第15話 見捨てられた者は名前を晒すのを渋った
やばいなぁ、かなりやばい。
俺が眠れるというか、封印されていた怨霊様を叩き起して、災厄を振り撒くのを煽りまくっているような形になってしまったぞ。
このまま村や町に被害が出てきたら怨霊様だけでなく、俺まで稀代の大悪党、いや大魔王を目覚めさせし者と呼ばれてしまうかもしれないな。
よし、ここは怒れる大魔王様をヨイショしまくって何とか機嫌を直してもらわないと。
それよりも可能ならばもう一度あの石で霊泉が湧き出るのを抑えて、もう一度大魔王様を封印・・・・
ビッタァァァァン、バッコーンンンンンンンンン。
ビンタと脳天グーパンチだぁ。
グラグラする。
だめだぁ、立ってられない。
ちょっと待てよ。
ここでこのまま倒れれば大魔王様の怒りの最初の犠牲者は俺。
そう、晴れて俺も犠牲者の仲間入りだぁ。
怨霊様を叩き起してしまったのは俺かもしれないが、煽ってお怒りモードの大魔王様へと導いて被害を大きくした罪は問われないんじゃ。
何せ大魔王様の祟りに最初にやられてしまったんだからな。
これで大魔王を操りし者から、過失により怨霊様を目覚めさせてしまったが怒って変身した大魔王様の最初の犠牲者ぐらいには格下げされるんじゃぁないの。
よし、このままやられたフリをして倒れていればいいんだな。
それで俺の未来は安泰だぁ。
実際、さっきの衝撃で立っているのがやっとなぐらいに足が震えてきたし。
「あっ、甘いわね。
私の祝福を受けた者がその程度の衝撃で倒れられると思うの。
それに回復してやるし、ほれ。」
そう言った怒れる大魔王様が俺の方に指を向けると、何だが薄い光の膜で俺の頭が覆われた。
何が起きているんだ
あっ、頭の痛みと足の震えが消えた。
足元もふらついていない。
「どうだ、これが水の精霊の力、生命力を活性化して傷を癒す魔法、ヒーリングだ。
聞いたことがあるだろ。
どうだ、もう何ともないだろ。
わかったか、私の偉大さが。」
あぁっ、怒れる大魔王様が俺を打たなければヒーリングの必要はありませんでしたよね。
それに今ここで回復されちゃぁ、俺が怒れる大魔王様の最初の犠牲者からまた大魔王を操る者へ逆戻りじゃねぇか。
どうしてくれるんだ。
「ぶははははっ、一緒に世界征服だぁ。」
ふんぞり返って腰に手をあてて上を見上げて高笑いしたよ、この大魔王。
それに世界制服なんてうそぶいていると横にいる俺が大魔王の召使か腰巾着みたいじゃないか。
拗ねて泣いていた貧乏な精霊さんが怒れる大魔王様に変身したと思ったら、元の貧祖な精霊さんに戻ってしまったようだ。
それと共に噴き出すほどに溢れ出ていた霊泉は元の湧き水に戻っていた。
まぁ、機嫌が戻ったならいいけど。
大魔王に変身したままだったらマジで下僕と化した俺が人間社会から抹殺されるところだったよ。
ぱっこ~んっ。
ほっぺをふくらましながら俺の頭を叩く隠れ大魔王様。
「いてっ、何すんだ。
機嫌が直ったんじゃないのかよ。」
「貧祖、言うなぁ。」
大魔王になっても絶対そこは譲れない訳ね。
「まぁ、良かったよ、怒れる大魔王にならなくて。
貧乏な精霊さんのままで。」
「私はこのままこの世界をチャラにしても良かったんだけど、お前が困るようだったからな。
我慢してやったんだぞ、感謝しろ。」
いつの間に俺がこの世界を終らせるきっかけを作ったような話になってんだ
まぁ、ここで逆らって怒れる大魔王が復活しても厄介だな。
ここは大人の対応として。
「一応、礼は言っとくよ。あれがとう。」
「言葉に心が籠ってないよな。
本当にありがたいと思っているのか。
微妙に間違ってるし。」
予期せぬこととはいえ俺がきっかけで人類が滅びかけてたのを回避できたことに、礼を言ったんだ。
どっちかと言うと自分で自分に礼を言いたいぐらいだ。
決して、貧乏な精霊さんに礼を言ったわけではない。
「お前やっぱり水の大精霊である私に全く持って敬意とか信頼感というものがないよな。」
「いや、敬意はないけど大魔王様には脅威を覚えているぞ。」
「よし、話を戻して私の神聖さ、偉大さを感じる儀式をやろうじゃないか。」
えっ、話を戻すの。
またまたこじれて人類が破滅の道を一歩踏み出す怒れる大魔王様に変身しちゃったぁということになるんじゃないの。
もう、十分に貧相な精霊さんが危ないヤツだっていうのはわかったから、この辺で縁を切った方がいいよな・・・・・
「だから、もう遅いって言ってんだろ。
私の祝福を受けてその身に印がばっちり残ってるんだから。
今更、なかったことになんてできないって。
さぁ、更なる高みに登るために次の段階に行ってみようかぁ。」
あんたが張り切るほど人類の滅亡と俺の身の破滅が近づいてくるような気がするのはあながち妄想ではないですよね。
「グタグタ言ってないで早くやるぞ。」
マジですか。
本当にやるのぉ。
はぁ~っ。
まぁ、黒ミサで生贄にされた俺はいつ爆発してもおかしくない大魔王様に逆らえるはずなんてないんだけどね。
「よし。
それではまずはだな。」
また、石でも転がすのか。
それとも今度はおでこに祝福という名のビンタの紅葉を食らわせられるのか。
どっちにせよ碌なことにならない事だけは確信が持てているけどな。
「お前の名前を教えろ。」
えっ、名前を聞くのうぉ。
あぁっ、それってあれだよな。
名前を教えた瞬間に怨霊様に身も心も支配され、傀儡となってしまうやつだよな。
名前で支配される秘術。
怨霊様の傀儡となったら、意識はなくなり言われた通りに動く人形に。
ってぇ、それまずくねぇ。
この貧乏な精霊さんなら俺の体を使って口で言うのを憚れるほどの痴態をさせられるかもしれん。
「えぇと、俺が名前を教えた瞬間に心と体が支配される傀儡にされるんであれば、大魔王様の偉大さが感じられなくなると思います。
それは大魔王様のさらなる偉大さを認識しようとする今回の儀式の目的に反するというものではないでしょうか。」
俺の言葉に腕を組んでほっぺを脹らました大魔王様。
名前を教えるのを渋ったことにオコの状態の様です。
「名前を知ったぐらいで傀儡や下僕になんてできないから。
お前がそうなりたいんなら私はそれでもかまわんぞ。
それ用に別の儀式もなくはない。」
誰が好んで大魔王様の下僕になんてなりたがるか。
それは於いといて、やっぱり傀儡の儀式、真々の黒ミサと言うのが存在するんだ。
「良いから早く名前を言え。
祝福を与えた間柄なのにいつまでも"お前"呼びじゃぁ、何か他人行儀でいかん。」
いや、俺としてはこのまま他人、それよりも初めから出会ってないことにしていただいた方がなにかと・・・・・
ぱち~んっ
ほっぺに紅葉が復活。
ほんと秋でもないのに良く色付く俺のほっぺ。
「良いから名前を言えよ。」
今度はグーをして迫ってくる大魔王様。
「ええと、俺はシュウと申します。
ちんけな名前ですよね。
今すぐこんなゲス野郎の名前なんて忘れて下さいませませ。」
「お前はシュウと言うのか。
顔と同じで冴えねぇ名前だなぁ。」
さえない顔と名前で悪うございました。
そんなに言うなら今すぐ記憶からすっ飛ばしてとり除いてください。
俺は、いや、全人類がそれを望んでいます。
「シュウ、俺の名前を知りたいか。」
「えっ、大魔王様ですよ。」
「魔王じゃねぇし、だいたいそれって名前でないし。」
「では、貧祖な・・・・・」
ぱち~んっ
「貧乏な精霊さんですか。」
「精霊だけどそれって名前じゃないし。」
「もう怨霊様でLAだぁぁぁぁ、それ以上は思い付かんっ。」
「だから私は怨霊じゃねぇって何度言ったら。
だいたいそれも名前じゃねぇ。」
「もう、うだうだと。
めんどいからとっとと名前を教えて下さいよ、大魔王様よぉ。」
「んじゃぁ、シュウが私の名前を付けてくれ。」
「えっ。
今から名前を付けるの?
何で俺がぁ? 」
活動報告に次回のタイトルを記載しています。
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