった、危なかったぞ。」
「土の大精霊さんは今はどうしているのか全く分からないの。」
「私の力が満ちていれば何となく居場所はわかるし、念話ぐらいはできるんだけどな。
霊泉が塞がれて力を失ってからはわからないな。」
「じゃぁ、霊泉が復活した今は土の大精霊さんの居場所を感じ取れるわけなの。」
しずくさんは目を閉じて何か深く考えているような仕草をしている。
「わからないな。」
「もしかして、土の大精霊さんの方が消えちゃったりして。」
「あいつが消滅するなんてちょっと考えられねぇな。
兎に角だ、今日の午後に結界の石が霊泉から取り除かれて漸く私の力の源が200年ぶりに解放されたばかりだ。
私の大精霊としての力がまだ完全に戻っていないということなんだろうな。」
そうかぁ、確かに、さっき解放されたばっかりだもんね。
「しずくさん。
精霊の力が早く元に戻る方法はないの。
できる事なら手伝うよ。」
「そっかぁ、うれしいことを言ってくれるじゃねぇか、シュウ。
そうだなぁ、まずはあの窪みに霊泉を溜めることだな。」
「霊泉は今も湧き続けるんでしょ。
じゃぁ、ほっとけばいいと言うことか。」
「いや、霊泉を溜めるだけじゃだめだな。
まずは200年間であの窪み、池に積もった葉っぱや土砂を取り除いて綺麗に掃除して、きれいな霊泉の池にすることが大事だな。
綺麗にした池から漏れ出た霊泉があの森の水源となり、そして、あの森の一帯を潤すことで水の大精霊としての力が蓄えられるんだな。
そうなることで完全に元の私の力を取り戻せるといったところだ。」
あの森全体に霊泉が行き渡る必要があるのか。
「じゃぁ、明日の午後はあの窪み、霊泉の池の掃除か。」
「池の掃除は今晩から私がやるよ。」
「えっ、お小さいとは言え200年もの間に溜まった枯葉や土を一人できれいにするのか。
手伝わなくて大丈夫なのか。」
「力の源を取り戻したから一晩できれいにできると思うぞ。」
「そっかぁ。
でも、何か手伝えることがあれば言ってくれよ、しずくさん。」
「ありがとな、シュウ。
じゃぁ、一つ頼んで良いか。」
「いいよ、何でもとは言えないけど、しずくさんの力が戻るなら多少の無理をしてでも手伝うよ。」
「ふふふふっ。
じゃあ、明日は池の掃除じゃなくて側に立つ祠を掃除してくれるか。」
「わかった。
明日の午前中に家の手伝いを終らせて、午後から森の霊泉に行って祠を磨くよ。」
「よし約束だぞ。
明日の午後にここで待っているからな。」
「約束したよ。
箒や雑巾を持って行よ。」
明日の再会を約束して俺は見慣れた村への道を急いで完全に日が暮れる前に家に帰ることにした。
新しい友達との約束に胸を弾ませて。
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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