第44話 若い連絡員は大司教様に再度面会した
"ふぁぁぁぁぁ、眠たくなってきな。
昼も食ったし、部屋は暖かいし。
何といっても旅で疲れた足が棒のようだぜ。"
怨霊様は何言ってんだか、はぁぁぁぁ。
怨霊様は食べることはできるけど霊泉があれば食べなきゃ食べないで平気だし、だいたい今日の昼は食べてないでしょ。
まぁ、食べるとしたら加齢臭の漂うおっさんの魂ぐらいか?
"私は怨霊じゃねぇ。
それに加齢臭の漂うものなんて絶対にいらねぇし。
加齢臭をまき散らすオヤジの魂になんて金輪際近寄りたくねぇしな。"
それに大エロ水の精霊さんは氷魔法の使い手でもあるから寒さ何てへっちゃらなんだろ。
むしろ、暖かいよりも寒い方が落ち着くんじゃないの。
だいたい旅の間はまさに怨霊のごとくプカプカ浮いて付いて来たんだから歩いてなんていないよな。
だから足が棒のようになる訳はないんだよね。
"うっせぇなぁ、足をプラプラさせんだけでも疲れんだよ。"
俺たちは昼前に聖なる泉の湧く教会に到着し、その足で教会の事務所でシャラモン大司教様に面会を申し込んだのだ。
取り次いでくれたいつもの助祭さんが、大司教様は午前中は所用で面会が出来ないため、午後2時に来きてほしいとの大司教様の言葉を伝えてきた。
俺は取り敢えず教会の食堂で昼食を済ませて、そして、面会場所である先日も大司教様と話をした小さな会議室で待つことにしたのだった。
大エロ精霊さんの根拠のない旅の愚痴を聞いているとドアをノックする音が聞こえた。
「失礼します。」
「どうぞ。」
俺が入室を促すと、例の助祭さんがワゴンを押しながら入ってきた。
「シュウ君、お待たせしています。
大司教様はもう直ぐ参られると思います。
その前にお茶の用意だけをさせてもらいますね。」
「どうぞお構いなく。」
俺の言葉にも関わらず、さっさとお茶の用意をする助祭さん。
「シュウ君はソーコスォッヘのオットカル教会の枢機卿様に大司教様のお手紙を届けに行っていたんだよね。」
「はい。
お手紙を届けて、お返事をいただいたので戻ってきました。」
「それで枢機卿様にはお会いできたのかい。」
「いえ、私がお会いしたのは枢機卿様の秘書である司祭様です。
その司祭様に大司教様のお手紙をお渡して、枢機卿様のお返事もその司祭様から頂きました。
枢機卿様は大変お忙しいようでしたので面会はかないませんでした。
実際、大司教様からのお手紙は届けたその日に枢機卿様に読んでいただいたようなのですが、お返事をいただくのに4日も要しましたので。」
「そうですか。」
助祭さんは少しがっかりしたような表情をして言葉を続けた。
「ソーコスォッヘに、まして枢機卿様へ直接出向いての御用事なんて滅多にないんでね。
せっかくの機会だからこの国の教会のトップを務めるエルネー枢機卿様に面会できたのかと思って。
枢機卿様のご様子でも聞かせてもらおうと思ったのに、残念だよ。」
「そうですね。
こんな機会はもう無いでしょうからね。
お会いできなくて本当に残念でした。」
"せっかくあの助祭を押し倒すチャンスがいくらでもあったのに、ビビッてしっぽを撒いて逃げ帰りやがって。
全く残念な奴だ、お前は。"
それって、俺が首チョンにならなくて残念だと言っているのと同意義なんですけど、怨霊様。
"大丈夫だ。
首チョンの前に助けてやっから。"
どうやって。
"お前を捕まえようとした奴を氷属性魔法で氷漬けにしてだな、空中に放り投げて、後はでポイだ。
運が悪ければ地面に衝突して粉々に。"
そんなことしたら、まるで俺が氷魔法を発動したみたいに見えるじゃねぇか。
さらに、罪を重ねた上に現行犯で確実にその場で即座に首チョンだ。
"まぁ、そん時はケライツにでも逃げ込めばいいんじゃねぇ。
王国も手を出せないだろうしな。"
一生お尋ね者になるなんて嫌だぁぁぁぁぁ。
その前に俺を捕まえようとしたのが聖戦士団の一員だったら、ケライツに逃げ込んでも関係なくなねぇ。
国境にあまりこだわりのない聖戦士団に地の果てまでも追いかけられ、結局は首チョンに。
"まぁ、そうなったら諦めろ。
骨ぐらいは拾ってやっても良いぞ。"
・・・・・・
「枢機卿様に面会が叶わなかったのがそんなに残念だったのかい、そんな表情をして固まってしまうほどに。」
"そうだよぉ、残念なやつなんだよ、見た目通りにこいつは。"
何で俺が残念な奴に認定されてんだぁ。
"定めじゃぁぁぁ。"
トントン
再びドアをノックする音が響く。
恐らく大司教様だな。
「はい、どうぞ。」
「失礼しますよ、シュウ君。」
大司教様はいつもの笑顔を顔に貼り付けて部屋に入ってきた。
「ご苦労様でした。
遠くソーコスォッヘの枢機卿様に手紙を届けてくれて。
その上、枢機卿様のお返事をいただいて来たそうですね。」
そう言ってから大司教様は俺の正面の席に来た。
「それではまずはお話を聞かせてもらえますかね。」
そう言いながら俺に椅子に座るように手で促した。
俺が座ると大司教様も椅子に座り、そして、脇にいた助祭さんが大司教様の分のお茶の用意を始めた。
「ありがとう。」
お茶の用意に対して大司教様は助祭さんに礼を言い、そして、俺の方に向き直って話を続けた。
「枢機卿様にはお会いできましたか。」
「残念ながら、大変お忙しいようで面会はかないませんでした。
お手紙とお返事の受け渡しも枢機卿様の秘書の司祭様を通していただいた次第です。」
「そうですか、それは残念でしたね。」
大司教様のいつもの笑顔に少し残念そうな表情が乗った。
「大司教様のお手紙はその日に読んでいただいたようなんですが、お返事をいただいたのが4日後になりました。」
「そんなに掛かったのですか。
4日も待たされるとはそれは大変でしたね。
その間はソーコスォッヘの街か王都でも見学していたのでしようか。」
「王都にまでは行きませんでしたが、ソーコスォッヘの街は見て回ることが出来ました。」
「この辺と違って、ソーコスォッヘは都会だったでしょう、驚きましたか。
まぁ、シュウ君は今ではこの国一番とも言われるヅビリッフェンに住んでいますからね。
特に驚くことはなかったでしょうか。」
「いえ、そんなことはありません。
ヅビリッフェンは王国の西の玄関口、交易都市としての活気が。
ソーコスォッヘは宗教都市、そして、旧都という事で歴史と伝統、すべてひっくるめて神秘的な感じがしました。」
大司教様は俺の言葉を聞いて満足するように頷いた。
「ただ、手紙を届けただけでなくソーコスォッヘの街から何か感じ取るものがあったのならそれは良かったですね。」
「はい。
お返事をいただくまでに4日という十分な時間がありましたから、初めて訪れたソーコスォッヘの街を感じることが出来たのだと思います。」
「そうですか。
しかし、お返事をいただくのに4日も掛かりましたか。
枢機卿様は今は随分とお忙しいようですね。」
少し考え込むような大司教様。
「返事を書くのが4日後になってしまったというより、4日後にしか返事を書けなかったのかもしれませんが。」
「んっ、それはどういうことですか。」
"おっ、シュウ。
あれを突っ込むのか。"
「実はお手紙を渡して次の日に返事は3日後以降になりそうだという連絡を秘書の司祭様から頂きました。」
「初めから返事を出すのに数日掛るとわかっていたという事ですか。」
「はい。」
「手紙を渡してから3日掛るという事でしたか。
その間に何かあの手紙に関係することがあったという事でしょうねぇ。」
「そうだと思います。
実は・・・・・・・」
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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